第38話 タワーマンションに乗り込む

 マップアプリで調べると、真衣の家は高校のある最寄り駅から私鉄で数駅乗り継いだところにあった。


 ここらあたりでは一番大きな駅で、そこそこ施設が充実している。


 おそらくクラスメイトたちが学校帰りに友達と遊ぶ時もたいていここらだろう。


 むろん俺には縁のない話だから、あくまで、だろう……という憶測になるのだが……。


 まあ……実際、俺がこの駅に来るのは某大手アニメストアに行く時くらいだ。


 さて、ここから真衣の家はどう行けばよいのかと、俺はマップアプリを見る。


と、俺が今いる場所と真衣の家がアプリ上で一致しているのに気づく。


 エラーかなと、俺が首をかしげていると、ふと巨大に聳え立つタワーマンションが視界に入る。


 真衣の住所をあらためて確認してみる。


 ……どうやら目の前の建物が真衣の家のようだ。


 俺が住んでいる場所は一応首都圏ではあるが、かなり郊外である。


 だが、そんな場所でも最近タワーマンションが駅前に建った。


 俺にはまるで関係のない話であったから、今の今まで特段意識することはなかった。


 が……まさか、ここに行くことになるとはな。


 俺はあらためてタワーマンションを見上げる。


 それにしても、高校生が一人暮らしをする家ではないだろう……。


 やはり、真衣の金銭感覚はかなり狂っているようだな。


 ため息をつきながら、俺は駅に直結している入口から、マンションのエントランスルームに入る。


 重厚な自動ドアをくぐり抜けると、無駄に豪華な調度品や内装が目に飛び込んでくる。


 入った瞬間に、俺はなんとも自分が場違いなところにきたなと思ってしまった。


 それに……どうも値踏みをされているようで、落ち着かない。


 というか……実際、管理人らしき中年男性が俺をチラリと見て、訝しげな顔をしている……ように見えた。


 悲観的に考え過ぎる癖が原因なのかもしれないが、なんとなく俺は自分が不審者として扱われている気がしてきた。


 まあ……実際のところ、俺は場の雰囲気にのまれて、だいぶキョドっているから、傍目から見たら怪しい人間に見えるかもしれない。


 俺はいたたまれなくなって、逃げるようにオートロックのインターフォンの前に急ぎ、真衣の部屋番号を押す。


 正直、さっさとこの場から離れたい。

 

 しばしの間の後、「はい?」と、真衣の声がする。


「……あの冴木……ですけど、学校の書類——」


「唯! え! うそ! なんで!」

 

 と、インターフォン越しでもわかるほどに、真衣の大声がその場に響いた。

 

 俺は真衣のその大げさな反応に思わず驚きながら、


「い、いや……書類を先生に頼まれ——」


「唯! ごめんなさい! 少しだけそこで待っていて! 5分いや……10分ちょうだい! それだけあれば……準備は——リップを塗って……それから——ああ!! 早くしないと!」

 

 と、真衣はよくわからないことをつぶやきながら、一方的にインターフォンを切ってしまう。


 真衣は何故だが不明だが、だいぶ慌てているようであった。


 俺はてっきり真衣が担任に俺を家に寄越すように仕向けていたのだと思っていたのだが……。


 まあ……しかたがない。


 俺はやむを得ずに、ホールで待つことにした。


 ホールには大きなソファーがドンと目立つ場所に置いてあったが、どうも座る気分にはなれなかった。


 なんとなく座ったら誰かに怒られそうな気がする……。


 俺はそんな染み付いた悲観的な根性を発揮し、ホールの隅に移動し、壁にもたれかかる。


 その壁すらも、やけに磨かれていて、思わず俺は背中が汚れていないか確認したほどだ。


 豪華で綺麗過ぎるのも考えものかもしれない。


 と……俺は一生縁のないくせにそんな教訓めいたことを勝手に考えていた。


 たかが、10分待つだけだが、緊張しているためか、やけに長く感じられた。


 それに……先ほどのインターフォン越しの真衣の声がだいぶ変だったせいか、管理人の俺を見る圧はますます高まっているように思えた。


 気を紛わらすために、俺はスマホで今いるタワーマンションの家賃を調べてみることにした。 


 スマホの画面には数十万円の家賃がズラリと並ぶ。


 ちなみに、買う場合は、一億に近い金額だった。


 俺は思わずため息が漏れていた。


 こうして数値……金額……で見せつけられると、あらためて真衣と自分の境遇の差を実感してしまう。


 とはいえ、俺はますます自分の考えに確信を持つに至った。


 やはり、真衣は金に詰まっている……。

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