第26話 担任に連行されることになった……

 真衣の姿は教室になかった。


 今頃涙を流して、職員室で教師に昨日のことを報告しているのだろうか……。


 真衣は元アイドルだ。


 それに、昨日からの一連の行為を思えば、アイドルとは思えないほどのかなりの演技派だ。


 はたして俺に勝ち目はあるのか……。


 それでも、俺はなんとかポーカーフェイスを演じて、自分の席に座り、窓の外を向く。


 窓には、横にいるクラスメイトたちが俺の方を見ている姿がぼんやりと反射されている。


「なあ……聞いたか……あいつって……3年のあのハーフ美人の転校生の弟らしいぞ。あんな冴えないやつになんであんな美人な姉ちゃんがいるんだよ。全然顔似てないだろ」


「なんかあいつの周りって最近美人ばかり現れてないか。昨日の水無月さんだって……いやあれは勘違いだったのか……それにしても勘違いでも抱きしめられてたし……うらやましすぎるだろ」

 

 いつも大声で話している陽キャのクラスメイトたちが俺に聞こえないように声をひそめている。

 

 そのせいか、内容は実のところよく聞こえなかった。

 

 だが、彼らの挙動不審な態度と表情を見れば、よくないことであることは一目瞭然である。


 やがて、ホームルームになり、担任の女教師が教室に入ってくる。


 まったくいつもと同じパターンだが、担任の態度は少しばかり変だった。


 俺の方をチラリと見て、真衣の席を見て、ため息を漏らしていた。


「出欠取りますよ……って水無月さんは、休みか……」

 

 とそこで、担任がまたも意味深のため息をつく。

 

 そして、ひと通りの出欠を取り終えると、担任は「ああ……それと、冴木くん、昼休みに職員室に来てちょうだい」と淡々と言う。


 俺はその瞬間、心臓が飛び上がらんばかりに脈を打った。

 

 予想していたこととはいえ、やはりそれでも俺はショックを受けた。

 

 そして、その時点で俺は悟った。

 

 やはり……俺の予想通り事態は最悪の展開を見せていることを……。

 

 その後の授業がまったく頭に入らなかったことは言うまでもない。

 

 あっという間にお昼になり、担任が、


「……冴木くん……ちょっと」

 

 と、俺の席までわざわざ来て、席を立つよう促す。

 

 まるで逃げ出さないように見張っているように俺には感じられた。

 

 逮捕される時というのはこういう感じなのだろうか。

 

 俺はドラマでよく見る連行される犯人の姿を脳裏に浮かべながら、職員室へと向かう。

 

 てっきり職員室で話すのかと思っていたが、担任は職員室の隣にある個室に俺を通す。


「まあ……座って。冴木くん」


 担任にすすめられるがままに、俺は目の前の椅子に座る。


 本当は今すぐにでも全力疾走をして逃げたい気分だが、さすがにそうしないだけの理性はまだ残っている。


 担任は、声をひそめながら、


「冴木くん……あなたって水無月さんの許嫁——」


「お、俺は無実……でしゅ!」

 

 本当は頭の中であれこれと考えた説得力のある言い訳を話したかった。

 

 だが、俺はこの時、頭が真っ白になってしまい、言えたことといえばこれだけだった。


 いや……正確には噛んでしまって、この言葉すらマトモに発音できなかった。


「え……違うの? だけど、水無月さんは——」


「あ、あいつは……真衣は、い、いえ水無月さんは昔から……う、嘘つきで……」

 

 本人がいないところで、悪口をいうなど最低の行為だが、背に腹は変えられない。

 

 これは……言ってみれば正当防衛なのだから。


 だが、俺の言い分が果たして通じるのだろうか……。


 いや……もしや下手な言い訳は逆効果だったのかもしれない。


 担任の目から見れば、今の俺は幼なじみを影でディスっているただの最低野郎なのだから。

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