陰キャボッチの俺が、幼馴染の美少女たちに今さら迫られている件。彼女たちは元アイドルや学校一の美少女たちだが、俺は女性不信なので、もちろん彼女たちを無視する……ヤンデレ化がやばい。
第2話 あやしいのでとりあえずスルーすることにした
第2話 あやしいのでとりあえずスルーすることにした
あれから三十分後、俺は保健室のベッドに寝転んでいた。
なぜ俺がここにいるのか、少し説明が必要だろう。
先ほど起きた出来事——超絶美人な転校生が俺に抱きついてきたこと——は確かに現実に起こったことだ。
そして、それはまるでラブコメのようにありえないことのように思える。
俺はラブコメ成分を摂取し過ぎて、ついに白昼堂々と幻覚を見るようになってしまったのか……。
そう自分の頭を真剣に心配したほどだ。
だが幸いなところ俺の頭はいたって健康だ。
先ほどの件は、非常に簡単かつ明白な理由があった。
まずあの転校生……
小学生を卒業して以来、中学も別で接点が全くなかったし、すぐにはわからなかったが……。
まあ……わかってしまえば、なんてことはない。
俺はすぐに水無月真衣の魂胆を把握することができた。
もちろんラブコメのような甘い話しではない。
俺がいる世界はクソみたいな現実なのだから。
そう……リアルによくある極めてうんざりするような話しだ。
ようはこれは嘘告……俺をみんなの前でからかうための真衣の芝居だ。
既に三年間も会っていない俺に対して、なぜ真衣がこんなことをするのかは定かではない。
正直なところ真衣が何を考えているのかはわからないし、わかりたくもない。
だが少なくとも真衣が俺のことを想っている……などということは間違いなくありえない。
人……特に女性という生き物は決して信用してはいけないのだから。
俺はそのことを自分の経験から痛いほど学んでいる。
俺は3年前のある日、家族……義母と義姉……から突然見捨てられた。
彼女たちは、幼少期からずっと俺と仲が良かった……はずだった。
俺の家族は祖父を除いては彼女たちしかいなかった。
あの時まではずっと、彼女たちは、「唯はわたしたちにとって全てよ」、「唯以上に大切なものはないよ」などと言っていたくらいだ。
当時の俺は今考えても本当に愚かなのだが、無邪気にもそんな彼女たちの言葉を鵜呑みにしてしまっていた。
だが、彼女たちは、俺の祖父が亡くなった時に、あっさりとその本性を剥き出しにしてきた。
「あのうるさいじじいが死んだなら、もうあんたを養う義務はないんだよ!」
「あんたみたいなキモいガキと一緒に住める訳ないでしょ!」
そう言い放たれて、俺は家を追い出された。
彼女たちはまあ……確かに美人だったと思う。
だが、俺は感情を露わにした彼女たちの醜い顔しか今は思い出せない。
結局、彼女たちにとって、俺は単なる金づるだったのだ。
俺はその後、廃墟同然の祖父が所有していた郊外のボロアパートに強制移住することになった。
まあ……不幸話をいつまでもしていてもしかたがない。
だいたい今では俺は自分の状況をそんなに恨んではいない。
このうんざりする世界じゃ俺のようなことはよくある話しだ。
客観的に考えれば、そんなに俺は不憫という訳でもない。
ただ俺はそういう訳で人……とりわけ女性をまったく信用していない。
特に……美人は要注意である。
だから、俺は真衣に抱きつかれた時、まず警戒心の方が芽生えた。
そして、彼女を間近で見た時、俺はようやく目の前の転校生が幼馴染の真衣だと気づいた。
この事実により、俺は持前の警戒センサーを最大限に働かせた。
つまり、すぐにこれが真衣の嘘告であると理解した……という訳だ。
ついで、俺の平穏なボッチライフを守るためには、この状況をなんとか打破しなければならないと考えた。
まず俺はすくりと何事もなかったように立ち上がり、
「すいません、俺はあなたのことを知りません。人違いです」
と、真衣に向かって冷静に言った。
真衣は、俺の反応が予想外だったらしく、
「……そんな……唯……わたしのことを忘れちゃったの? ねえ嘘だよね。唯!」
と、呆然としていた。
きっと、真衣を含めてみんな、俺が馬鹿みたいに過剰な反応をして、ドラマティックな展開になることを期待していたのだろう。
中には授業中にもかかわらず、既にスマホを俺と真衣に向けている輩までいる始末だ。
だが、クラスメイトたちは完全にその期待を裏切られたらしく白けた空気が教室内に漂っている。
「なんだ……人違いか……」
「まあ……普通に考えてそうだよな」
甘かったな、真衣。
俺はもう三年前のナイーブで騙されやすい人間じゃないんだ。
どうせ俺が馬鹿みたいに喜ぶとでも思っていたのだろうが……。
俺はもうお前のことなど……いやリアルの女性のことなんて絶対に信じないと固く誓っているのだ。
これで……俺を喜ばせて、あとで盛大にハシゴを外して貶めるというお前の嘘告作戦は大失敗だ。
真衣があまりにも呆然自失としている姿に思わず俺は顔が緩みかけてしまった。
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