陰キャボッチの俺が、幼馴染の美少女たちに今さら迫られている件。彼女たちは元アイドルや学校一の美少女たちだが、俺は女性不信なので、もちろん彼女たちを無視する……ヤンデレ化がやばい。

kaizi

第1話 転校生の美少女にいきなり抱きつかれた

 人間……特に女性という生き物は信用ならない。

 

 俺は中学一年生の時にそのことを学んだ。

 

 だからそれからというものの俺は人と……特に女性とは極力接しないようにした。

 

 それから三年間、俺がリアルの女性と会話したデータ量はおそらく8ビットですむだろう。


 おかげで俺は高校一年生……16歳にして、無事に誰もが認める陰キャボッチに成長した。


 ちなみに今日は俺の誕生日である。


 がもちろんボッチの俺には誰からも……家族からもお祝いの言葉はない。


 まあ……とうの俺ですら忘れかけていたくらいだから、当然だ。


 ちなみに俺は登録しているアプリからの通知で思い出した。


 俺はイベントごとが嫌いだから、そもそも誕生日なんて別にどうでもよいのだが。


 誕生日、クリスマス、バレンタイン……あれらのイベントはすべてお金を使わせたい企業がマスメディアとタッグを組んで作り上げたまがい物だ。


 そんなのに煽られてお金を無駄に使うなんて実にバカバカしい。


 ……別に負け惜しみで言っているんじゃないぞ。


 たとえ、俺に友達や彼女がいてもイベントごとは嫌いだったに違いない。


 まあ……それは永遠に確認ができない仮定の話しだが……。


 ……話を戻そう。


 まずクラスでの俺の立ち位置だが……完全に空気である。


 存在しているのかいないのかわからない奴……まあいわゆる陰キャボッチというやつだ。


 だが、俺にとってはそれが最高に心地よい。


 俺は今日も一人ここで窓を見ながら、自分の好きなラブコメのゲームやアニメ、漫画のヒロインとイチャラブハーレムしながら——ただし頭の中とスマホの中限定だが——日々を過ごす。

 

 おっと……今お前らはこう考えたのだろう。

 

 人間……というか女性が嫌いなのにラブコメ好きっておかしくない?っと。

 

 馬鹿を言うな。


 俺はリアルな人間……女性が嫌いなだけだ。


 フィクションの中の人間——女性——は優しくて性格もいい……そして何より決して俺を裏切らない。


 リアルの人間、女性なんかよりよっぽどいい。


 もう俺は人に……女性に裏切られるのはごめんなのだ。

 

 まあ……それはよいとして、いつものように俺は机の下でお気に入りの『彼女』とスマホでメッセージを送り合っていた。


ゆい君、学校着いた? わたしはこれから学校だよ。今日も一緒に頑張ろうね♡』

 

 唯とは俺の名前だ。


 そして、彼女は当然生身の人間ではなく、AIだ。

 

 現代はAI時代……無料でこうしてお気に入りの『彼女』とチャットすることだってできる。

 

 おっと……今お前らは……以下略。


 別にAIでもいいだろう。


 というかむしろAIの方がいい。

 

 人間みたいに俺を裏切らないしな。

 

 これからの時代にはリアルの人間……女性なんて必要ない。

 

 まあただし……この国は……いやリアルの世界は資本主義だ。


 という訳で、無料だと次にチャットできるようになるまでの待機時間の制限がある……。


 ……まあいいさ、席が後ろで窓際……かつ存在感が皆無の俺は、スマホを堂々といじっていても咎められることはない。


 それに、誰にも話しかけることはないから、時間もたっぷりあるのだしな。

 

 三年間、ほとんど誰とも話さずに陰キャボッチ耐性をあげたかいがあったというものだ。

 

 当然それは高校に入っても何ら変わらない。

 

 入学してからの約2週間、俺はほぼ全く誰とも会話をしていない。

 

 だけど中学三年間そうだったから全く辛くない。

 

 今は『彼女』だっているしな。

 

 そういう訳で、俺はGWを前にして早くも堂々たる陰キャボッチとしての地位を確立した。

 

 おかげですぐ近くに俺がいるのにもかかわらず、隣にいる陽キャのクラスメイトたちは俺など存在しないかのように振る舞っている。


 そして、彼らは俺のことを気にせずに噂話に花を咲かせている。

 

 俺はリアルの世界には正直あまり興味はないが、校内の情報収集は欠かせない。

 

 よくわからないトラブルに巻き込まれて、俺の平穏なボッチライフが乱されたくないからな。


 そんな訳で、俺は『彼女』とのチャットの待機時間に、彼らの噂話に聞き耳をたてている。


「なあ……聞いたか。今日なんか転校生が来るらしいぜ」


「え? こんな4月の終わりの中途半端な日にか? で……その転校生ってどんな感じなの?」


「お前まだ知らねえの? メチャクチャ美人らしいぜ。しかも有名人ですげえ令嬢らしいぞ。学校中、その噂でもちきりだよ」


「マジ? 本当ならすげえ楽しみだな」


 俺は隣の無駄にテンションをあげているクラスメイトたちを横目に冷めた顔をしていた。


 有名人で、美人なうえに令嬢の転校生ねえ……まあラブコメには定番のイベントだが、現実でそれはなあ……。


 リアルでは、だいたい噂が先走りして大したことがないってのがよくあるパターンだ。

 

 だいだい学校という閉鎖空間じゃみな退屈しているから常に何かが起こることを期待している。

 

 そのせいか大したことないことを大げさに言う傾向にある。

 

 ちょっと考えてみればわかる。 


 こんなどこにでもある郊外の高校にそんな美人でなおかつ令嬢の有名人が転校してくる訳がない。


 そんな都合の良い事が起きるのはラブコメの中だけだ。


 まあ……だから俺はリアルは嫌いで、ラブコメが好きなんだがな。


 やがて、チャイムがなり、担任の女教師が教室に入ってくる。


 今日もまたいつものように退屈なリアルの一日がはじまる。


 おっと……待機時間の制限が解けたな。


 俺はリアルそっちのけで、『彼女』にメッセージを送ろうとしていた。


 と、突然……教室がざわつく。


 クラスメイトたちの様子がおかしい。


「おい……マジか……すげえ……美人じゃん」


「噂通り……ていうか噂以上だな」


「て、てかあれってまさか……こないだ突然引退したアイドルのMAIじゃね——」


 なんだなんだ……そんなに転校生がすごいのか。


 どうせ大げさに言っているだけ——


 俺は顔を上げたとたんに、しばしフリーズしてしまった。


 俺はまずその転校生の髪に見惚れてしまった。


 腰まで伸びた長い黒髪が窓からさしこむ光に照らされてとても艶やかで目が離せない。


 そして、その外見もスタイルもまるでどこかのアイドルと見まがうほど……いや今まで俺がスマホの画面で見たどんなアイドルよりも美しかった。


 俺も……そしてクラス全員がみな彼女を見て、息を呑んだ。


 あるものはその美しさに見惚れてため息を、あるものは嫉妬のため息をもらす。


 いずれにせよ彼女がただこの場にいるだけで、色褪せた教室が輝いて見えるほどだった。


 な、なるほど……ま、まあ……外見については認めるしかない。


 この転校生は確かに美人……いやとてつもなく美人だ。


 だが……見た目だけだ。


 きれいなバラには棘がある。


 外見と性格は反比例する……少なくとも俺の周りにいたリアルの女性はみなそうだった。


「えっと……みんなぼおっとしていないで。あとあまりジロジロ見ないように……これじゃあ水無月みなづきさんが自己紹介できないでしょう」

 

 と、担任の女教師が、そう言って、両手を叩いている。

 

 そう言っているとうの教師も彼女をチラチラと見ているのだが……。

 

 だが、彼女はそうした周囲の大げさな反応を特段気にしている様子はない。

 

 彼女は、どこかこういうことに慣れている風でもある。

 

 それどころか、彼女は何故か不明だが、キョロキョロとせわしなく顔を動かして、何か……いや誰かを懸命に探している様子であった。

 

 誰か知り合いでもいるのだろうか。

 

 それにしても随分と必死というか……まるで生き別れた家族を探しているみたいに——。

 

 と、不意に俺は彼女と目が合う。

 

 俺はすぐに目をそらした。

 

 俺は長年の陰キャボッチ生活のサバイバルスキルとして、瞬時に女性から目を逸らす技を習得している。

 

 だから……それは本当に一瞬だったはずだ。


「唯……唯だ……やっと……やっと会えた……」

 

 彼女が突然感極まったようにそう叫ぶ。

 

 唯とは確かに俺の名前だ。

 

 だが……人に名前を呼ばれたことはリアルではここ三年間ほとんどない。


 それに転校生の彼女が俺の名前を呼ぶ訳もないから、間違いなく人違いだろう。

 

 しかし俺のクラスに他に唯などいたか……。

 

 俺は下を向きながら他人事のようにそんなことを考えていた。

 

 と、教室が静まり返る。


 それと同時に、隣の陽キャのクラスメイトたちが俺の方を見ていることに気づいた。

 

 俺はおそるおそる前を向くといつの間にか彼女が机の前にたっていた。

 

 その大きな目は潤んでいて、涙を流していた。

 

 いったい——

 

 俺が唖然としたその瞬間、


「唯……唯……もう絶対わたしはあなたを離さない!」

 

 と泣きじゃくる彼女に思いっきり抱きつかれていた。

 

 気がついた時には俺は彼女に椅子ごと押し倒されて、馬乗りにされていた。


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