第3話 3年ぶりに再会した超絶に可愛くなっていた元アイドルの幼馴染が冴えない陰キャボッチの俺に突然抱きついてきた理由は何か?

 ……勝ったな……。

 

 いや……いけない……いけない……油断は大敵だ。


「……こんなのってないよ。やっと……やっと唯と……16歳になった誕生日に会うことができたのに……」

 

 真衣はその場でペタリと床に座り込み、うわ言を呟いて、すすり泣いていた。

 

 俺はその様子を見て、思わず動揺してしまった。

 

 真衣の振る舞いはあまりにも大げさであったが、とても演技とは思えない。

 

 それに……真衣のやつ……俺の誕生日を覚えていてくれたのか?

 

 俺ですら忘れていたのに……。

 

 俺は真衣の泣きじゃくる姿を見て、思わず心がチクリと痛くなってきった。

 

 同時にほのかな期待も俺の心に湧き上がってくる。

 

 まさか……本当に真衣は俺のことを……。

 

 い、いや騙されるな……こんなの真衣の演技に決まっているじゃないか。

 

 と……そんなことを思っていた時、急に右肩に鈍い痛みが走った。

 

 真衣に押し倒された時に、変な風にひねってしまったらしい。

 

 ……すごい勢いで抱きつかれたからな……。

 

 まさか……真衣のやつ……俺に怪我でもさせようと目論んでいたのか。

 

 いや……いくらなんでもさすがにそこまではしないと考えたいが……。

 

 だ、だが……これはちょうどいい。

 

 ひとまずここは退散した方がよいのかもしれない。

 

 俺はこれ幸いとばかりに、


「せ、先生……すみません、さっきちょっと肩をぶつけたようで」

 

 と言い、この場を離脱し、保健室へと一時撤退することにしたのだ。

 

 それからしばらくして、俺は保健室のベッドに寝転がり、両手を組んでいた。


 ひとりになることで、頭を冷静にすることができた。

 

 俺は天井を見上げて、静かな保健室の中で、先ほどのことをじっくりと考える。


 ……やはりアレは真衣の演技だ。

 

 あらゆる要素を加味してどう合理的に考えても間違いなくそうだ。

 

 真衣とは確かに幼馴染だし、3年前までは確かに仲が良かった。

 

 だが、俺は家族から縁を切られて、家から追放された。

 

 そして、着の身着のままで、遠くのポロアパートに追い出されて、学校も転校させられた。

 

 それ以来、真衣とは一切連絡を取っていない。

 

 まあ……そもそも当時俺等はスマホを持っていなかった。


 だから、連絡先を知らなかったし、俺も真衣もそもそも連絡の取りようがなかった。

 

 ともかくそんな別れ方をした真衣が3年も経った今になって、涙を流しながら、俺と会いたかったなどと言うなんて……。


 どう考えても、何か裏があるとしか思えない。


 しかも真衣は……とんでもなく美人に成長していたというのに……。


 ところで、リアルでは幼なじみで仲の良い男女は滅多に見ない。


 幼なじみがいたとしても、せいぜい互いの両親から、「◯◯ちゃんはどこどこの高校に言ったのよ」と聞く程度の関係である。


 大抵思春期を迎える中学生くらいになると、男女ともに互いのスペックがわかる。


 まず、そこで値踏みされて、疎遠になる。


 俺が強制的な転校によって真衣と離れ離れになったのは中学になってすぐ——ちょうど今頃——だ。


 あの時はまだ俺と真衣は仲が良かった。


 今考えれば信じられないが、互いの部屋を毎日のように行き来していた気がする。


 しかし、真衣の成長っぷりを見ると、あの時縁が切れてよかったのかもしれない。


 俺のような陰キャボッチと真衣のような超絶美少女では到底互いのスペックが合わない。


 遅かれ早かれ俺は真衣に見捨てられていただろう。


 幼馴染の彼女がとてもかわいい美少女になり、かつその幼馴染が冴えない自分のことをずっと想ってくれている………。


 ラブコメにありがちな黄金展開といえる。


 だが、リアルでは絶対にそんなことは起こり得ない。


 まあ……だからこそ、せめてフィクションの中ではと、そんな儚い夢を見る俺みたいな男が多い。


 だから逆説的にラブコメではそういう展開が多用される。


 ……ちなみに俺はそういうありがちな設定は大大好きである。


 だが、俺は、幻想は幻想だとわきまえている。


 リアルでは甘い話にはたいてい裏がある。


 街を歩いていて、美女に突然声をかけられれば、怪しい話の……宗教か詐欺の……勧誘と相場が決まっている。


 では、3年ぶりに再会した超絶に可愛くなっていた元アイドルの幼馴染が冴えない陰キャボッチの俺に突然抱きついてきた理由は何か?


 答えはおのずと明らかである。


 真衣の具体的な陰謀はわからない。


 だが、俺にとってよくない話であることだけはわかる。

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