第30話 栞ねえ現る

 確かに昔は綺麗だと思っていたけど、思い出補正で実際は——。


 と、その時、部屋の扉がノックされて、誰かが入ってきた。

 

「あ! 睦月さん、ちょうどよかった」

 

 俺は担任のその声と同時に後ろを振り返る。

 

 そこには金髪の長い髪をなびかせた制服姿の美少女が微笑んでいた。

 

 特徴的な髪の色だからすぐにこの美少女が栞ねえだとは理解した。

 

 だが、俺の心はその現実を受け止めきれずにいた。

 

 本当に栞ねえが……ここに……。

 

 いや……というか栞ねえってこんなに美人だったのか……。

 

 俺は3年前までの栞ねえしか知らない。

 

 栞ねえの外見が当時とまったく変わっているという訳ではない。

 

 確かに、3年が経ち、栞ねえの外見はより大人びたものに変わっていた。


 当時、残っていたあどけなさは今は全く感じられない。

 

 栞ねえは確かに昔から綺麗だったと思う。

 

 ただ、俺はその時まだ小学生だったし、栞ねえもまだ女性というよりは子供だった。


 それに、俺の主観ではあくまで彼女は優しい姉のような認識で、異性として意識したことはなかった。

 

 そして、何よりも俺はあの時以来、過去を……栞ねえのことを……思い出すことを封印していた。

 

 だから、俺が栞ねえを見た第一印象は、まずもって驚きだった。

 

 栞ねえは、一見すれば、どこかの外国の街角から飛び出してきた美少女のように見えた。

 

 背丈もかなり高くて170センチ近くあり、何よりもスラリと伸びた長く綺麗な足に思わず目を奪われてしまう。


 そんな外国の美少女が、制服を着ている姿は、どこかコスプレをしているように見える。


 俺は、学校にいるのにも関わらず思わず違和感を覚えてしまうほどだ。


 ……なによりも、制服のブラウス越しから見てわかるほどに栞ねえはグラマラスな体をしている。 


 ……言い訳をさせてもらうならば、俺は別によこしまな目で栞ねえを見ようと思っていた訳ではない。


 俺が栞ねえの妖艶な体を見てしまったのにはちゃんと理由がある。


 日本人の標準サイズを基準にしているからなのか、栞ねえの制服はややサイズがあっていないように見えた。


 そのため、俺は違和感を覚えて、栞ねえの胸元を思わず見てしまった……という訳だ。


 現に俺は栞ねえの柔らかそうで大きな胸元、とてもしなやかにくびれた曲線美を数秒……いや数十秒ほど見たあとすぐに視線をそらした。


 話しがそれてしまったが、ようするに栞ねえはあまりにも美人に成長していた。


 俺が目の前で栞ねえを見ても現実とは思えずに、口をぽかーんと開けてただ彼女を見ることしかできないほどに……。


 俺の昔の記憶の中……子供の頃……の栞ねえとはあまりに違っている。


「先生、唯くんも呼んだんですね。フフ、唯くん。久しぶり」


 栞ねえは俺を見ると、そうにこやかに微笑み、手を振る。


 栞ねえの反応はあまりにも普通だった。


 特段俺を見て驚いている様子は全くない。


 色々な意味で、いまだに言葉を失うほどに驚いている俺とは対照的だ。


「どうしたの? 唯くん、まるで幽霊を見ているような顔して、そんなにお姉ちゃんがいるのが驚きだったのかな?」


 栞ねえは3年前と同じように俺のことを子供扱い……いやまるで本当の弟のように話しかけてくる。


 だが、俺は栞のその様子を見て、どこか演技じみたものを感じた。


 なんとなく栞ねえは、本心で言っているという気がしない。


 どこか作り物のような笑顔に見える。


 だいたい栞ねえは自分のことを「お姉ちゃん」などと言わない。


 それに俺と別れた時は既にそういう扱いをされることをけっこう真剣に嫌がっていた。


 栞ねえの圧倒的な美貌に舞い上がっていた俺は、その違和感からいくばくか冷静になった。


 同時に俺は栞ねえになんともいえない不信感を抱いた。


 栞ねえは何かを隠している……のではないか。


 要するに……栞ねえも真衣と同じように何か俺によからぬ目的を持って近づいてきたのではないか。

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