第24話 真衣サイド-07-

 でもわたしの決意は揺るがない。


 わたしはもう二度と唯の側を離れないと誓ったのだから。

 

 幸いわたしには3年に及ぶアイドル活動で蓄えたお金があった。

 

 数年間二人で……唯と生活できるだけの蓄えは十分ある。

 

 わたしは当然ながら、唯の話は両親にはしなかった。

 

 単に自立していくために今から一人暮らしを経験したいと告げた。

 

 そして、その生活費は全てがわたしが出すということも。

 

 わたしの執念……いや決意が伝わったのか、両親は最後にはしぶしぶ納得してくれた。

 

 両親の同意も得たところで、わたしは転入準備を本格的に進めていった。

だが、家探しにはだいぶ苦労した。

 

 正直なところ今の唯がどんな家を好むかわたしにはわからない。

 

 13歳の時までの唯の好みはわたしのノートにカテゴリー別に細かく記録している。

 

 唯が好む食べ物、髪型、そして異性としての立ちふるまい……。

 

 だけど、3年も経てば唯の趣味趣向も変わっているだろう。

 

 わたしはあらためて残酷な月日の移り変わりを実感した。

 

 結局、わたしは無難な選択——高校に近い駅前のマンション——に決めた。

 

 部屋の内装などは唯と暮らし始めてから、彼の好みを聞いて決めればいい。

 

 わたしが10年間集めた大切な唯関係のコレクションは散々悩んだあげくに実家に置いていくことにした。

 

 これから、わたしは唯と暮らすのだから、もう必要はない。

 

 だけど……さすがに全部を置いていくことはできずに一部は持ってきてしまった。


 それに、一部といっても、結局それなりの量になってしまったから、部屋一つ潰す羽目になってしまったけれど……。


 『唯抱きまくらversion3』も持ってきてしまった……。


 本物の唯に会えるからもう必要ないし、さすがに唯に見つかったら不味いと思ったけれど……。


 まあ……唯のコレクションとともに部屋に鍵をかけて隠せば大丈夫だろう……。


 二人で暮らすにはだいぶ広い間取りのマンションだし……。

 

 とにかくこれらの引っ越し準備やら何やらをしていたら、いつの間にか時間はあっという間に過ぎていった。

 

 そして、気づけばわたしは唯と再会する日——唯の誕生日——の前日を迎えていた。

 

 唯が好む髪型、化粧、立ちふるまいを考えて、色々と明日の身支度をしていたら、いつの間にか夜になってしまった。


 そして、夜になっても頭の中は唯のことでいっぱいでまるで眠れない。


 明日、唯に会うのだから、万全の状態で彼に会いたいのに……眠れない。


 幸い徹夜ということにはならず、わずかな睡眠は取れた。


 鏡の前に立ち、顔をみても少しクマがある程度でこれは化粧でなんとか隠せるものだった。


 思わずほっとため息をつく。


 唯が通っている高校の門をくぐり抜けて、職員室へ向かう。


 担任の教師が色々と説明をしてくれたが、正直なところ緊張で耳に入ってはこなかった。


 大きなライブの前——武道館や紅白——でもこんなに緊張したことはない。


 胸を脈打つ心臓がバクバクとなっているのがよくわかる。


 わたしは唯と再会した時の彼との会話を頭の中で完璧にシミュレーションしていた。


 それこそもう何回も何十回も何百回も——。


 言うセリフも立ちふるまいも何度も頭の中で繰り返していた。


 唯が好む話し方、声量、仕草……。


 わたしがこれまで練習してきたどんな曲の振り付けよりも、長い時間をかけて体に染み込ませてきた。


 今日はわたしが立つ最高にして至高のステージ……そして客は唯ただ一人なのだ。


 あくまで冷静に、押し付けがましくなく、唯とさり気なくまずは会話する。


 そのつもりだったのだけれど、教室に入って、唯を見た途端、わたしの頭の中は真っ白になった。


 唯がいるとはわかっていた……でも実際この目で彼を見た時のこの感覚は——。


 それを言葉にするのは難しい。


 至高の喜び、恍惚、高揚、幸福感……。


 わたしはあらゆる感情が瞬時に沸き起こり、胸がいっぱいになった。


 そして、わたしはそれらの感情に突き動かされて、ただ唯の胸に飛び込んだのだった。

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