第34話 二人の美少女の陰謀を暴け

 教室に戻って、自分の席に座る。


 まだ昼休みの時間は残っていたし、何も食べていなかったが、お腹は減らなかった。


 そもそも、その時になって、ようやく俺は今日自分がいつもの昼飯……おにぎりセット……を持ってきていないのに気づいたのだった。


 今日は色々なことが起きすぎた。


 真衣……そして栞ねえ。


 忘れかけていた過去が突如として蘇ってきたのだ。


 結局、俺は漫然とただ席に座って、ぼおっと外を眺めていた。


 やがて、チャイムがなり、教師がやってきて、授業がはじまる。


 だが、それでも俺の頭は未だに上の空だ。


 いや……俺の頭の中はただ一つのことに集中し過ぎていた。


 もちろん先ほどのこと……栞ねえのことだ。


 真衣との問題も気になるが、今は栞ねえのことで頭がいっぱいだった。


 なぜ栞ねえは今さら俺の前に……いやこの高校に転校してきたのだろうか。


 俺とは全く関係なく単なる偶然でこの高校に来たのか。


 確かにそういう偶然もありうるが……先ほどの態度を見ると、それはない気がする。


 ということは何らかの目的があり、俺に接触するために、転校してきたと考えるのが妥当だろう。

 

 しかし……いったい何のためにそこまでして俺に会いにきたのだ。


 (可能性1)……栞ねえは、純粋な善意から、仲の良い幼馴染の俺のためにわざわざ転校までして、会いにきてくれた。


 確率……0.01%(一万分の一)


『唯くんはわたしにとって、とても……とても大切な人なの』

 

 昔の栞ねえとの記憶がまたも脳裏をちらつく。

 

 人は自分にとって都合のよいことを無意識に考えてしまう生き物だ。

 

 それがどんなにありえないことであっても……。

 

 実際、俺はあの人たち——義母、義姉——に捨てられてからも、数ヶ月くらいずっと彼女たちが俺をまた迎え入れてくれると根拠もなくただ信じていた。

 

 むろんあの人たちが俺の前に現れることはなかった。

 

 反対に、一ヶ月後には最低限の生活費すら送金が止まった。

 

 人は追い詰められると、より一層起こりもしない希望にすがる。

 

 だから、俺はその時ですら、都合のよい理屈をつけて、あの人たちが戻ってくる可能性を信じていた……いや信じたかった。


 当然の結果として、リアルの世界でそこら中で起きているように、俺の希望は叶わなかった。

 

 人々が欲望する都合のよいことが叶うのは漫画やアニメ、小説の中だけだ。

 

 だからこそ、俺はリアルではなくフィクションの話しが好きなのだ。

 

 そして、俺はそんな夢物語をリアルで信じるほどにはもうナイーブじゃない。


 (可能性2)……栞ねえは何かよからぬことを考えていて、俺に接触してきた。

 

 確率……99.99%


 冷静になって、客観的に考えてみろ。

 

 三年前に俺と離れ離れになった栞ねえ……いや睦月栞が俺に会いに来る理由は何だ?

 

 栞ねえにとって俺はもはや……いやもともと大した存在ではないはずだ。

 

 それなのに、わざわざ転校してまで俺の元にきた。

 

 栞ねえにとって、よほどのことであるに違いない。

 

 そして、もう一つ考慮しなければならないのは真衣の存在だ。

 

 栞ねえと時を同じくして真衣が俺の前に現れた。

 

 俺は真衣がこの高校に来たことは偶然であると今まで考えていた。

 

 しかし、それは間違っていたのかもしれない。

 

 いくらなんでも、全く同じタイミングで、真衣と栞ねえが俺の高校に転校してくるのはどう考えても不自然だ。


 俺の高校は都内有数の大人気の私立の進学校なのではない。


 関東郊外の中以下のただの県立高校だ。

 

 そんな高校にあえて転校してくる理由は多くはない。

 

 要するに彼女たちの転校は偶然ではない。

 

 とすれば、真衣と栞ねえの目的は共通のはずだ。

 

 そして、その目的は俺に関係することだ。

 

 成熟して誰もが振り返るほどに美しくなった真衣と栞ねえ。


 そんな超絶ハイスペックな彼女たちにとっては、陰キャボッチの低スペックの俺は本来であれば見向きもしない人間のはずだ。


 それなのに何故彼女たち……とんでもなく綺麗になった美少女たちが、転校までして、俺に会いにきたんだ?


 何か企みがあるのは間違いない。


 こうなるともう単なる俺のことをからかうとか嘘告というレベルの話しではないだろう。


 だがいったいそれは……。

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