第46話 真衣サイド-09-
だけど、我慢ができなかった。
別にわたしは唯以外の誰かにどう思われようともどうでもいいのだから。
でも……唯にとってはそうではなかったのだろう。
だから唯はあんな態度を取ったのかもしれない。
わたしのことを知らないなんて……。
いま思い出してもわたしは胸が締め付けられるような気持ちになってしまう。
わたしはあまりにも悲しくて人がいるにも関わらず大泣きしてしまったほどだ。
水無月家にふさわしい者として、人前で感情など出してはならない……。
わたしは幼少期から『家』にそう厳しく躾られてきた。
だから、わたしが人前であんな風に感情を露わにするなんて、自分自身でも驚きだった。
わたしが感情を出すのは唯の前だけ。
擬似的に唯に見てもらっていると思えれば、ライブでも感情を作ることはできた。
けれども、それはあくまで演技と割り切った感情で、本物のそれとは違う。
とにかく……あの言葉はそれだけわたしにとってショックだった。
一瞬、目の前が真っ暗になってしまったほどだ。
だけど少し時間をおいて冷静になって考えれば、少し落ち着くことができた。
唯がわたしのことを忘れるはずはないのだ。
彼はわたしのことを深く愛しているのだから。
だから、唯のあの不自然な態度は照れ隠しだとすぐにわかった。
もしかしたら、人前で目立つようなことをしたわたしに対して唯は少し怒っているのかもしれない。
唯の心からの本心ではないとわかっていてもわたしは不安になってしまった。
なにせ、三年ぶりの再会なのだ。
それに、唯はその後も終始わたしにたいしてそっけない態度をとってきた。
正直にいって、わたしは唯の態度に少し失望していた。
唯が恥ずかしがり屋で奥手なのは知っている。
それは唯の数多くあるチャーミングポイントの一つだ。
でもそれでも、少しは気持ちを言葉で……態度で……示してほしい……。
そう思ってしまうのは、まだわたしが子供だからなのだろうか。
いや……どんな大人の女性でもそう思うはずだ。
それに……わたしだって、だいぶ恥ずかしい気持ちになりながらも、唯にあんなことを……したのだから。
女性からあまりそういうことを……露骨なアプローチをするべきではないとはわかっている。
それでも3年ぶりに唯と出会い、唯が側にいると思うともう止められなかった。
それにわたしは一抹の不安があった。
唯の周りには昔と同じように女が大勢いる。
学校に通っているのだから、それはある意味で当然だ。
けれども、その事実はわたしの心を不安にさせた。
わたしはこの三年間唯の側にいられなかった。
つまり、昔のように女狐たちから唯を守ることができなかったのだ。
もしかしたら、唯をたぶらかしている女狐がいるのでは……わたしはその疑念をぬぐいきれなかった。
だから、わたしは唯の家に行った。
話には聞いていたけれど、唯の家は酷く古びていた。
周辺の環境もお世辞にもよいとはいえなかった。
唯の家にいく途中に、胡乱な男たちから何回か声をかけられた。
もちろん全員すぐに地面に叩きつけてやったが……。
『家』の教育の中には当然ある程度の武術課程もある。
それにしても……こんな場所……とても唯が住むようなところではない。
こんなところに唯は三年間も住んでいたの……。
そう思うと、わたしはまた酷く胸が締め付けられた。
唯をこんな状況から救い出せなかった自分に無性に腹が立った。
気づいた時には思わず悔し涙が目に溜まっていた。
そして、唯に会うというのにわたしは泣き腫らした顔になってしまっていた。
わたしはそれでも唯の家を見て、あらためて決意を新たにした。
そう……いますぐにでも唯をここから解放して、唯を新居に迎えようと……。
家に行くまでに感じていた不安は唯の部屋に入ってからすぐに払拭された。
部屋には女狐の痕跡もなかったし……。
それになにより、唯は部屋の中で、わたしに情熱的なアプローチをしてくれた……。
わたしは唯に床に押し倒された時の情景を思い出す。
唯の熱い目線……そして、男らしい二の腕……彼の吐息。
ああ……唯……いつの間にかあんなに大胆になったのだろう。
いつも奥手で、わたしをやきもきさせていたのに……。
突然あんな大胆なアプローチをとられると心臓がおかしくなってしまう。
もちろんわたしは嬉しいのだ……嬉しいのだけれど……でもわたしにだって準備というものがあるのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます