第45話 真衣サイド-08-
最悪だ……。
せっかく唯と再会してまた二日目なのに……。
昨日は唯とあまり話せなかった。
だから今日こそは大切な話し……そうわたしたちの将来のことについて、じっくりと話そうと思っていたのに……。
いつ籍を入れるか、結婚式はどうするか。
ハネムーンはどこにいくか。
新居はどうするか。
子供はいつ——。
ううん……本当はそんなことはどうだっていい。
わたしはただ唯の顔を見て、話すだけで……それだけで十分なのだ。
いえ……話すだけではなくて、昨日みたいにもっと唯が大胆に行動してくれても……。
とにかく……今は細々したことを決める必要はないのかもしれない。
だって、わたしと唯が結婚することはもうとうの昔に決まっているのだ。
今はただ唯と一秒でも長く触れ合いたい……。
離れていた時間を一刻でも早く埋め合わせたい……
それなのに、わたしはよりにもよって体調を崩してしまった。
寝る前に少し熱っぽいと思っていたけれど、朝起きた時には完全に発熱していた。
わたしは朦朧とした頭で額に手をあてて、天井を見上げる。
わたしは、そのまま10分ほどベッドに横になっていた。
そして、なんとかわたしは気だるい体を引きずりながら、洗面台の鏡の前に立った。
唯に会いたいという想いがわたしを動かした。
3年間も唯に会えなかったのだ。
一日だって無駄にはしたくない。
だけど、眼前の鏡に映ったわたしの顔は……やっぱりひどいものだった。
パジャマ姿のノーメイク。
髪はボサボサで、肌にも艶がない。
顔色も青白くて、血色が悪い。
こんな有り様では唯の前にはとても立てない。
今のわたしを見たら、唯はきっと失望するだろう。
もちろん、唯はわたしのことを深く愛している。
だから、心の内はわたしには見せずに優しく微笑んでくれるだろう。
そして、わたしの体調を心配してくれるに違いない。
わたしはそんな唯の顔を脳裏に思い浮かべる。
その瞬間、わたしは学校に行って唯に会いたいと強く思った。
でも……やっぱり……ダメ。
わたしは、首を振って、その想いを無理やり頭の隅に追いやる。
唯の優しさに甘える訳にはいかない。
唯にはたっぷりと甘えたいし、唯はわたしのことを全面的に受け入れてくれる。
でも、そんな唯だからこそ、わたしは唯の前ではいつも最高の自分を見せたい。
わたしは、自分の気持ちをぐっと押さえて、今日一日学校を休むことにした。
わたしはコップに水を注いで、解熱剤を流し込む。
そして、フラフラとした足取りでベッドに倒れ込む。
そのまましばらく横になっていたけれど、唯の顔が脳裏にちらつく。
どうにもわたしは焦燥感にかられてしまう。
たった一日会わないくらいでは何も変わらない。
頭ではそう思っていても、感情が先走ってしまう。
脳裏に栞さんと玲奈ちゃんの顔がちらつく。
彼女たちも今頃唯に会いにきているはずだ。
二人が何をしようとも、唯の気持ちが揺らぐはずはない。
でも……玲奈ちゃんはともかくとして栞さんは狡猾だ。
彼女は目的のためならば容赦はしない。
大丈夫よ……あの人がどんな姑息な手段を使おうとも、唯の愛は——。
体調が悪いから、気持ちが弱くなっているのかもしれない。
わたしは気持ちを落ち着かせようとした。
今のわたしに足りないのは唯成分だ。
わたしは、クローゼットに隠した……いえしまった『唯抱きまくらversion3』をひっぱりだして、抱きしめる。
まさかこんなに早くまた使うことになるなんて……。
もう本物の唯をいつだって抱きしめることができるはずなのに。
それでもしばらく、抱きついているとだいぶ冷静になることができた。
やっぱり、本物には遠くおよばないけれど、『唯抱きまくらversion3』の効果はそれなりにある。
もしかしたら、昨日唯の家から借りてきた唯の下着を『唯抱きまくらversion3』に装着して、ヴァージョンアップしているからかもしれない。
それにしても……わたしはこれでも体調管理にはだいぶ自信があったのだけれど……。
小学校も皆勤だったし、ほとんど休む間もなかったアイドル活動でも体が不調になることはなかった。
どんな大きなライブの後でも、一日寝れば次の日は問題なく動けていた。
わたしにとってやっぱり昨日は特別だったのだろう。
唯との再会。
それは、わたしにとって間違いなく人生においてもっとも大切なイベントの一つだった。
だから、わたしは自分でも気づかない内にだいぶ体に緊張を強いていたのだろう。
土日に風邪を引くという話を聞いたことがある。
休みになって緊張の糸が切れて、気が緩んでしまい体調を崩してしまうという……。
今のわたしの場合もたぶんそれだろう。
昨日は本当に……色々なことがあったから。
唯との再会……わたしはあんなに頭の中でシミュレーションしていたのに、冷静な反応ができなかった。
だから、思わず会った瞬間に唯を抱きしめてしまった。
唯はあまり人前で目立つことが好きではないのはわかっていたのに……。
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