第41話 真衣の部屋に乗り込む

 俺は、再びインターフォンを押す。


「えっ……もう10分経ったの! ま、まだ化粧も服も——い、いえ……いいわ」

 

 と、何故か真衣は先ほどと同じようにだいぶドタバタしている感があったが、入り口のゲートが開き、俺は中に入る。

 

 エレベータに乗り、俺は真衣の部屋がある階……最上階だった……を押す。

 

 既に俺はこの時点で、真衣との圧倒的な生活レベルの差に打ちのめされていた。

 

 俺はKIKTOKやライスタなどのSNSはあまり見ないようにしている。

 

 そういうキラキラしたものを見ると、自分の生活の惨めさが際立ってしまい、精神衛生上よくないからだ。

 

 しかし、とはいえSNSはあくまでスマホの……画面の中の存在だ。

 

 こうして、リアルで格差を目の当たりにさせられると、そのダメージはSNSの比ではない。

 

 俺は出来るだけ目の前の豪奢な内装を脳にインプットさせないように、顔をうつむかせていた。


 まったく……こういうのを見てしまうから、人は……俺は無駄に自分の人生に何かを期待してしまう。


 この2日で俺の人生に対する期待値は無駄に上がってしまった。


 しかし、期待値は上がっても、当然俺のリアルの人生は全く変わっていない。


 人はその差が大きければ大きいほど(期待値―リアル)、自分を不幸に思ってしまう。


 よほどの才能や情熱がない限り、リアルは変わらないし、変えられない。


 だから、合理的に考えれば、幸福になるためには、期待値を下げるしかない。


 そうすれば俺みたいな陰キャボッチでもそこそこ幸せに生きられる。


 早く……あのボロ家に戻って、がっつり期待値を下げないとな……。


 アレが俺のリアルなのだし、これから数十年続く変わらないだろう人生なのだから。


 俺は、今日何度目かのため息をつきながら、真衣の部屋の前に立つ。

 

 玄関のインターフォンを鳴らすと、すぐに真衣が出てきた。

 

 真衣の姿を一目見た時、俺は頭に浮かんでいた色々なアレコレが全て吹っ飛んでしまった。

 

 それだけ真衣のビジュアルは鮮烈だった。

 

 真衣は制服ではなく、私服だった。

 

 まあ……それは当然だ。

 

 問題なのは、その姿が制服姿と同じ……いやそれ以上にとてつもなく可憐で、俺は目を離すことができなかった。

 

 真衣は白のブラウスに、黒のミニスカートという出で立ちであった。


 ブラウスは彼女の細いウエストとそのしなやかな曲線を強調していて、体のラインがはっきりとわかり、どうにも艶めかしく感じてしまう。


 さらに、黒のミニスカートは彼女の脚線美をこれでもかと際立たせていて、さらにその短さが輪をかけて目を引き立てる。


 そして、極めつけに履いている黒のタイツが、より一層真衣の細くスラリと伸びた足を妖しく彩っている。


 もちろん、真衣の顔も肌艶も、昨日見た時と同じ……いやそれ以上に綺麗で目を奪ってやまなかった。

 

 色々な意味で、真衣の姿は俺にとっては目に毒であった。

 

 目を離さないといけないと理性でわかっていても、本能が離すことを全力で拒否している。

 

 これまで俺がライスタやKIKTOKで見たどの女性よりも圧倒的に目の間の真衣は輝いて見えた。


 結局、俺は真衣の姿にしばらく……いやかなりの間、見惚れてしまっていた。


「……あ、あの……唯? どうしたの? わ、わたしのこの服……変……かな? そ、その……急だったからあまり準備ができなくて……」

 

 真衣にそう言われて、俺はようやく我に返ったほどだ。

 

 真衣はなぜか少し不安そうな表情を浮かべている。

 

 それに頬も微妙に赤い。


 もしかしたら、俺から不躾な視線を向けられて、真衣は不快な想いをしているのかもしれない。


「い、いや……少しぼおっとしてただけ……」

 

 と、言い訳にもならない言い訳をボソリと言って、なんとかごまかす。

 

 真衣は俺の反応を見て、一瞬だけ顔を曇らせた気がした。


「そう……そ、それよりせっかく来てくれたのだから、入って。昨日のことも話したいし」

 

 が、そういうとすぐに真衣の顔は元の表情に戻る。


 いきなり本題に来たか……

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