第4話リーシェ、とあるレールガンを使う

目の前にステータスウィンドウが広がる。


どうやら、皆さまにも私のステータスを見て頂けた様ですわ。




名前:リーシェ・シュテイン・サフォーク


職業:姫騎士


年齢:十七歳十一か月


タレント:剣聖


ギフト:ビリビリ


スキル一覧:


身体強化(極大)


探知(極大)


雷魔法(小)




「どうですの? 私のステータス?」




"これ本当なの?"


"疑惑あり過ぎて草"


”証拠を見せてくれませんか?”




証拠? 何かスキルでも使えばいいのか?


「ねえ、アリス? 雷魔法でも使えば良いのですの?」




”雷魔法が本当なら、レールガンやってよ”


”とあるのか?”




「リーシェ様、おそらくこの世界の英雄譚の応用です。私に任せて下さい」


「頼みます」


アリスは私のおでこに手を当てると念を送って来た。


彼女のギフトは【図書館】、この国の図書、一万三千冊の内容を記憶している。


ちなみにタレントの方は【情報処理】、謎のハズレスキルとされていたが、この世界では滅法強力な恩恵を受けることが出来る。


そう、彼女はあらゆる情報を自由に操ることができる。脳の中の記憶さえも。


「コインを電磁力で飛ばせばいいのですわね?」


「はい。そういうことのようです」


既にダンジョンの中に入っている。


ぐるるるるる……。


現れた魔物はフェンリルの様ですわね。


「レールガン! ですわ」


グワーッと地面の土がめくれ上がり、一円玉がダンジョンの奥に衝撃波とイオンをまき散らして行く。




”合成か?”


”嘘やろ?”


”意味不明”


”フェンリル三体ワンパンとか頭おかしい”




ああああああああぁ!


なんですって? ちゃんと証明しましたわ! 


なんで誰も信じてくれないのです!?


「ほ、本当なんです! 合成じゃないです。ちゃんと皆さんも見てたじゃないですか!」




”必死過ぎて草”




アリスが釈明するが、次々と同接は減っていく。


四人、三人、そして同時に全員消えた。


「ダメですわね」


「失敗しました」


「まあ、いいではないですか? 気分転換にちょっと暴れますわ」


その時、私の耳に女性の悲鳴が聞こえた。


「きゃあああああ!!」


「あら?」


どうやら、暴れがいのあるシチュエーションが整っているようですわね。


「……に、逃げなさい! イレギュラーです! 早く逃げて!」


声の主は、逃げるように呼び掛けて来た。


二十手前、私より少し大人な女性で、どうやら魔物と交戦中らしい。


イレギュラーってなんだろう?


「えっと、理解が追い付かないのですが、あなたは?」


「ここは私が食い止めます。だからその隙に逃げ――」


「……?」


ぐるるるるる……。


魔物が襲いかかって来ましたわ。


「うっさいッ!」


飛びかかって来たフェンリルを一匹殴り飛ばす。


私は機嫌がすこぶる悪いのです。


同接ゼロのゼロのリーシェとか二つ名がつきそう。


「すみませんが、この雑魚を頂いても?」


「へ? そりゃあ遠慮なく……。って、何を馬鹿なことを! 早く逃げ「感謝しますわ」


私はダンジョンの下層程度にしか生息しないフェンリルの群れで憂さ晴らしをすることにした。


伸びぬ同接。


不快な視聴者。


さしてドロップの期待できないショボい魔物。


「ほんと邪魔ね」


ちょっとだけ、ちょっとだけ、私は機嫌が悪かっただけなのですわ。


無感情にそう言い放つと、私は剣聖の力を解放して、気が付くと走り出していた。


「あっはっはっはっはっは! もっと群れて来てもよろしくてよ!」


フェンリル程度なら、大した相手ではない。


数が多いのは、むしろ好都合だ。


ドゴッ、ドスッ、ドンッ! 


私は、素手で魔物を殴り、蹴とばしていく。


ダンジョンの壁面に叩きつけられた魔物は次々と肉塊に代わり、魔石へと姿を変えて行く。


この魔石が大して価値がない、魔素含有量の少ない粗悪品なのですわ。


「あは、あは、あっはっはっはっは!」


魔物を肉塊に変える、この瞬間がおかしくてたまらないのだ。


弱者をボコボコにしている間は、どんな嫌なことだって忘れられますわ。


「このクソ聖女!」


「リーシェ様? 人助けではなかったのですか?」


アリスが何か言っているが、私はご機嫌で魔物を肉塊に変える作業にいそしむ。


「あ、あなた、いったい? って、後ろに! 危なっ!「問題ありません」


この探索者さんはなんて善人なのでしょうか?


あの聖女とは似ても似つかない。


心配しなくても大丈夫なように、私はクルリと身体をひねると、フェンリル狼に裏拳をくらわしてやる。


ドンッという音が聞こえて、魔物は爆散する。


「嘘でしょ?」


良い探索者さんは何故か不思議そうな顔で私を見て、口をパクパクさせている。


そんな彼女をよそに、私は最後の一体を見据える。


「少しは殺りがいのある子ね」


壊れたダンジョン天井の瓦礫の切れ間から、禍々しい真っ赤なドラゴンの頭が見える。


天に向かって咆哮すると、竜がぐるりと首を曲げて、私を睨みつけた。


竜が背中を発光させ、大きな口から大量の黒煙と真っ赤な炎の熱塊が見えた。


こいつは見た目は怖いのだが、慣れれば雑魚である。


特質するべき点があるとすれば......。


「経験値もドロップも期待できないのですわ」


そう、全然美味しくない魔物なのである。


まっずい魔物なのである。


ドロップする鱗は硬すぎて加工できないし、稀にドロップするアイテムはポーション位だ。


私も普段なら、好んで討伐しようなんて思いませんわ。


こいつの使用方法は憂さ晴らし一択。


「お願い!! いくらなんでも最下層のドラゴンに挑むなんて無謀なことは止めて! 私のことはいいから、早く逃げて「なんでですの?」


なんでこんな弱い魔物相手に逃げる必要なんてあるのでしょう?


こいつには私のストレスを解消してもらうという崇高な使命が待っておりますわ。


そこで私はようやくさっき獲得した新しい技を思い出した。


【レールガン】


あれならこいつを殺れるかもしれませんわ。


私は懐から一円玉を取り出す。


先ずは一発レールガンを喰らわせる。


ドンッという破壊音が炸裂する。


その隙に地面を蹴り、天井へ向かって走って行く。


遠心力で落ちることはない。


竜の真上に辿り着くと、竜が傾き、一番鱗の強度の弱い首が露わになる。


「はあッ!」


魔力を込めた一円玉がドラゴンの首に吸い込まれる。


グァアアアア!


竜は怨嗟の断末魔とともに、いとも簡単に息絶えた。

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