第28話リーシェ、決意する
魔王の魂は人間に害を成すもので、人の魂は魔王にとって最高のご馳走だ。
そんな魔王のために何度も転生させられていたなんて、そんなの地獄でしかないですわ。
「ひ・・・っ」
思わず悲鳴が漏れてしまいましたわ。
そんな恐ろしい想像に、私は思わず情けない声を上げていた。
聖女様はそんな私の肩を優しく撫でて言った。
「あなたの魂を食べて回復を図っているのよ。もし魔王が完全復活すれば、次の餌は私達ね。だから私達聖女は・・・魔王討伐に協力するしかないみたいね」
「そんな。そんなのって」
私が六度も転生してきたのは、六百七十二年前の勇者パーティーが命懸けで与えたダメージを癒すため。
「まぁ、確かめる方法はないんだけどね」
と言われ、私は軽く頷きましたわ。
アリシアさんはそう続けたけれど、私は一つの名案を思いついた。
「勇者に話を聞けばいいんです! 私の事を何か知っているかもしれません!」
しかし、聖女様は首を横に振った。
「その案は現実的じゃないわ」
「どうして?」
「・・・覚えていないのよ、彼もね」
「・・・え?」
「まぁ、勇者と聖女の絆は特別なものだしね。勇者けいごは貴方と同じ前世の記憶持ちってことだけど、あなたと同じ位のことしか知らない筈だわ」
確かにそうだ。お互いがお互いの魂の一部を共有しているようなものだし・・・え? 私が勇者に魅かれるのは? 自分の胸に触れながら思う。
「それと自分が魔王であることに不安を感じるのはやめなさい。魔王、魔族、魔物は憎むべき存在だけど、それでも彼らにも生きる権利はちゃんとあるわ。殺すべき存在と共存すべき存在がいるだけよ。あなたは後者だもの。そして前者は真の魔王」
まるで、子供の間違いを優しく正す母のように、あるいは心配性の姉が弟を励ますように。
アリシアさんは私の手を両手でそっと包むと、微笑みながら言った。
そして、言うだけ言うと満足したのか、自分の仕事は終わったとばかりに私の手を離した。
「でもね。良く聞いて、何より真の魔王はあなたを六度も喰らっているの。既に復活するに十分な糧を得たのかもしれないわ。復活すればもうあなたに用は・・・ない」
「・・・今回が、ラストチャンスかもしれないのですわ」
「そうね、もう六百年も経っている。ラストチャンスといってもいいわ」
「でも・・・」
「・・・あなたはどうしたいの?」
「もちろん・・・このまま消えてなくなるのは嫌なのです。まだ死にたくないですわ」
「なら、戦えば良いじゃない?」
「・・・でも、勝てるのですの?」
「わからないわ。でも、勝てる可能性だってあるわけでしょ? だって、糧なら私を食べれはいいのにあなたをわざわざ転生させている・・・それだけあなたの力が強いのよ。知ってる? 聖剣を作ったのは大聖女。つまり、多分前世のあなたよ」
私はゴクリと唾を飲んだ。
真の魔王を倒せるかどうかは分からない。
だけど、やらねばならないのですわ。
まだ見ぬ真の魔王を倒すために。
「何としても食い止めないと」
「でも、どうすれば・・・?」
「それがあなたへの聖女への試練よ」
「私にできることなら、何でもしますわ。お願いするのですわ」
私はアリシアさんに頭を下げた。彼女はそんな私を穏やかな表情で見つめている。
「そんなに思いつめなくても大丈夫よ。あなたならきっとできるわ。ただし、簡単ではないわよ」
私は彼女と目線を合わせ、力強くうなずいた。
「そうね・・・私自身聖女の試練を潜っていないの。最後に試練をクリアしたのは六百年前の大聖女。つまりあなただけよ。文献には真の愛を知ることとあるわ」
聖女の使命についてはある程度わかっていたつもりだったが、その道のりは遠い。
はっきりしないにも程がある。その上、一番知っていそうなのが自分自身とは。
☆☆☆
ところ代わってアリスのマンションの隣の部屋。
もしかしてリーシェちゃんって、かわいい・・・? と、一瞬思ってしまうほどだった。
「・・・どうしました? さっきからモニターばかり見て」
彼女はリーシェのかわいらしさに少し見惚れていると、部下達はそれに気づいたようで少しムッとしたような顔を浮かべてしまった。
「あ、ごめんなさい・・・。そうよね。リーシェちゃんに魅入られ・・・じゃなくて敵視ばかりしちゃいましたね」
「別に敵視されるような事はされていないと思いますが?」
明らかに不信感を持ってる顔。
・・・と思いながら誤魔化すのに必死な響子であった。
「それで!私に何か用だったかしら?」
「先程から何度も報告していますが、竜の虚のリーダー進藤アキラにも魔晶石が確認されました」
「あら、そう」
「え? 魔晶石ですよ?」
陸将は敬愛する幕僚長に何が起こっているのか、理解できなかった。
幕僚長は魔晶石の事など気にも止めず、異世界冒険団のチャットに楽しそうにコメントしたり投げ銭したりしている。
こんな・・・こんな訳が・・・!
自分が信じていた人、尽くして来た事は間違いだったのか?
だがしかし、思慮深い幕僚長のこと、きっと何か理由があるに違いない。
信頼はした方が負けなのである。
彼がそれを知るのはかなり先のことである。
一方、響子の方は・・・
今までは、リーシャ達を敵としてしか見ていなかった。
見た目の可愛さは目に入らず、難攻不落の要塞としか思えなかったのだ。
しかし、今の彼女の考えは違う。
これまで敵視していたリーシャ達に対して、本気で友好的になろうとしている。
このまま敵対し続けるよりも、少しでも友好的な関係を築きたいと考えたのだ。
ようは響子はリーシェやアリスを推すようになってしまった。
これは言うならば、ギャップ萌え。
こうして、『異世界冒険者団』に太客が増えた瞬間であった。
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