第12話リーシェ、キスカと休戦する

硬直していた空気を先に壊したのはキリカの方が先でしたわ。




「お前がリーシェ!?」




次の瞬間、お布団を跳ね上げ、刹那、銀色に輝く剣を手にして信じがたい速度で私に飛び掛かって来ましたの。


ですが、私とて剣聖、即座に反応し、既に宝剣アゼリューゼを手に対応。




「・・・なッ!?」




一瞬で身体を捻り、私に左手を伸ばして来たキスカに、これまた一瞬で懐に入り、右手の肘で伸ばされたキスカの左手を上に払う。


その勢いのまま態勢が崩れたキスカの右腕を巻き込み、リビングの床に投げをうつ。




「しまッ!?」




受け身が取れないように自身もそのまま倒れ込む。




「不覚ッ!?」




目の前にキスカの顔があるが、床に倒れ込んだ彼女の上に馬乗りになり、両手、両足は抑え込んでありますわ。




「リーシェ様。さすが、夜の寝技は黒帯級!」


「人聞きの悪いことを言わないでくださりますの!」




そう言いながらもキリカの手足に魔道具の拘束具を嵌めるアリス。




「こんな時にふざけないでくれ!!」


「「ごめんんさい」なのですわ」


二人揃ってキリカに謝ってしまいま


したわ。




「くッ! 殺せ! 屈辱を受ける位なら、いっそ一思いに!」


「あの。そんなことしたら、殺人犯になりますよ」


「それに確かに私はリーシェ。でも一体私のことなんだと思ってますの?」


「行く先々で悪の限りを尽くす、最恐の剣聖リーシェ! しかも、魔王として覚醒したんだろう! さもありなんだ! 聖剣の勇者として、お前を絶対許さん!」


「えっと・・・アリス、この子、ぶち殺しますわ」


「駄目です! リーシェ様!」




とは言いましたものの困りましたわ。


聖剣の勇者と名乗りましたわ。おそらく私が新魔王となったと同様に、あのクソ勇者が死んで、新たな聖剣の勇者が誕生したのですわ。




「リーシェ様。何とかこの人と休戦協定を結ぶべきです」


「そうですの? ぶっ殺した方が早いですわ」


「リーシェ様はそうやって不用意な発言が多いから誤解を招くんです。本当は優しい方の癖に。勇者パーティで食料の獣を捌いたり、食事を手伝ってくれたのはリーシェ様だけでした」




アリス。恥ずかしいこと言わないでください。


とは言うものの、千日手ですわ。どうしたら良いのです?




「私に考えがあります!」




そう言って、アリスに言われて三人分の食事を作らされる。




「今日はアリスの当番ですわ?」


「リーシェ様の方が料理上手いですから、仕方ないです」




アリスに言われるがままに料理するが、おそらく何か考えがあるのですわ。


キリカは憔悴しているのか、あの後、気を失ってしまったようですわ。


料理が完成し、アリスの方を見ると。




「リーシェ様。私が勇者様を堕として差し上げます」




そう言って、悪い顔になりましたわ。


アリスの方が魔王らしい表情できますわ。




「リーシェ様。それではキスカさんを起こしてください」


私は軽くキリカにチョップを入れて叩き起こした。


「ん・・・」






小さな声で出すと、キリカの瞼がゆっくりと開かれる。


「・・・ッ!! 僕をどうする気ですか? こ、殺すんですよね?」


「害を加える気はないのですわ。話しあいたいだけですわ」


「魔王などに貸す耳はない!」




予想通り、かなり敵視されている。




「私は確かに魔王になってしまいましたわ。しかし、元は人間ですし、人間と魔族との友和を模索しておりますの。それに私、何かしましたの?」


「・・・魔族と人間に和などありえない」




少し躊躇しましたわ。助けられた上、私は何も悪事を働いていないのです。でも、ここからどうやって、休戦に?




「ところでキリカさん。お腹減ってませんか?」


「は、腹など全然減ってはおらん!」




次の瞬間、グウッとキリカのお腹から音が出る。


まさか、アリスはそんな悪どい手法に手を染める気ですの?




「そうですか・・・お腹空いてないんですか? せっかくなので、ご馳走しようと思ってたのですが。リーシェ様の手料理、凄く美味しいですよ。すね肉を良く煮込んだシチューにふわふわの白パンに、これ見て下さい!」




アリスは私の準備した白パン、それにラグレットチーズを。


トロリととろけたチーズをパンの上にタラりと垂らして。


アリスは悪い顔が出そうなのを我慢しているのか、少し顔が引き攣っていますの。




「ねえ、一緒に食べません?」


「わかりました。御恩を返すまでは休戦します」




キスカの顔には敗北感が出ていた。




キスカの拘束を解いてやり、三人で一緒に食事をして、キスカから事情を聴いた。




「知っての通り、剣聖リーシェに見捨てられた前聖剣の勇者パーティは全滅し、召喚勇者様が魔王を討伐するのみでなく、聖剣を回収してくだされた」


「え? 見捨てられたのは私の方ですわ」


「本当だと思います。私も聖女様から崖の下に蹴り落とされましたから」


「え? 聖女がか?」




私は勇者パーティに追放された経緯を話した。




「そうか。だが、リーシェが魔王に覚醒したことに変わりはない。我が王国は召喚勇者からの報告と夢見の賢者様の予言でこの事実を知ると、新たに聖剣の勇者となった僕に監視を命じた。あわよくば殺害することも視野にいれてだ」


「とは言うものの、王国は和平も望んでいるのではないですか? 民は魔族との戦いに辟易としています。実際、魔族が民に害を成した訳ではないですから、これ以上戦いを続ければ暴動でも起きそう。だから殺害の一択ではなく監視なのではないですか?」


「・・・そ、それは」




キスカは言い淀む。


どうやら図星のようですわ。


それにしてもアリス。今、してやったりとすっかり悪い顔になっていますわ。


どちらかと言うと、アリスの方が魔王よりだと思いますわ。

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