第11話リーシェ、キスカを拾う
「今日は一時から配信ですの?」
「そうです。それまでにお買い物を済ませましょう」
誕生日まで後一ヶ月しかないですわ。そんなことを思っていると。
「は、離してください。あなた達に興味なんてありません!」
「そんな事言うなよ、ねえちゃん。色々いい思いをさせてやるからな」
「そう、そう、色々とな、ふへへへへへ」
ゲスな声と共に、私たちの世界の人物と思しき姿の少女が見るからに良からぬ男たちに絡まれているのが見て取れましたわ。
「関わり合いにならない方がいいのですわ」
「え? どう見ても私達の世界の人ですよ」
私は即決だった。彼女は可愛い人ですから、きっと他の誰かが助けてくれますわ。私は荒事は好まないのですわ。
「た、助けてください!?」
「ええっ!? 私ですの?」
私は驚きましたの。女の子は素行が悪そうな男の手を振りほどくと、私の元へフラフラと来てしまいましたわ。流石に放置しづらいですの。私が薄情者に思われてしまいますわ。
「えっと、助けてあげればいいのですの?」
「は、はい、お願いします。あの人達、この辺で有名な悪者なんだそうです。その上、喧嘩が強くて、誰も彼らに意見できないらしいんです」
そんなヤツらに私をけしかけるのですの?
「わかりましたわ。何とかしますわ」
私はいやいやこの子を助ける事にしましたの。でも、助けたら、きっと厄介ごとに違いありませんの。魔王になってしまった私の元に来る異世界人なんて、きっとろくでもない使命でもおびているに決まってますわ。
「てめぇ、俺様達に喧嘩売る気か? いい度胸だな? 今すぐぶっちめてやる!」
「ふん! ・・・ホント馬鹿なヤツだな」
「自分の立場がわかんねぇヤツだな」
私は不良達の半笑いの顔に聖女の歪んだ顔が重なり、この人達に怒りを覚えましたわ。
「この子を見逃してあげてくれませんの? 私も荒事は嫌いですの」
「はあ? なんで見逃さなきゃならいんだ?」
「いや、ちょっと待て、こいつも中々上玉だぜ?」
「こいつにも俺達の探索者パーティに入ってもらおうぜ、無理やりな」
下卑た表情を浮かべる不良共にはぁとため息がでますわ。
「できれば穏便に解決できませんの?」
「「「できる訳ないだろう!?」」」
三人がもう、敵対するしかない事を宣言すると、いかつい男が前に進み出てきましたわ。
「俺、柔道黒帯だぜ。お前みたいな女に勝てるとでも思ってるのか? 早めにごめんなさいした方がいいんじゃねえのか?」
「えっと?」
私は困惑した。黒帯って何ですの? それに剣聖の私に本気で勝てるとでも?
「女って馬鹿だなぁ!」
「あのなぁ! そっちがそういう態度取り続けるなら、女だって容赦しないぜ!」
「あら、ではどうすると言うんですの? さぁ、やってご覧なさい。ブチのめして差し上げますわ」
「この・・・ッ!」
次の瞬間、場の空気が一変しましたわ。
「手加減できねぇかもな!」
顔に笑みを浮かべながら、私に向かい叫び、手を伸ばして来た。
「遅いですわ!」
一変、緊迫感が漂い。この男はそれなりの武人であることは間違いありませんわ。
なら、手加減は少しでいいですわ。
身体をひねり、一挙動で男の右手を払い、同時に胸ぐらを掴み、同時に男の身体を跳ね上げ、右足を刈るように払って倒す。
時間にして、コンマ数秒。その刹那に起きたことは余程男に衝撃を与えたのか、受け身すらとらず地面に倒れ込む。
「君達何をしてる?」
その時、突然声をかけられた。
「この間の無礼な自警団ですわ」
「ヤバい! 逃げろ!」
男達は去っていきましたわ。
アリスが始終を説明すると、今日はあっさり引き下がって帰っていきましたの。
出来ればこの間を借りを返してぶっ飛ばしてやりたかったのに残念ですわ。
とはいえ、今は目の前の女の子をなんとかしませんとですわ。
「大丈夫ですの? 顔色が酷く悪いのですわ」
「あ、ありがとう・・・ございま・・・す」
言い終えた途端、彼女は倒れてしまった。
☆☆☆
「ありがとうございます。助かりました」
暖房でほかほかのリビング。アリスがいつも寝ているソファでようやく回復して来た少女が礼儀正しくお礼を言って来た。
手にはアリスがいつも作ってくれている暖かいココアのマグカップを持っている。
寝ている間観察したが、かなり美しい少女ですわ。
黒髪に整った顔の造作、それに気品すら感じますわ。
おそらく貴族の娘。ですが、それだけでないことは明白ですわ。
私と同じく、その手には剣だこができていますの。
「あなたは誰ですの? それにどうしてあんなところにいましたの?」
「僕はキリカ・アルケラ・スタンフォードと申します。異国の者です。この地に来たのはとある人物を探していたのです」
「とある人物って、誰ですの? 何か特徴とか、つてがないと無理ですわ」
「大丈夫です。僕が探しているのはリーシェという極悪非道な女です。きっとこの世界でも悪名高いに違いありません」
「そ、そうなのですの? そんなに悪名高いのですの?」
私は内心冷や汗をダラダラとかきながら、この子を助けたことを心底後悔しましたわ。
この子をやんわりと何処かに捨てて来ましょうと・・・思う間もなかったのですわ。
「リーシェ様。あの子は回復しました?」
そう言ってドアを開けて入って来たのはお買い物から帰って来たアリスですわ。
アリスが私の事をリーシェ様と呼んだ瞬間、キリカと名乗った少女は驚愕の表情を浮かべ、一瞬硬直しましたわ。
それは勇者と魔王が突然ばったりと出会ってしまったかのような。
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