第5話リーシェ、バズる
円城エリカSide
エリカは探索者であり、配信者としても知名度トップクラス。
今日は金曜の夜ということもあり、渋谷ダンジョンの下層部を軽く流して帰るつもりだった。
「きゃあああああ!」
思わず悲鳴をあげてしまう。それは上層部、いや一回層にいる筈がないS級の魔物、フェンリルと接敵してしまったからだ。
たちまちエリカのスカウターのチャット欄に流れるような書き込みが溢れる。
”ちょwww何がおっぱじまってんだwwwwww”
”茶化すな! これ、ヤバくね?”
”これフェンリル狼だよ!”
”それイレギュラーだよ!”
”エリカちゃん! 早く逃げて!”
渋谷ダンジョン上層にて、イレギュラーが発生していた。
”フェンリルがなんで上層にいんの?”
”マジやばいんだが……”
”エリカちゃんの最後を見取る覚悟のある奴だけが見ろ”
”てか、エリカちゃんの絶望した顔にエロさを感じる”
”お前は死んだ方がいい”
”心療内科へ行こう”
”パンツ脱いだ”
”全裸待機だと?”
”あるあ……ねーよwww”
高速でチャット欄が流れて行く。
フェンリル狼の群れ。
深層部の魔物がエリカの前に突然出現した。
いくらA級探索者のエリカとはいえ、S級の魔物、フェンリルの群れなど無理。
これらはS級探索者がパーティでようやく何とかなるレベル。
”逃げろ!!”
その一言がチャット欄を埋め尽くす。
目の前で起きていることが真実だと知った時、ようやくネット民も我に返った。
ぐがぁ!
フェンリルの一体がエリカに飛び掛かって来た。
そして、その牙の餌食となることを覚悟した......が。
その時は何時まで待っても訪れない。
エリカがそっと目を開けると。
スタスタとやって来るべらぼうに綺麗なコスプレした銀髪の女の子に驚く。
「……に、逃げなさい! イレギュラーです! 早く逃げて!」
フェンリルは何故かその女の子に狙いを変えて威嚇している。
「えっと、理解が追い付かないのですが、あなたは?」
「ここは私が食い止めます。だからその隙に逃げ――」
ぐるるるるる……。
フェンリルが無防備な騎士風の女の子へ飛び掛かると、
「うっさいッ!」
軽快な音と共に魔物が爆散する。
「なに、これ……?」
律儀に魔物を代わりに討伐していいかと聞いて来た女の子に良いと返事を返したものの、こんなの相手にどうしろと? 死ねと言うの? としかいい様がない相手に。
「このクソ聖女!」
謎の怒気を含んだ掛け声と共に次々とフェンリルを肉塊に変えて行く。
「え……?」
そして気が付くと、最後のボスなのか、SSS級のドラゴンが現れた。
これは流石に詰んだと観念し、逃げてと説得を試みるが、少女は一向に居に返さない。
「はあッ!」
ドスン
何かが崩れるような音に気が付いて、恐る恐るエリカが目を向けると、ドラゴンの首と胴体が切断されていた。
「一体どうなって……?」
ドラゴンが断末魔の咆哮を上げると、崩れ落ちて行った。
「もしかして……ドッキリ?」
実はフェンリルでもドラゴンでもなく、プロジェクションマッピングか何かだと信じたい。
改めてエリカはブルブルと震えて来た。
イレギュラーに出会って、つい先程まで死の危機に瀕していた。
実はもう死んでいて、死んだ後も夢を見ているのではないか......などと夢想してしまう。
それほどまでにSSS級の魔物とは、絶望を意味する以外に形容しようがない。
現在ダンジョン内で確認されている最強の魔物......それがドラゴン。
討伐例は一切ない。
生存者が唯一語る、その凶悪さは、死の体現そのもの。
SSS級探索者がパーティを複数組んで対応しても討伐ではなく、一人でも犠牲者を減らす為の撤退戦にしかならない。
そんな存在を、一人の少女がボコボコにして笑顔でくつろいでいるのだ。
――素手で。
再びチャット。
”エリカちゃん、大丈夫?”
"怪我はない?"
チャットには、エリカを気遣う書き込みが多数湧き出る。
"なんなんだ、あのの探索者は……?"
"首と胴体がさよならしてるのドラゴンだよな?"
"全裸でコンニャク、尻をペチンペチンとしていた”
“はぁッ?“
“お前、全裸待機してた奴か?“
“死ねって“
“すでに死んだ。そこを親に見られた“
“終わった“
“いや、こいつ元々人として終わってる“
"何にせよヒカリちゃんが無事で本当に良かった!"
“弟から蔑んだ目で見られた!“
“お前はさっさと死ね“
あまりにも衝撃的な光景に、コメント欄の流れは早い。
「止めてあげて! 可哀想だよ!」
“エリカちゃん天使!”
“天使過ぎる”
「それより、誰かあの子のこと知ってる?」
”最強格のパーティ、銀の虚の一人じゃ?”
"だとしてもドラゴンをワンパンは無いだろ……?"
”特定班、はよ”
”とりあえず切り抜きうpした”
”掲示板に情報集まるな”
円城エリカはフォロワー10万の超人気配信者。
リーシェの頭おかしいレベルの活躍を同時に数万の日本人、いや、海外のユーザーへも。
"うわ、掲示版がえらいことに"
"ヤバすぎてコラ疑われてて草"
"来た! 今日探索者登録したばっか!"
”ふぁッ?”
”嘘だろ?”
”あり得ん。俺は探索者だから言う。タレント使いこなすのに数か月はかかる”
”いや、配信者で、異世界冒険者......だと?”
”だからコスプレ?”
”本物の異世界人の可能性?”
”ヤバい。否定できん”
「それにしても......あの子、すごいスタイル」
”ヤバい。Fカップはある”
”髪、本物の銀髪?”
”生足長すぎww”
「なんですの? 私の方を見てましたわよね?」
「ひッ!」
エリカから思わず悲鳴があがる。
無理もない。相手はSSS級の魔物を笑いながら素手で倒す者だから。
「......ん?」
少女が目線をエリカから逸らすと。
「クックックッ。見つけましたぞ、魔王様」
かん高い、唸り声のような声と共に漆黒の男が現れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます