第6話リーシャ、魔王になる
アリスのスマホからピコピコと音が聞こえる。もしかして、もしかしてですわ。
「アリス、もしかしてですの?」
「はい! 同接来ました! ……え?」
「どうしましたの?」
「ど、同接、い、一万人……超えてます」
「へ?」
突然のお客さんの増加に驚きましたわ。
一体どうしましたの? 特に変わったことしてませんわ。
チャット欄に書き込みが。
”おっす! おらご○う! よろしくな!”
”君、さっきドラゴン倒した子?”
”あれコラじゃないの? マジ?”
”名前なんて言うの?”
同時にたくさんの質問を受けてしまいましたわ。お客さんなので丁寧に返事しますわ。
「私はリーシェ、リーシェとお気軽に呼んで頂きたいですわ。さっきのドラゴンでしたら私が倒しましたわ。コラってなんですの?」
”コラを知らない? もしかしてプロフにあった異世界出身ってマジ?”
「はい。この国とは違う世界から来たようですわ。私の生まれた国には自動車という鉄の馬が無くても走る乗り物も、あんな煌びやかな摩天楼もありませんわ」
”マジ、異世界人?”
”なんで配信者やってるの?”
そういえば何故でしょう? 公爵令嬢の私が働くなどありえませんわ。
「私達、異世界人なので、本当の戸籍も学歴もなくて、他に稼ぐ手段がなくて」
「アリス、でもどうして公爵令嬢の私が働かなければならないんですの?」
「こちらではリーシェ様も私と同じ唯の不審者です。リーシェ様にも働いてもらわないと」
「でも、何故配信者ですの?」
言われるがままにやっておりましたが、何故ですの?
「何故って、リーシェ様の長所ってなんですか?」
「強いですわ」
「はい。他には?」
「美少女ですわ」
「はい。他には?」
「え? 他にですの?」
何故かアリスの質問にそこはかとなく棘を感じますわ。
「はい。証明終了。リーシェ様は乳がデカい美少女なことと強い以外、何の取り柄もありません。そんなリーシェ様にピッタリな職業なんて探索者か風俗しかないです」
「風俗? 公爵令嬢の私が風俗?」
「では、こちらの世界で何が出来るのです?」
「アリスが風俗で働いて、私を養って・・・」
「殴りますよ?」
”面白ろ過ぎww”
”清々しいエロ推しww”
その時、突然声をかけられた。
「なんで無視? 普通、こんな怪しい真っ黒な男が現れたら警戒するやろ?」
「誰ですの? あなた?」
「リーシェ様。この人、魔族じゃ?」
魔族と言われて目を凝らすと。
「アリス。人を外見で判断してはダメですわ」
「外見については何も言ってません」
「......酷いですわね、コレ」
「人の外見を酷いとか言うなや!」
登場して秒でキレた男は怒りの形相で呟いた。
「おっぱい揺らしながら歩いて、誘ってんやろッ!」
更に謎のキレ方をする。
あれ? これ? 私をバカにしてますの?
「そうですわね。あなたと違って私はお天道様の下を歩ける人間と自負してますわ。でも、安心なさい。失敗しても次の人生がありますわ。とても素晴らしいことですわ」
「バカにしとんのかいッ!」
「一体何を言いますの?」
「次の人生に行かんと失敗なんか? 俺は?」
やれやれと言った風になりますわ。
「ハッキリ言われないとわかりませんの?」
「ああああああ! 腹が立つわい!」
「まあ、まあ。気持ちを静めて下さい。きっと次の人生で良いことが......」
「お前もかい!」
あら? アリスも随分と正直者になりましたわ。
「で? 一体私に何の用ですの?」
「腹は立つが、それは置いて置いて、要件を伝える」
はあ、はあと息を切らして男は身震いしている。
「顔の具合が悪くなりましたの?」
「顔と断定するな!」
「話がなかなか進みませんの」
「誰のせいだ!」
「リーシェ様、要件位は聞いてあげては?」
「仕方ありませんわ」
私はいやいやながら聞くことにした。
どうせろくなことはない。
厄介なことに決まってますわ。
「特別に聞いて差し上げますわ。特別なのですわ」
「言葉の節々に棘しか見当たらんな」
「あら、ではさっさと立ち去ってくださる?」
「ああああッ! わかった、頼む、聞いてくれや、いや、お聞きになってください」
私はいやいや、これはおそらく恋の告白かと思ってげんなりしたのですわ。
この手の魔族とか知能のある人型のやつはたいていそうなんですの。
公爵令嬢にふさわしい殿方からお誘いを受けたことは一度もないのにですわ。
「先日魔王様が崩御された」
「え? 魔王がですの?」
「それは喜ばしいですね!」
「何を言っている。魔王様が亡くなったら、次の魔王様が誕生するのは自明の理だろ」
次の魔王? それに何故この魔族はこの世界に来れたのですの?
「リーシェ! お前は魔王に選ばれた」
「はい?」
「え?」
「リーシェ、お前は悔しくないのか? 勇者パーティーに裏切られ、実家でのお前の扱いはどうだったんや?」
頭に勇者パーティーに裏切られ、聖女のあの歪んだ笑いが蘇る。
実家では、六歳の時に母を亡くし、義母から虐げられ、義妹ばかりかわいがる父。
家族に私の居場所は無かった。
六歳からひたすら剣の修行に明け暮れたのも、それが一番の原因。
「さあ。この剣を握るといい。眠っていた魔王の力が顕現する筈だ」
「リーシェ様! いけません!」
アリスの声も耳に入らず、私はついふらふらと目の前の宙に浮かぶ漆黒の剣に触れてしまったのですわ。
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