第32話リーシェ、悪魔大元帥と戦う

代々木公園に到着した私達は惨状を目の当たりにした。


交戦する警察官や軍人。だが、撤退を余儀なくされている。




「やれそうですの? エリカさん? アキラさん?」


「力は使えそうよ」


「ああ、ここまでの全力疾走して多分陸上の世界新記録を完全に上回ってたぜ」




エリカさんはA級、アキラさんは数少ないS級探索者。


パーティを組めばおそらくS級の魔物にも対抗できますわ。


まずはセントジョージの聖域を展開すればエッグサイトの時と同じように。




「アリス、セントジョージの聖域の魔法陣をお願いしますわ」


「クッ、クッ、クッ、そうはいかんな!」


「誰ですの?」


「きゃぁ!」




アリスが鋭い声を上げましたの。いきなり私の従者に何をしてくれますの?



「リーシェ! キサマを倒せば、我らの勝ちだ!」



声のした方から何かが飛んでくる。それはアリスの足元に刺さった瞬間、火花を散らして爆発を起こしましたわ。



「きゃあああ!」



悲鳴を上げて転倒したアリスは、その場にうずくまる。魔法干渉を起こして、魔法が使えず体力も低下してしまってますわ。



「クッ、クッ、クッ、どうしたどうしたぁ? もう、一人仲間がやられたぞ?」


「これ位、ポーションですぐに何とかなりますわ!」


「愚かな。我の魔法は魔力を消耗させる物。ポーションでは治らん」


「ならば聖女の私が治しますわ」




聖女アリシアさんが突然現れて攻撃をするが、魔族に阻まれる。


この魔族を何とかしませんと。しかしこのままでは・・・。

そう思っていると、アリシアさんが私の耳に口を近づけるとそっと囁きましたわ。


『この魔族を引き離してくれれば私がアリスさんを治します』


なるほど。揺動作戦ですわね。この魔族の気を引いている間にアリスの治療をしてもらってセントジョージの聖域を展開すれば。




「キリカ、エリカさん、アキラさん。この魔族は私が倒します。アリスをお願いしますわ」


「待ってくれ! 魔族と戦うのは聖剣の勇者である僕の役目だ!」


「キリカ。お言葉は嬉しいのですが、エリカさんやアリシアさんだけではアリスが危険です。お願いします。守ってくださる?」


「クッ! わかったよ。確かに適材適所。魔力を奪う魔族には僕の力では部が悪いのも事実だし・・・」




私は皆に目配せすると、魔族との距離を詰め始めましたの。




「あなた達魔族はどうしてそんなに人間を目の敵にするのですの? 私達人間が何をしたと言うのですの?」


「魔王のお前がそれを言うか? まあ、知らないのだろう? どうせ時の権力者共が都合の悪い歴史を消したのだろう。教えてやる。我らの世界は元々我ら魔族の物だった。だが、突然、転移の門、お前達人間がゲートと呼ぶ道を通って、この世界からたくさんの人間が我らの世界に現れた。そして我らはお前ら人間に魔物が少ない土地を分け与え、魔物から守ってやったりもした」


「な、何ですって? そんな話、聞いたことがありませんの!」


「だからお前ら人間が都合の悪い話を消したのだろ? 我らは一時も忘れはせね。我ら魔族と違って人族は短命だが、生命力が強く、気がつけば数億人まで増えた。そしてタレントを開花させると我ら魔族に牙を剥き、襲い掛かり、我らの領土の大半を奪った」




な、なんですの! その滅茶苦茶な話は? 人族が魔族を侵略して領土を奪ったなんて聞いたことはありませんわ。

するとアリシアさんが笑いながら言います。




「あなた達魔族だって、弱い人間をおもちゃにしたり、殺したりしたんじゃありませんか? あなた達の権力者だって同じ穴のムジナ」



私はそれを聞いて、愕然としてしまいましたわ。

ほ、本当なのですの? それがもし本当ならこれまで魔族との和解が出来なかったことも理解できますわ。




「あなた達の言い分はわかりましたわ。でも、アリシアさんの言い分だとお互い様ではないですの? 何故関係を修復しようとしないのですの?」


「それは魔王であるお前が原因だ」


「わ、私が原因?」


「ああそうだ。魔王がこの世に生まれた時から魔王は魔物を活性化させ、人間の肥沃な農地を弱らせた。だから、人間の方が我らを許さなかったのだろうがぁ!」




魔族は声を荒らげて反論した。


つまり、魔王が誕生して魔物の活性化や領土の減少などが人間側にもあったらしい。

確かにそれなら人間側が魔王を恨むのは当然だ。


しかし、その言い分が事実なら関係修復など無理な話ですの。

それでも私は諦めませんの。

ここで諦めてしまっては何も解決しないと思いますわ。

今回はこれまでとは違うことが一つありますわ。


それは人間である私が魔王となったこと。


・・・そう言えば。




「一つ教えて頂けないかしら? 魔王が誕生してから? そもそも人間だった私が何故魔王に選ばれたのですの? 魔王というからには魔族から選ばれて然るべきではないのですの?」




以前から不思議でしたの。ステータスから自分が魔王となったことは認めざるを得ませんが、何故人間の私が魔王になったのですの?




「良い質問だな。我らも前代未聞だが、答えは知っている。簡単なことだ。お前の先祖に魔族の血が混ざっていたということだ」


「私に魔族の血が? そんなことがあり得るのですの?」


「何の不思議もない。千年程前には我ら魔族の世界にもたくさんの半魔族、つまり人と我らの混血がたくさんいたからな。ただ、魔力に劣っていた、お前の様な半魔族以下の人間が何故魔王に選ばれたのか皆目わからんがな」


「教えて頂いてお礼を言わせて頂くわ。ただ、身内に人間の血が混ざった者がいながら、何故ここまで人間を恨むのですの? あなた達だって関係を修復したいとは思わないのですの?」


「そう言う意見を言う者もいたがな・・・その意見者達は簡単に沈黙した。初代の魔王、大魔王様が半魔族を全員処刑したからな」


「なッ!?」



信じられない非道な大魔王。私は以前に聞いたことがある初代勇者のことを思い出した。


人類を滅ぼしかけた大魔王と差し違えたと・・・で、でも勇者とは何処から来たのですの? 私の知る歴史には最初から魔王がいて、勇者がいて、聖女がいましたわ。


しかし、この魔族は魔王が誕生してからと・・・つまり、最初は魔王はいなかったということですわ。




「もう一つ聞きます。昔は魔王はいなかったと聞きますが本当ですの?」

「いない? ・・・ああ、その通りだ。魔王が生まれると同時に聖女が生まれたのだ」

「???」



どういうことですの?  魔王がいないことはわかりますが、何故魔王と勇者ではなく聖女なのですの? この魔族の言っていることが私には分からないですわ。



「八百年前に一人の人間の男が召喚された」

「ッ!?」

「最初はただの異世界の人間と侮っていたが・・・」

「・・・・・・」

「その男は魔王をおとしめた。なあ、時間稼ぎは十分だろう? そろそろ殺し合いを始めようじゃないか?」




にぃと笑った魔族は宣言した。




「我は悪魔大元帥イーゴリ・レヴォーヴィチ・ルトコフスキー。我と勝負しろ」

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