第33話リーシェ、勇者に助けられる
「我は悪魔大元帥イーゴリ・レヴォーヴィチ・ルトコフスキー。我と勝負しろ」
「わかりましたわ。これは先程のお礼ですわ! レールガン!」
ゴーンという轟音と共に黒い煙が舞い上がりましたの。
今日は奮発して百円玉を使っておりますの。
「凄まじい威力だな」
「なッ!」
煙の中から現れたのは無傷の悪魔大元帥ですわ。
あの装甲、百円玉で破壊できるとは思えませんわね。
わたくしのレールガンであの装甲を破壊できると良いのですが。
「くふふふふふ。流石は仮にも魔王だな。我に一撃を与えるとは」
「ですが無傷ですわね」
「ふふ、どうする? このままでは我は倒せん」
「もうお金がありませんわ。どうしましょう」
「くふふ、それでは今度はこちらから行くぞ」
悪魔大元帥の周囲に魔力が集まっていきますの。
あれは・・・圧縮された魔力の塊? 不味いですわ! あの術は・・・おそらく。
慌てて周りにベクトルを反転させる結界を貼る。
「魔力よ、滅せよ!」
「危ない!」
間一髪。
咄嗟に私を抱きかかえて横に飛び退いた勇者のお陰で、魔法を喰らわずに済みましたわ。
術が放たれた方向を見ると、何も起きていない。
ですが、おそらく私が食らっていたら魔力があらかた消滅していたでしょう。
「・・・出鱈目な魔法だな」
「どうやら悪魔大元帥に私のベクトルを反転させる魔法は通用しませんわ」
「おそらく魔王のイマジンブレーカーと同じで魔法を消し去るんだろう」
「くふふ、これならばどうだ?」
悪魔大元帥は先程と同じ魔法を複数放ちますの。
今度は回避できず、勇者が直撃を受けてしまいましたが・・・傷一つついていませんわね。
ですが術を受けたおかげで魔力が減少したようですわ。
「・・・流石に強いな」
「勇者でも厳しいのですの?」
「ああ」
「私の
「剣で攻撃すれば良いんじゃないか?」
「それでは悪魔大元帥の装甲を破れませんの」
「ならどうしろと?」
「う~ん・・・どうやら悪魔元帥の力は魔力を殺すことと膨大な装甲だけ。ならば、装甲のそれを上回る物理攻撃の力を結集して何とかできませんの?」
「そんな力、どうやって・・・」
「勇者。せめて五百円玉が二、三枚程あれば」
「えっ!? 五百円玉でいいのか?」
あら? 五百円玉ってそんなに簡単に手に入るものですの?
アリスからは毎週お小遣いを三百円しかもらっていませんの。
五百円玉なんて見たことがありませんわ。
勇者から五百円玉を五枚程貰った。
勇者も険しい表情で考え込んでいますわね。
きっと痛い出費だったに違いません。
「・・・もう何でも良いから悪魔大元帥をぶっ飛ばせればな」
そんな勇者の言葉に応えるように、私の掌の中の五百円玉が光りましたの。
「こ、これは?」
「ほ、本当か! これは・・・そういうことか!」
「な、何ですの? この五百円玉がどうかしたのですの?」
「そうだ! これしかない。これなら奴を倒せる!」
勇者はそう言うと、剣を悪魔大元帥に向けて構えますの。
それはまるで私の必殺技を放つ直前の動作と一致しましたの。
ああ、これは完全に同じですわね。
魔力が剣に集まって行きますわ。
私でさえ、あの威力ですもの。きっと悪魔大元帥にダメージを与えられる筈。
「勇者スラッシュ!」
「勇者! もう少しネーミングセンスを!」
私の願いも虚しく安直な名前の技が放たれる。
ちなみに私のは崩壊の黒翼インフィニティエンジェルゲイルブレイクですわ。
「今だ! レールガンを!」
「え? 私?」
見ると、勇者の技をくらって黒煙が舞い上がる、今なら容易に直撃できる。
「行きますわ! 闇影の破壊者セレスティアルノヴァ!」
「つまりは五百円玉のレールガンだろ?」
勇者。ちょっとだけ嫌いになりそうでしたわ。
ギリギリで好きに戻りましたけど。
ゴゴーンと爆音が響く。
「ウオオオッ!?」
ガラガラガラと轟音を立てて崩壊していく悪魔元帥の装甲。
魔族の力の根源である魔素。
それで強化されたはずの装甲が崩れたのだ。
「こ、これが私の全魔力を込めた一撃ですの。ざまぁみろですわ!」
しかし・・・それにしてはダメージが少ないような。
「流石は魔王と言ったところか」
しかも、崩壊していく装甲の奥から新しい装甲が現れるではありませんか。
「なんてデタラメな・・・」
勇者が驚愕している。無理もないですわ。あれを倒せるのかすら不明なのですから。
「勇者! 見て! あのとんでもない魔力を! あれが魔族の魔素を極限まで圧縮したものですわ。普通の魔力じゃない! あんなものどうすればいいのですの?」
そう。だからこその魔族。
「ふぅ・・・流石にちょっと疲れたな」
そして、勇者は無造作に剣を振りかぶる。
「つ、強すぎますわ」
その剣に魔力が集中して行くのがわかる。
でも、悪魔大元帥はヤバイやつですわ。
逃げなければ・・・死『閃』え!?
気がついた時には勇者の剣から白い光の奔流がほとばしっていましたわ。
それはさっき私の五百円玉が光った時と同じ光。
違うのは、その光の奔流が剣から出ていると言うこと。
それはまるで勇者の意思の具現。
「何だ? これは・・・まさか! 聖典の魔法なのか?」
そう、崩壊していく装甲の中に充満していた魔族の力を統べる根源の力、魔素が剣に吸い込まれているのだ。
いや、吸収と言うには少し語弊があるかも知れないですわ。まるで剣がそれを求めているかのような感じですわ。
ああ、そうかこれが勇者の剣への特性スキルですわね。
懐かしいですわ。
・・・懐かしい? 何故? 私の六度の人生にそんなものはありませんでしたわ。
私は勇者の謎の言葉、白く光る力に懐かしさと同時に畏怖を覚えましたの。
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