第3話リーシェ、ステータスオープンする
あのクソ生意気な警察官とやらと別れて、渋谷のダンジョンに向かっていた。
「よく生きていましたわ、アリス」
「はい。実は信じてもらえないかもしれませんが、聖女様に崖から突き落とされまして、偶然目の前に勇者様の紋章が描かれた扉に手をかざしたら、この世界に来ていたのです」
「信じるも何も、私も聖女にダンジョンの底に突き落とされたばかりですわ」
「え! リーシェ様も?」
アリスもまた、聖女の手によって崖から突き落とされて、気が付いたらこの世界にいたという訳ですか。
「この世界で生きるのは大変です。こちらでは身分証明書がないとお家すら借りられなくて、スマホを買うのにも、ネットを引くことすら大変でした」
「スマホ? ネット?」
アリスから謎の言葉がたくさん出て来るが、どうやら自分は運がいいらしい。
アリスはこの世界で相当苦労したようですわ。
いや、聖女と関わった時点で、運は悪い方?
何はともあれ、ここが自分達のいた世界とは違うということは理解できた。
「これからダンジョンで配信をします。この世界で生きていくにはこの世界のお金が要ります。この世界の学校を出ていない私達がそれを稼ぐのは容易ではないのです」
「なるほど、確かに異世界では厳しいですわ。で、配信って何なんですの?」
「ダンジョン配信って言うのは、そのままの意味です。ダンジョンに潜って、その経緯を配信するんです」
「......で、配信って?」
そこからかと言わんばかりにアリスが説明してくれた。
この世界には三年程前からダンジョンが発生し、一年程前から民間人にも開放された。
ダンジョンには私達の世界と同じ魔物が群生していて、魔物討伐は資源の宝庫だと言う。
魔物を倒すと魔石と呼ばれる魔素の凝縮されたコアが手に入り、しばしば貴重な素材もドロップする。
魔石は新たなエネルギーとして注目され、様々な新素材が技術革新を促した。
最初は軍人がその任務にあたっていたが、人員不足で民間の力を借りることになった。
ダンジョンに潜り、魔石や素材は販売できるし、魔物の討伐報酬も出る。
配信とは【ネット】というものを介して、その映像を多くの人と共有できるものだそうだ。
よくわからないと言ったら、スマホというものを渡されて、ググれカスと言われた。
「初めましての方がほとんどですね。探索者のアリスです。今日からセンターはリーシェ様が努めます、さあ、どうぞ」
「はじめまして。レンブラント王国サフォーク家の娘、リーシェとだけ名乗っておきますわ」
「ダメです。同接ゼロ人です」
同接ゼロとは、現在この配信を見ている人がゼロという意味ですわ。
「焦る必要はないですわ。アリスも始めたばかりですわ」
「はい。機材をそろえて、ようやく昨日初配信したんですが、総接続数七だったんです」
「なら、仕方がないです。最下層まで行けば話も違ってきますわ」
「いや、最初から最下層には行けないんです。ルールがあって、今日はリーシェ様が初めてなので、第二階層までしか行けないです。それで今日の目玉は探索者登録です」
なんでも、ダンジョンに潜る探索者には階級があり、実績に応じてより深部に潜ることができる。最初はまず、探索者登録から始まる。
その始終を配信するのが今日のテーマだ。
「意外と探索者登録には需要があるんですよ。色々な意味で」
「色々な意味?」
「探索者になる時、ダンジョンでギフトがもらえるんです。それをライブで公開するのに需要があるのと......」
「のと?」
アリスの言葉に何か言いにくい事があるようだ。言い淀みましたわ。
「探索者の事故の過半数が新人なんです」
「つまり、事故目当て? と、いうことですわね?」
「はい。そうです。それで初回からしばらくはチャンスなんです」
「成程、悪趣味ですわ。しかし、あまり目立ちたくないです。私達、不法入国者ですわ」
アリスがコクリと頷く。
ほどなくして、ダンジョンに到着し、内部の入場受付で手続きをする。
「探索者証の発行をお願いしますわ」
「かしこまりました。それでは、こちらの申請書に必要事項の記入をお願いします」
「わかりましたわ」
ピコりとアリスのスマホの音が聞こえた。
「同接一人、来ました」
「よし、せいぜい、いいギフトでも引きますわ」
アリスの話によると、ダンジョンに潜るとギフトという謎の能力が授けられる。
その所以は不明とされる。
私達の世界のタレントと同じ様なものだ。
既に剣聖のタレントを持っている私にギフトはどうでもいい存在だが、この世界では重要。
狭いダンジョンでは使える武器が限られて来ます。
そんな中、もれなくもらえるギフトがもたらすスキルは魔物と戦う力を得る事になる。
この世界の言葉も読み書きも何故か困らない。
理由はアリスにもわからないそうだ。
そう言えば、毒の効果も消えていましたわ。
「書類は受理しました。が......。」
「が?」
「失礼ですが、不法入国者ですね?」
「広義の意味だとそうなりますわ」
「ですが、ご安心下さい。私共は国土省管轄でして、不法入国は内政省の管轄ですので」
"縦割り過ぎて草"
"いい加減"
初めての書き込みが私のスカウターに投影される。
ヘッドセットとスカウターが配信者の標準装備だ。
これ以外に周りを飛ぶドローン一機もそうだ。
「では、ギフトを公開するのですわ。ステータスオープン!」
"ふあッ!"
"何それ?"
"合成乙"
私は自身のステータスを開いただけですわ。
誰でもできることの筈です。
「何様ですの? 態度がデカ過ぎますわ」
「わぁぁあ! みなさん。すみません!」
何故か視聴者に謝るアリスに対して、私はどうもこの視聴者の態度が気に入らなかった。
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