第26話リーシェ、聖女様に見てもらう
自衛省面々SIDE
自衛省の陸海空三軍は初めての共同作戦を実行に移そうとしていた。
ターゲットは円城エリカ。
米国経由の情報で、異世界人の傍にいると心臓への魔素の蓄積が早まり、魔晶石保有者となりやすい。
リーシェのエリカへの影響を図るため、実験が起こなわれる。
「いいか! 絶対に怪我をさせるなよ!」
「わかっている。万が一リーシェ嬢を怒らせたら・・・」
「・・・日本は終わりだ」
皆、決死の想いで任務に就く。
陸海空の三人はトラックに同乗し、目的地に車を走らせる。
「シャンパンリーダーより。エリカ嬢は予想通り、スーパーに買い出しに行くルートAを進んでいると推定される。オーバー」
「こちらスコッチリーダー、ラジャー。作戦に変更なし。オーバー」
彼らの作戦とは?
「行くぞ!」
アクセルを踏み込む隊員。
「絶対直前で止まるんだぞ!」
「任せてくれ。百時間の訓練を受けた!」
そして、トラックは無防備に道路の真ん中少し右を歩くエリカに向かって突進する。
キキキィー
激しいブレーキ音を響かせて急制動をかけるトラック、だがその先にはエリカが。
エリカがはっと気が付いた瞬間、後ろに飛び退った。
・・・五メーター以上空へ。
そして着地する。
「・・・やはりエリカ嬢は」
「魔晶石持ちだ・・・」
絶望的な状況だが、数々の厳しい訓練に耐え優秀な成績を収めた彼らは次の行動に迅速で行動した。
「すいません!」
「少し慌てていましたので!」
三人はトラックから降りると、エリカの元へ赴き、謝罪を述べる。
「これはお詫びと言っては何ですが、陸上自衛隊の戦闘糧食です」
「お前、ずるいぞ。すいません。これは海上自衛隊の海軍カレーです」
「お前だってずるいぞ! 俺だってエリカちゃんのファンだぞ、という訳でこれは航空自衛隊の空揚げです」
そう言って、エリカに詫びの品を渡す。
「気にしないでください。幸い怪我もなかったですし」
「「「大変申し訳ございませんでした!」」」
そう言うと、三人は何度も頭を下げてトラックに乗り込み去って行った。
一人残されたエリカは。
「私、さっきスキル使えたよね?」
地上でスキルを使えたことに驚いていた。
それと、
「それにしても、なんであのトラック迷彩塗装なだろう?」
☆☆☆
幕僚長SIDE
「それで結果は?」
「残念ながら、予想通りでした」
「・・・胃薬飲ませて」
そう言うと、愛用の胃薬を呑む。
これは安定剤のようなものだ。
最近、もっと強力なガチな胃薬も処方してもらった。
「それで円城エリカ嬢に対抗する推定戦力はどれ位?」
「エリカ嬢は身体強化と治癒のスキルを持っておりますが、遠距離攻撃できるスキルはありません」
「つまり、遠距離からのスタンドオフ攻撃が有効なの?」
「それがそうとも言えません」
空将の一人が苦渋に満ちた表情で言う。
「ダンジョン配信の彼女の身体強化スキルの威力ですと、通常の巡行ミサイルや野砲では着弾する前に避けられてしまいます」
「・・・では」
「はい。唯一の対策は極超音速ミサイルを撃ち込むしかないかと・・・」
はあと全員ため息が出る。
現在自衛隊に極超音速ミサイルは配備されていない。
「来年度予算で何がなんでも米国から極超音速ミサイルを入手する必要があるな」
「極超音速ミサイルを使わない場合に必要な戦力は?」
「巡行ミサイル、野砲、支援戦闘機を総動員したとして、陸軍二万、空軍作戦機百機は必要かと。円城エリカ嬢の身体強化能力の前には小銃など役に立ちません」
「治癒能力も持ってる化け物だからな」
「国会での説明が大変ですな」
「ぴえん。私だって本当は逃げ出したいんだもん」
また女子高生レベルに退行してしまう幕僚長であった。
☆☆☆
勇者からアインが来ていた。会いたいなんて、嬉しいですわ。
勇者の私への愛が溢れていると思うと、思わずキュンとなる。
でも目的は聖女を連れて来て私を見てもらうためですわ。
ピンポンがなり、勇者が訪ねて来た。
「勇者!」
「魔王!」
いつものようにしっかりハグをする。
なんならここから熱いキスをしたい位だが、みんながいるから恥ずかしいのですわ。
そして、勇者が連れて来た女性は青い髪の美しい人だった。
「これがけいごの言っていた魔王ね」
「ああそうだ」
「全く、相変わらず素っ気ないわね。ようやく声をかけてくれたかと思ったら、今度は新魔王を私に診てくれって、正気なの?」
「魔王に害はない。俺が保証する」
聖女に横柄な態度を取る勇者に大丈夫なのかな? と、疑問覚えつつも安心している自分がいますの。
私は勇者の少し後ろで頭を下げた。
「リーシェです。よろしくお願いします」
「私は聖女アリシア・・・て?」
私へ視線を向けた瞬間、彼女は険しい顔をし、厳しい目つきへと。そして一瞬にして真っ青な顔色になる。いやがうえにも嫌な予感がしますわ。
「・・・一体、これはどういうことなのかしら?」
「え?」
「と、とにかくもっと良く診てみましょう」
聖女アリシアは私を椅子に座るように促すと、私の目をしっかり見据えると、あちこちの角度から診た。聖女と目があった時、彼女から滲み出る清らかな何かには、何故か懐かしさを覚えた。
「私はかりそめの聖女よ」
「聖女がかりそめ? どういうことですの?」
私は驚いた。勇者と対で魔王に対抗する人の戦力が聖女。
それがかりそめ? 一体どういうことですの?
「聖教会はひた隠しにしているけど、本物の聖女はかなり長い間現れていないの」
「そ、そんなことがありますの?」
「安心して。こう見えても、私は一番聖女に近い存在よ。前の聖女は・・・父親の金で聖女になったみたいですけどね」
「・・・そういうことだったのですの」
聖女は再び私の目を見据えて切り出した。
「でも、安心して、あなたはキリカさんが言っていたよう存在じゃない。むしろ逆よ。あなたには特別な力がある。あなたは六度の人生で絶えず十八歳で漆黒の魔物に喰い殺されて来た。おそらくその魔物があなたの魂に強い目印をつけているのだと思うわ」
「目印・・・?」
「ええ」
聖女は慈しみの目で私を見ると、話を続けた。
「勇者けいごから聞いた話から想像すると、あなたの特別な力がその漆黒の魔物の絶好の餌なのでしょう。だから強く目印をつけている。それがあなたから瘴気が漂う理由」
「・・・そんな」
「この漆黒の魔物は只者ではないわ。目印だけでこれ程の瘴気を発するなんて、魔神か・・・あるいは最恐と言われた大魔王位しか思い至らないわ」
あまりにも恐ろしい内容。それも私の六度の人生を奪ったことに所以することから、思わず息を呑んだ。
だけど、得心がいった。剣聖の私ですら恐怖する魔物が普通である筈がない。
魔王でさえ、とどめはともかく、対等に戦えると自負していた位だから。
勇者が私の手を握ってくれた。とても心強い。
「魔王。安心しろ。俺が必ず守る」
「・・・ありがとうなのですわ」
勇者に励まされて、勇気が湧いてくる。勇者ならきっとと期待してしまう。
「先代の聖女は実力不足だったけど、力が奪い取られているような気がするという書簡を父親に送ったことがあるそうよ」
「まさか私が聖女の?」
「その証拠にあなたの中には、聖なる力と魔王の禍々しい魔力、禍々しい瘴気がぐちゃぐちゃに混ざっているわ」
どういうことなの? 私があのクソッたれの聖女の力を奪っていた? 私は一体、なんなのです? 自分でも自分に自信が無くなって来た。
もしかしたら、魔王である以上に危険な存在ではないかと、恐ろしく感じて来る。
「情報がもっと欲しいわね。あなたが最初に魔物に喰われたのはいつ?」
「・・・最初に喰われたのは商人の娘として生を受けた時ですわ」
「それはいつ頃?」
「五百年位前・・・としか言えないのですわ」
これまでそんな事を考えたこともなかったし、商人にそんな学はなかったから、大雑把な年代しかわからない。
「六百七十二年前だ」
「えっ?」
勇者が突然、そう言い放ったのですわ。
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