第20話とある政治家のざまぁ

「まだ増税できんのかぁ!」


大声で怒鳴っているのは増税ゴリラと揶揄されるこの国の首相。


「そうは仰っても、経済連も日銀も良い返事を出しません」


「ワシが何の為に日々精進して首相になったと思っておる!」


「はぁ」


増税したい為に首相になった男、それが増税ゴリラである。


彼の敬愛する父親は国民の為、減税を訴えた誠実な政治家だった。


しかし、税務省なのか他の政治家の策略なのかわからないが罠にはめられ失脚した。


「ワシは親父の復讐を遂げたいのだ!」


金をクレクレという経済連、金をばらまくと喜ぶ国民、そのくせマスコミからはやれバラマキだのなんだど難癖ばかり。


ならば、いっそひたすら増税してやる。政治家であるワシらは何も困らん。


税務省の役人は媚びへつらい、経済連も金を無心し、媚びへつらう。


国民? そのな下賤の下々のことなどは知らん。


ワシの父が失脚した時、マスコミの報道を鵜呑みにして散々非難したのはだれだ?


因果応報だ。あの時、どちらに正義があるかわかる国民だったなら、今頃この国は趨勢を極めていただろう。


「首相! 報告します!」


「なんだ? 増税できるのか?」


「いえ、違います」


「はあ? 増税以外にどんな重要な報告がある? 急な報告など無礼であろう?」


「しかし、例のエッグサイトの件で重大な情報が寄せられました」


「どうせ国民が死んだとかだろう。そんなもの知ったことか!」


首相官邸の政務付きの男はこの首相に辟易としていたが、上司は選べないものである。


それに今回の報告はこの首相に大打撃を与えるものだ。


少し、頬の筋肉が緩んだかもしれない。


「東京エッグサイトから大油田と天然ガスが発見されました」


「は?」


「いえ、だから大油田と天然ガス田が発見されたのです!」


ポカンとする首相。ここで追い打ちをかける政務付きの職員。


「税務省も経団連も消費税アップは当面凍結とのことです」


「きぃえええええええええ!」


おかしな悲鳴が首相官邸にこだました。




☆☆☆




一方、自衛省で緊急の幕僚長会議が招集されていた。


大きな会議室で大画面モニターには、ライブ映像が流れている。




『それでもちょっと怖いんだけど』


『( ゜∀゜)アハハハハハハハ』


『邪魔』




他でもない、東京エッグサイトの惨劇への対処の為に招集された陸空海軍のトップの会合だ。


これから自衛隊始まって以来の戦いが待って・・・いる筈だった。


「これは本当に合成ではないのかね?」


「事実です。多数の配信者から同様の映像が発信されています」


「警視庁からの情報提供の内容にも一致しています」




映像を見終えた猛者たちは、ヒヤリとした汗に背筋を凍らせていた。




「これを笑って見ているのは一般人だけだな」


「我々軍人から見ればただの恐怖映像ですよ」


「私も現場の指揮官からの報告に身震いしました」




本来、エッグサイトに突然現れた魔物の掃討作戦を起案する筈が、最近ネットの世界をざわつかせているリーシェという少女についての緊急会議へと変わった。




元々ダンジョンの探索は自衛隊が先行して行っており、魔物に精通する彼らは、リーシェがどれ程異常かがよく分かる。




「幕僚長・・・こんなの一体どうしろと言うんですか?」




空軍の空将が口を開く。




幕僚長は初の女性で、仕事に関しては他の男達も一目を置く秀才。


面倒見もよく、人格にも優れ、決してポリコレで昇進を果たした訳ではない。


しかし、この質問にはあやふやな答えが返って来る。




「ど、どうしよう・・・?」


「どうしようって?」


「私だって総理から何とかしろって言われただけだもん。・・・うるうる」




自衛隊は本来他国からの侵略に対抗するための組織である。


それが三年前にできたダンジョンの調査を命じられ、いやいや担当しているだけ。


人員不足の自衛隊にとっては迷惑この上ない。


その上、おかしな人物が出て来たからと言って、総理から「対処しろ」と命令を受けたのである。


一番の貧乏くじは自衛隊かもしれない。




普段威厳に満ちた彼女が女子高生の様な口調に退行してしまったのも無理がない。




「何より問題なのはこのリーシェ嬢は『魔晶石』を体内に持っていること」


「・・・おそらく間違いないです」




『魔晶石』の存在は以前から研究者に指摘されていたが、実際に確認された例はない。


研究者の意見では長期間ダンジョンの魔素に触れていると、魔核に累積し、魔晶石へと進化。


魔物の進化を促し、魔素が極めて稀薄な地上でも活動可能になる。


 


魔物は、魔素がないダンジョン外で活動できない。


探索者もしかり。ダンジョン外でその能力を発揮することは不可能。




リーシェは自身が国家を揺るがす存在になっていることを知らない。


 


「まさか魔晶石が本当に存在するとは」


「い、胃が痛くなってきちゃった・・・」




魔晶石の存在はトップシークレット。日本も米軍の情報提供で知り得たに過ぎない。




「事実だとしたら、ヤバ過ぎますよ」


「お願い。それ以上言わないで・・・」




現在確認されているリーシェの能力は・・・。


レールガン:秒速千メートル以上の速度で硬貨を打ち出す。想定エネルギー十万メガジュール。


アクセラレーター:全ての攻撃を反射、あるいは無効化。更には相手の攻撃を自身へと返す。


自衛隊の総兵力を結集しても勝利の目算は・・・ゼロ。




「「「まじかあ・・・」」」




相手にすることを想定することを想像もしたくない幕僚長たち。


さらに、胃を痛める幕僚長に追い打ちがかかる。




「あの、まさかリーシェ嬢の仲間全員が魔晶石持ちってことはないですよね?」




若い陸将補が思わず口走った。


それには、空将、陸将、海将が思わず異論をはさむ。




「いくら何でもそれはないだろう。君、魔晶石の説明を頼めるか?」


「は、はい。研究資料によると・・・」




若い陸将補は最新論文を読み上げる。




「魔晶石は異世界に起源を持ち、魔素を大量に吸収することで魔核が進化する」


「・・・なるほど」




各将はめいめいうなずく。




「そもそも異世界が起源・・・ん?」


「・・・あれ?」




この場の者が全員にリーシェのプロフィール・・・が浮かぶ。


異世界出身。


異世界人の心臓は魔核と同義であり、異世界人があちらで魔法を使える所以。




こちらの世界のダンジョンの魔素は極めて濃厚で、吸収効率が高く、そのため探索者は容易に魔法を発動できる。


そして現在確認されているリーシェの関係者は従者アリス、謎の召喚勇者けいご、聖剣の勇者キリカ。




「・・・もう」




ため息を吐いて天を仰ぐ幕僚長。


皆、こんな筈ではなかったと焦り、なんとか誤魔化そうとする。


 


「い、いくらなんでもな~」


「そ、そんな訳が・・・」


「「「あはははは・・・」」」




リーシェ張りに狂ったように笑う各将達。


だが、その全員が確信していた。




『『『絶対そうだよな・・・』』』




ダンジョン外で魔法が使えるリーシェたち。


リーシェに至っては米軍ですら勝てん。




もし彼女が日本を侵攻すれば・・・三日持てばいい方?・・・各将達は頭の中で想定する。




「「「・・・」」」




幕僚会議は重い空気が張り詰めた。


そんな中、流石幕僚長。重い空気を破って発言する。




「よ、要はリーシェちゃんと仲良くすればいいのね!」


「確かに。ただ」


「ただ?」




各将達は詳細資料に目を通して同じ感想を持っていた。


 


「リーシェ嬢はその」


「え、えと・・・その言いにくいのですが」




アホの子。


絶大な力を持つ者に致命的な脅威となるのはその一点。 


幕僚長は急激に胃炎を押さえながらも話しあいを進めた。




「とにかく、打開策は一つしかないもん。ないんだもん・・・いた、ぐすん。痛いよう」


「打開策とは?」


「一つしかないもん」




幕僚長は胃痛の薬を飲みながら真剣な面持ちで話した。




「リーシェちゃんとお友達になりましょう」




こうして、お友達作戦が決行された。

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