第44話リーシェ、大魔王を討伐する
私達勇者パーティは何故七百年前に限りなく勝利に近い相打ちに持ち込めたのか?
私は必死に記憶を甦らせようとしましたの。
でも、最初に生を受けた大聖女の頃の記憶は戻って来ませんの。
「大魔王。あなたまさか私達の記憶を?」
「はっはっは。察しが良いな。一番危険なものを遠ざけるのは当然のことだろう?」
なる程。
二回目以降の人生もぼんやりとしか記憶できていないのですが、最初の生のことがまるっきり記憶に無いのはおそらく大魔王の仕業。
勇者にも記憶がないのも当然ですわ。
ならば・・・考えるのみです。
七百年前の私も考えた筈。
そして結論に達したからこそ勝機があった。
「勇者! 大魔王の時使い、どう思います?」
「手がつけられない。致命傷となる一撃を与えた瞬間に時を戻されたら、どんな手を使っても勝てない。俺たちは七百年前はどうやって戦ったんだ?」
勇者に助けを求めるも、私と同じ意見。
致命打は全て時を戻すことで無効化されてしまう。
時を戻す?
私はハッとした。
魔王は時を戻す。
戻すのみ。
ならば、うつ手がありますわ。
「勇者! 私に考えがありますわ! 全力で戦います! 隙があれば大魔王に打ち込んでください!」
「わかった。お前を信じる」
「作戦会議は済んだかな?」
口角を吊り上げ、勝利を確信している大魔王。
「ええ。そろそろ決着をつけましょう」
「良いだろう! 来い!」
大魔王は余裕の表情で手招きをします。
私は勇者と視線を交わし、頷きました。
そして・・・全力で駆けた。
「はああああっ!」
「うおおおおっ!」
勇者が大魔王に斬りかかると同時に、私も大魔王に斬りかかりますの!
「時よ戻れ!」
大魔王が唱えると同時に私は剣を振り下ろす。
しかし時は戻り、さっきと同じ場面まで戻ってしまいます。
しかし・・・結果は同じでしたの。
「時よ戻れ!」
剣を振り上げた私の前で再び大魔王が唱えると同時に剣を振り下ろした勇者の剣も空を切りましたわ。
驚愕する私と勇者を見てニヤリと笑う大魔王。
「はっはっは! 貴様らの剣は我には届かぬ!」
「・・・なるほど。そういうことですのね」
私はやっと理解できましたの。
何故、最初の生で大魔王に勝てたのかを。
「勇者! やはり大魔王の時使いは時を戻すだけですわ!」
「どういうことだ?」
「時を駆ればいいのです!」
「!」
大魔王は時を操ります。
でも、それは時を戻すだけの能力でしたわ。
だから、私は大魔王が時を巻き戻した瞬間に攻撃すれば良いと考えましたの。
大魔王が時を戻すなら、私は時を進めましょう。
「勇者! もう一度! 私を信じて!」
「わかった!」
勇者からほとばしる聖なる力。
白い光が辺りに充満し、余波で多数の魔族が倒れる。
その中で、大魔王にレールガンをありったけ打ち込む。
白煙が立ち込め、視界が悪くなったその時、私は駆け抜け、大魔王の後ろを取る。
「行けぇええええ!!!」
「時よ戻れ!」
一瞬、視界が歪む。それは大魔王が時空魔法を使った証。
ならば、私は!
「時よ進め!」
「な! 何だと!」
再び視界が歪む。ついさっき私の剣が大魔王を捉えようとした瞬間に戻った、いや、進んだ。
「・・・馬鹿な。何故お前は時を簡単に扱える? 時を進めるなど・・・あり得ん」
「残念ですわね。あなたはスキルに頼って魔法を使っていたに過ぎない。私は違う。この世界の物理法則、魔素の流れ、法力の流れ、それを理解してこの魔法を使った」
見ると、私の剣が大魔王の胸を貫くと同時に勇者の剣もまた、大魔王の胸を貫いていた。
「何故だ? 何故? 神は人に味方し、お前を有利にしたのか?」
「違います。七百年前の私もあなたと同格の存在だった。でも、私は人間や魔族の意見に耳を傾けた。だからこそ、この世界の論理を理解し、時を進める方法を得ることができた。七百年前は魔族の仲間の一人の犠牲で、時を進める論理を理解できました。こん生では、アリスがこの世界の物理法則を教えてくれた」
「馬鹿な・・・何故神はワシを作った? ワシはただ殺される為に生まれたと言うのか?」
「あなたにそれを言う資格はありますの? あなたは私に何をしたのです? 自身の贄として、生かし、ただ喰らう為に何度も転生させ、喰らい続けた」
そう、この男のやったことは神とほぼ同じ。
この男に神を責める道理などありますの?
あなたには人間と魔族を和することも可能だった筈。
あちらの世界とこちらの世界、何故あるのか?
答えはわかったような気がします。
こちらの世界に来れば、魔王はその大地を蝕む瘴気を隠すことが出来る。
何故なら、瘴気は大量の水と二酸化炭素を酸素へと変える媒体。
こちらではむしろカーボンフリーですわ。
にもかかわらず、あなたは人を理解せず、ただ滅ぼそうとした。
神はあなたにも選択肢を与えた。
それに気がつかなかっただけ。
私は神の命に疑問を生じた。
あなたは神の命になんの疑問も持たなかった。
私とあなたに何の違いもない。ただ、考え、意見を聞く耳を持っていただけ。
「ワシは死に行くのか?」
「ええ。未来永劫、復活することはないでしょう」
「・・・そうか。もう、怯える必要はないのだな」
「そうですわ。もう、怯える必要はありませんの」
・・・この男は・・・怯えていた。
誰に? 私にでしょうか? それとも人間に?
「大魔王よ。最後に言い残すことはありますか?」
「いや、ない」
大魔王は目を瞑り、そして・・・何も言わなくなりましたわ。
私は勇者と頷き合いますの。
そして・・・時を進めて行きます。
もう、時を戻す必要はないのです。
その時。
「リーシェさん! お願いがあります!」
「え?」
大魔王が黒い霧となって消えゆく中、見知った顔の人物が現れた。
「あなたは?」
「お隣の六月一日響子です!」
「え、えっと?」
「一生のお願いです。私とお友達になってください」
そう言って、腰を折り、右手を差し出して来ましたわ。
私もお友達は歓迎ですが、この硬い挨拶は一体なんですの?
☆☆☆
戦いは終わり、私は安寧を手に入れた。
今日もダンジョンに潜り、配信する生活。
ちなみにお隣の六月一日響子さんは私に会いに来るために単身ダンジョンの最深部に潜って来たそうですわ。
そんな彼女の正体はこの国の自衛省の幕僚長であり、癒し系配信者。
彼女はバグった仕様のスキルを有していたみたいで、あの時の配信でバズったそうな。
なんでも、邪魔って、雑にS級の魔物を蹴り飛ばしていたそうですの。
先日は人気配信者であることを国会で尋問されましたの。
彼女は自分はどうなってもいいけど、親友が黙っているかしらとのたまわったのですわ。
私をだしに使わないで頂きたいですわ。
・・・でも。
今年で十九歳になりました。
終わり。
ループ七回目の魔王はバズりたくない~パーティを追放された底辺配信者、うっかりSSS級モンスターを殴り飛ばしてしまうが、もう遅い~ 島風 @lafite
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