第43話リーシェ、大魔王と対峙する

リーシェ視点


「あなたは何故私に怯えていましたの?」

「ワシが怯える? たかが人間の小娘に? ありえん」

「いいえ、あなたが二週間前に私の前に姿を現した時、確かに怯えていましたわ」


「そのような事実はない。ワシが怯えていたとすれば、それはお前にではない。愚かしい人間どもにだ」




大魔王は嫌悪感を隠そうともしない表情で、吐き捨てましたの。

だが、私の耳にはしっかり届いた。

今の言葉は否定ではなく、肯定だ。

私を恐れていたのだと認めた。




「もう一度聞きます。どうして私を恐れていましたの?」

「知れたこと。お前の内から力が溢れ出るのを感じたからだ。その量、ワシをも凌駕する」

「・・・確かに私は神の力を代行しますわ」

「神の力だと? それは真か?」



大魔王は驚きの表情を浮かべました。でも、すぐに納得の表情に変わります。



「なるほどな・・・だからお前は・・・」

「何か仰いまして?」

「いや、なんでもない。だが、ようやく得心がいった」



大魔王はニヤリと笑って、私に告げましたの。



「お前にならば、ワシを屠ることも不可能ではない。何故ならお前はワシと同じ神の力の代行者・・・だからお前に怯えていたのだな」

「まさか!」



私はすぐさま否定しますが、大魔王は聞き入れようとしません。



「誤魔化さなくてもよい。ワシもお前と同じ神の力を授かっている。お前を警戒するのも頷けよう」

「そんな馬鹿な!」



大魔王が神の力の代行者だと言うの?


そんなこと信じられませんわ!



「信じても信じなくても構わん。だが、現実は変わらん」



そう言うと。



「人間の小娘が。傲慢な態度を後悔することになるぞ」



大魔王は私を睨み付けます。


文字通り蛇に睨まれた蛙のように身体が硬直して動けない私。


そんな私に大魔王は手を向けると、炎の玉を放ってきましたの! 迫り来る炎の弾に私はただ立ち尽くしただ死を覚悟するだけでした。

だけどその時、私の目の前に白く輝く光の壁が現れましたの! そして私を守るように光の壁は大魔王の放った炎を全て受けました。



「なに!?」



大魔王も自分の炎が防がれたことに驚きの表情を浮かべていましたわ。

そんな瞬間を見逃すはずがありません。当然ですわよね? 私はすかさず法力をふるい、レールガンをたたっこみます。



「魔王、大魔王の甘言になど耳を貸すな」


「ありがとう勇者。でも、未だ魔王と呼ぶのですの?」


「魔王と勇者の方が萌えるだろ?」


「・・・素敵」




私はいざという時に役立ってくれる勇者の言葉にうっとりしてしまいましたわ。




「ぐっ! 法力を直接ワシに叩きつけたのか? 随分と器用だな?」


「あら? あなたのお仲間の監視役が見ていたのでは? 私は前世で魔法使いでした。それも七賢人一歩手前まで行ったことがありますわ。ダンジョンでもらったスキルをすぐに使えたのはその為ですわ」


「成程。器用なのはそのためか」


「それに、どうやらお仲間は役に立っていないようですわ」




私はエリカさんやキリカ達の戦いぶりを眺めてそう大魔王に告げましたの。




「それは、困ったものだ 」

「そうでもないようですわ・・・その余裕を見ますと・・・」



私の言葉に大魔王が笑いながら答える。



「ならば見せてやろう。我ら魔族の力を!」



大魔王はそう叫ぶと、両手を天にかざしましたの。すると、上空から巨大な火の玉が現れましたわ! そしてそれは突然姿を消すと私やエリカさん、キリカ達の目の前に迫っていますの。



「こ、これは、まさか・・・時空魔法?」



勇者が呟きますの。確かによく見れば、時空の歪みか空間が曲がって見えていますわ。


でも、時空魔法は魔王のものだけではありませんわ。


スキルなど無くても、一度経験していれば再現可能ですわ。




「な! 何!」


「ただの空間魔法ですわ。魔王になった時、スキルのおかげで簡単にできましたわ。魔王使い時代には随分苦労しましたの。原理さえわかれば簡単ですわ。でも、スキルに頼っているあなたに応用なんて効きますの? スキルに縛られて新しいことなんてできないのでは?」




私は魔王の時にやっていたアクセラレータの反射の魔法を法力で展開しましたの。


大魔王の放った炎は全部大魔王に跳ね返って行きましたわ。




「ええい! 忌々しい! ならばこれならばどうだ!」


「何度やっても無駄です」




更に私に降り注ぐ炎の奔流は全て魔王本人に戻って行きます。


しかし。




「くッ!」


「確かに反転の魔法は脅威だな。相手が使えなければの話だが」




大魔王はなんと私と同じ反転の魔法を使いましたの。


やむなく、私は反転先を頭上の誰もいない所に向けましたの。


これは千日手ですわね。


魔王相手に考えていた時空魔法への対処も大魔王には通じそうにありません。


私には大魔王へ打撃を与える術がありませんの。


大魔王にも無いのがせめてもの救いですが、持久戦に持ち込まれた場合、大魔王に・・・部がありますわ。




「レールガン!」


「無駄! 無駄!」




法力をレールガンで打ち出し、大魔王に放つ。


着弾寸前に反転し、私に向かって来る法力を頭上へ逃す。


魔素と同じでエネルギーを持つ法力が当たったら、魔族でなくともダメージを受けます。


魔族の場合、そのダメージは私達人の比では無いことが勝機となりますわ。




「取りましたわ!」


「それは残念だったな!」


「え!?」




私はレールガンが頭上で爆発を繰り返す中、視界が悪いことを利用して大魔王の背後を取り、聖剣を振り下ろしました。


しかし!




「どういうことですか?」


「ふふふ、時空魔法の真髄よ」




確かについ先ほど大魔王の背後に回った筈なのに、私の位置は元のレールガンを放った位置。




「何をしたのですの?」


「わからんか?」


「・・・まさか」


「気が付いたか?」




気がつきましたわ。


勇者の位置、エリカさんやキリカ達の位置。


・・・これは。




「大魔王。あなた、時間を操ることができるのですね?」


「はっはははは。その通りだ。お前が致命打を与えることが出来ても時間は巻きもどる」


「・・・つまり、あなたに致命傷を与えることは不可能だと?」


「まあ、そう言うことだ。六百七十二年前の戦いで不覚をとったが、勇者パーティとはいえ、ワシに勝利することは不可能だ」




勇者パーティが聖剣や法力に勝りながら大魔王に勝利し得なかった理由。


それがわかりましたの。


これは千日手ではありませんの。


私達が詰んでますの。


!?


でも、六百七十二年前の勇者パーティは限りなく勝利に近い相打ち。


ならば、大魔王の時空魔法に対処する方法があるのでは?




「魔王。六百七十二年前の戦いを思いだせ!」


「わかりましたの」




私は勇者の言葉に従い、必死に最初の前世の記憶を蘇らせようと記憶を彷徨った。

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