第42話リーシェ、決戦に挑む
「準備は整ったのですわ」
「はい。私にまで聖杖を作って頂いてありがとうございますリーシェ様」
「アリスの正体が聖女だった・・・なんてね。意外でしたわ」
「申し訳ございません。王から密命を受けて勇者パーティに潜り込んでいました」
そういうことでしたの。
アリスには驚きを隠せませんの。
彼女は聖女。
聖典の魔法の使い手であり、アリシアさんと同じ聖女。
「僕の聖剣も前より強力になって驚いたよ」
「俺にも聖剣なんてな」
「私も聖剣のおかげで格段身体能力が向上したみたいで」
そう言って聖剣の力を褒め称えてくれるのはキリカやエリカさん、アキラさん。
全員に聖剣を作ってあげた。
前世で錬金術師の経験のある私は以前より強力な聖剣を作ることが出来た。
もちろん自分自身へも。
「私にも聖杖を作って頂いてありがとうございます。リーシェさん」
そう言ったのは聖女のアリシアさん。
アリシアさんとアリスには聖杖を作ってみましたの。
聖剣は魔素の力を向上させるのに対して聖女の二人には魔素ではなく、聖なる力、つまり神の力である法力を向上させる杖を作りましたの。
法力とは神の力を引き出す能力のこと。
魔法が人間や魔族自身の力で生み出すものに対して、神の力を行使する聖典の魔法は神に代わり力を行使する。
その為には限りなく自身を神と同等の存在にする必要がある。
聖女とは、限りなく神の性質に魂が似通ったものを指すのですわ。
そして法力とは自身をより神へと近づく為の力のことを指します。
「どうやらおいでなさったようだぜ」
勇者が私が差し上げた聖剣を片手にそう呟いた。
場所は渋谷ダンジョンの最深部のフロアボスの部屋。
広い空間、頑丈な壁。
地上の人々に被害を与えるわけにはいかない。
大魔王を迎え撃つには絶好の場所。
「く、黒い空間が!」
エリカさんがそう叫んだ瞬間、目の前に黒い大きな空間が現れましたの。
その中から現れたのは・・・。
「久しいな。大聖女よ。そしてそこに居るのは勇者か?」
大魔王が姿を現した。
その後ろには、大魔王の配下である魔族が百体ほど控えている。
「大魔王! 今日こそ貴様を討伐致しますわ!」
「くくく、威勢のいいことだ。だが、我に勝てるとでも?」
「勝ちます! 私は大聖女になったのですわ!」
そう言って私は自身の聖剣を鞘から抜きましたわ。
「ほう・・・聖剣か」
「そうですわ! これは聖剣、それも魔素ではなく法力を高める私専用の聖剣!」
大魔王は私の聖剣を見て少し驚いた顔をすると、今度はニヤリと笑いましたの。
「くくく・・・面白い。面白いぞ大聖女よ」
そう言うと大魔王は空間魔法によってその手に巨大な大剣を出現させたのです。
聖剣にも負けない大きな剣が・・・。
「貴様の聖剣、そしてワシの大魔剣。どちらが上か勝負だ」
「望むところですわ!」
私は大魔王に戦いを挑んだのですの。
エリカ視点
リーシェさんと大魔王の戦闘が開始されると私とアキラさん、アリスさんの三人は左翼を受け持ちます。
キリカさんの能力はずば抜けているので、アリシアさんと二人で右翼を、そしてリーシェさんと勇者けいごさんの二人が大魔王と対峙する。
予め、魔王の軍勢が多い場合に備えて考えていたプラン。
私たちの目的はリーシェさんに大魔王以外の魔族を寄せ付けないこと。
「クク。この世界の人間風情が我らの相手になるとでも?」
「それに聖女もどきか? 雑魚だな、治癒しかできん! わはははッ!」
「flamma362、Ash to Ash<灰は灰へ>」
「「ぐあぁぁぁあ!」」
アリスさんがルーンを刻んだ札をかざすと、たちまち炎が現れて魔族を焼き殺す。
「残念でしたね。リーシェ様の聖なる錫杖はこの世界の魔法を行使できる程法力を上げてくれるのです」
「侮った。だが、他は所詮雑魚!」
あら、私とアキラさんを雑魚扱いですか? まあ、そうなんですけど・・・聖剣を持った私達の能力を侮っていますね。
キリカさんの持っていた聖剣の数十倍のステータスアップの効果があるんですよ、これ。
つまり。
「どちらが雑魚でしょうかね?」
「実力でわからせてやるさ!」
「たかが人間ふぜがはッ!」
ザクッ!
私の剣の一閃で魔族の頭が血を振り撒きながら飛ぶ。
「ゲフッ!」
アキラさんも同様に赤子の手を捻るように魔族を切り刻む。
「あら。どうやら雑魚はあなた達のようですね」
「まあ、この程度の動きについて来れない訳だからな」
「・・・くっ」
「・・・おのれ」
魔族の顔が醜く歪むがそれで戦力差がひっくり返る訳もない。
どうやら私達は残酷で一方的な殺戮をしなければならないですね。
そう思った瞬間。思わず顔の口角が緩んだ。
「くそ! 我ら魔族相手に舐めてかかるなど!」
「死は覚悟済! 我らの役割は大聖女の手駒を引きつけること!」
なるほど、つまり私達と同じ目的な訳ですね。
違うのは圧倒的な戦力差・・・だけですね。
キリカ視点
「僕は怒っている。何故だかわかりますか?」
「は・・・?」
わからない。わからないのですか?
僕が怒っている理由なんて、一つしかないのに。
「そんなに大聖女が大事なのか? それよりも自分の命でも心配しろ」
「そうだ。いくら聖剣の勇者とはいえ、この数の魔族相手に・・・」
全く自分達の置かれた状態がわかっていませんね。
僕の聖剣は前の数十倍の力があり、この場の全員がそれを持っているという事実。
だけど、そんなことより、僕が怒っている理由がわからないことが腹立たしい。
「キリカさんがリーシェさんに恩を仇で返すようなことをさせてしまったから・・・」
「違います」
「じゃあ・・・どうして・・・」
「アリシアさん。アリシアさんまで分からないのですか? 僕は不愉快です。ので」
僕は、何気に剣を振るった。たちまち何人かの魔族が白い聖剣の光線に絡め取られて絶命する。
顔を後ろに向けると聖女アリシアさんが聖杖を持って僕の背後を守ってくれている。
そして、僕はそのまま歩き出す。
魔族は慌てて僕に襲いかかって来た。
「舐めるな! 人間ごぼッ!」
「ヒデブっ!」
僕は無言で歩き続ける。
「一体お前は何に怒ってるんだ!」
「理解できない!」
「私もわからないわ。キリカ君?」
「だ・か・ら・・・僕の格好が男らしくないってことにですよ!」
「え? そっち?」
アリシアさん。何故あなたまで分からないのですか?
同じ人間のなのに・・・それとも僕の方がおかしいとでも言うのですか?
「今頃気づいたの?」
「僕だって知りたくなかったんですよ! アリスさんに教えられるまで!」
「何故アリスさんは教えたのかしら?」
「僕とお風呂やおトイレでバッティングすると不都合があるからでしょ!」
「・・・なるほど」
「一体何の話だ!」
全く。魔族はどいつもこいつも人を欺いて。
知ってるくせに知らん顔して僕を貶めるつもりなのは明白。
故に。
「僕はお前らで腹いせをさせてもらう!」
「理不尽だ!」
「それ、八つ当たりだろ?」
「今なら聖女にガードがないぞ!」
僕が前進し過ぎたからか、聖女のアリシアさんに複数の魔族が群がる。
ドン! グシャ! バキ!
血が飛び散る音、骨が折れる音が盛大に聞こえる。
バカな奴らだ。聖女アリシアさんは治癒に特化した聖女じゃない。
聖女という名前から勘違いしたんだね。
「残念でしたわね。私、殴る系の聖女なの!」
「そんなのありかよ!」
「こいつら二人とも頭おかしい!」
ほう? 僕らの頭がおかしいのですか?
随分と侮辱してくれますね。
「まず、一人!」
「ギャッ!」
「二人目!」
「ぶふっ!」
「三人目! 四人目! 五人・・・何人いるのでしょうか?」
もう面倒なので数えるのやめます。どうせ殺すし。
ひたすら魔族を殺します。
「キリカさん・・・ちょっとやり過ぎなんじゃ?」
アリシアさん? あなたもリーシェさんとお風呂に入ったのでしょ? しかも一緒のお布団で寝たというではありませんか! そんな破廉恥なことしておきながらその態度は許せない。
だから・・・。
「僕もリーシャさんと一緒にお風呂に入りたかった!」
グシャッ!グチャッ!ブシュッ!ドスッ!・・・あ、なんか違った。でもどうでもいいや。
僕は半分ヤケクソで戦いを続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます