第35話リーシェ、七度目のループを知る
勇者の剣から伸びた白い光が魔族の装甲の魔素を吸収して行く。
やがて崩壊しきった装甲を全て吸い込み終わると、勇者は一呼吸すると再び魔族に向き直り、剣を構えますの。
「さすがは世界を切り開く究極の聖剣・・・。凄まじい力だ!」
あら? 今の魔素を吸い込んだ際に新しいスキルを入手したようですわね。
それに聖剣? 聖剣はキリカが持っている一振りしかない筈ですわ。
「さて、そろそろ反撃しますわ」
そういいつつ剣を一閃させますと・・・魔族の左腕が宙を舞いましたわ。
「グアアア!」
魔族が苦痛の表情を浮かべますわ。
「そうか、この剣ならもしかして・・・」
そう呟くと勇者は剣を天に翳しましたの。すると、眩いばかりの光が剣に収束されていきますの。
「な・・・まさか!」
魔族も只ならぬ事態を察知して後退りしだしましたわ。
そして、光は白い一本の線となり、天に向かって放たれましたの! そしてその光は遥か上空で拡散すると同時に無数の光線となって魔族を襲いましたわ。
「ぐおお!」
魔族はなす術も無くその光線に貫かれましたわ。やがて光が収まりますと、そこには膝をつき今にも倒れそうな魔族がいましたの。
「まさか・・・この剣で法典の魔法を放つ事が出来るとは・・・」
そういうと勇者も力尽きたかのように膝をつきますの。どうやら先ほどの魔法は相当に魔素を消耗するみたいですわね。
「魔王! 今だ! 今なら君のレールガンで止めをさせる!」
「わかりましたわ!」
そう言いますと、懐から慣れ久しんだ一円玉を取り出し。
キィーン
コインを弾いて軽く音を鳴らす。その音を聞いた途端、魔族の顔色が変わる。
「や、止めろォ!」
「止める訳には行きませんの。いっけぇ! レールガン!」
その瞬間、魔族までの地面がせり上がり、轟音と共に一円玉が高速に発射されましたわ。
「そんな・・・馬鹿な・・・」
ズッドオオオオオオオオオオン! 凄まじい閃光と衝撃波が起こり、魔族は光に飲み込まれましたわ。そして光が収まると同時に静寂が辺りを包み込みますの。
その攻撃により、魔族の胸部はぽっかりと大きな穴が開きましたの。
そして、そのまま倒れ伏しますわ。どうやら絶命したようですわね。
「やったか?」
「ええ。もう息をしていませんわ。・・・それに」
「どうした?」
「聖域が発動した様ですわ」
「・・・そうか」
アリスとキリカがセントジョージの聖域を発動してくれたのでしょう。
もと来た処を中心に聖域が発動した痕跡が残っておりましたの。
これでしばらく魔物は人に害を成すことは出来ないでしょう。
「やったな、これで悪魔大元帥の脅威は去ったんだ」
「ええ」
そう言って勇者の胸に飛び込もうとすると・・・不意に勇者の体の力が抜けて行きますわ。
「え?」
再び倒れ込みそうになる勇者を私が受け止めますの。
「どうしたのですの?」
「力が抜けて行く感覚が・・・」
これはいったい? まさか、勇者の魔素の消耗が想像以上に?
悪魔大元帥に魔素を半減された上、あんな大技を出したのですの。
その時、勇者からコツンと何か落ちた音がしましたわ。
「こ、これは」
「・・・」
それは見覚えがある品だった。私が最初の人生でいつもつけていたクロス。
手に取り、よく見ると、かつての私の名前が刻んでありました。
「何故勇者がこれを?」
「・・・魔王の遺品だから」
「これは最初の人生の時の物! 何故あなたがこれを知っているのですの?」
「俺も前世の記憶持ちと言ったろ。俺の最初の人生は・・・君の隣に住んでいたアルべルトだよ」
!?
あのアルべルトなの?
私の幼馴染の男の子。
あの時、私は将来アルべルトのお嫁さんになると信じて疑らなかった。
漆黒の魔物に喰われるまでは・・・。
「君は・・・やっぱりあのクリスなのかい?」
「・・・そうですわ。最初の人生であなたと婚約していたクリスですわ」
「そうか、また君に会えるなんて・・・」
彼は少し悲しそうな顔をしましたわ。そして再び私に向き直ると。
「一つだけ約束して欲しいことがあるんだ」
「・・・なんですの?」
「死ぬときは俺より後にしてくれないか? もうこれ以上俺の知らないところで君を失いたくないんだ」
ああ、やはりこの人は優しい人ですのね。
「わかりましたわ。でも、これだけは言わせて下さいませ。私は今世では絶対死にません」
「・・・わかった」
そう呟くと勇者は力が抜けていきましたの。私は彼が倒れない様に強く抱きしめますわ。
「クリス・・・そして、エリス・・・ナディア・・・ミア・・・」
「どうして・・・どうして私の前世の名前を?」
「俺も君と同じように人生を繰り返しているんだ。いつも君の傍にいて・・・そして何もできず魔物に喰い殺されていた・・・君の後に・・・」
「もしかしてレオン? レオンなの? それともリオン? ウィリアム? レオンハルト?」
「ああ、そうさ。君の近くにいたのはいつも俺だよ」
「どうして? どうして言ってくれなかったの!」
「きっと信じて貰えないからさ。俺がずっとクリスの側にいたなんて・・・君の幼馴染で、いつも助けてやれなかった俺を信じて貰える訳がないじゃないか・・・」
「そんなことない! 私は何度もあなたを失いながらようやく再会できたのよ!」
「・・・俺も同じさ。ようやくクリスに再会できたんだ」
「アルべルト、あなた婚約する時、死ぬときまで一緒って約束しましたわ?」
「ああ、だから今度こそ君を守ってみせるよ」
ああ、神様。どうか彼に安らかな来世をお願いします。
私のためにずっと。この人はずっと私を生かす為に戦い続けて来たのですわ。
「思い出したんだ」
「一体何を?」
「俺達の人生は六度・・・目じゃない・・・七度目・・・だ」
そのまま勇者は目を閉じ、気を失ってしまいましたの。
やっと巡り合えた大切な人。絶対に手放したりしませんわ! ふとその時、不思議な感覚に囚われたんですの。
何か私の中で新たなスキルが芽生え始めたかのような。
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