第38話リーシェ、決闘する1

エリカ視点




「皆さーん。お待たせしました。いよいよ異世界冒険団のリーシェちゃんと聖剣の勇者キリカさんの決闘が始まります。不肖、私、エリカがMCを務めさせて頂きます」




”は? リーシェちゃんと決闘?”


”瞬殺じゃね?”


”これ勝負になるの?”


”ていうか、キリカって誰?”




「はい。その反応は想定済です。キリカさんはリーシェちゃんと同じ異世界人で、リーシェちゃんと同等の力を持ちます。参考用に先日の代々木公園での戦いの切り抜きうpしてます」




”はぁ!”


”何この子?”


”SSS級のドラゴンを殴って爆散”


”これリーシェちゃんと同じスタイル”


”いや、リーシェちゃんには天使のほほ笑みが!”


”いや、それないほうが良くね?”




混乱する視聴者達。今回、事情を聴いてMCを引き受けました。


なんとリーシェちゃんと決闘。・・・しかも。




「なお、この戦いは異世界の問題であるため、日本の法律は適応されないと先程緊急臨時国会で法案が成立しています」




”どゆこと?”


”説明求む”




「つまり。この戦いは異世界の法律が適応され、決闘で死者が出ても、殺人罪には問われません。この戦いは二人のプライドをかけたまさしく真剣勝負なのです!」




”嘘だろ?”


”ありえん”


”死んでも罪に問われないって”


”それじゃまるでデスゲーム?”




「詳しくはチャンネルのプロフィールに説明が書いてあります」




私はこの大任をリーシェちゃんからお願いされた。詳しい経緯も聞きました。


それに、リーシェちゃんにはキリカさんを殺す気はないと・・・


でも、キリカさんはわからない。


キリカさんが死ぬことはない。


でも、リーシェちゃんは・・・死の可能性がある。


私は胃と胸が痛い。


それでも、リーシェちゃんの願いとあれば・・・あの真剣なまなざしを見れば断るという選択はあり得ないわ。




「さあ、先ずはリーシェちゃんの登場です!」




”おおおおお”


”リーシェちゃん”


”頑張れリーシェちゃん!”


”俺達はリーシェちゃんの味方やで”




ここからはリーシェちゃんとキリカさんのインカムを通じて配信が開始されます。


私は二人の決闘前の開始の号令を合図して、解説のアキラさんのいる観覧席に向かう。




リーシェ視点




「キリカ・・・どうして聖剣を帯剣してないのですの?」


「僕は正々堂々と勝負がしたいだけです。聖剣は不公平です。それよりリーシェさんの方こそ何故魔剣リームシュトアーナか宝剣アゼリューゼを帯剣していないのですか?」


「この剣は秘密兵器です。キリカさん、今から聖剣を帯剣してもよろしくてよ」


「お断りします。僕は慣れ久しんだ宝刀エリルフラーテを選びます」




キリカの嘘つき。魔王には聖剣の方が圧倒的に有利。


かすりでもしたら、魔王はかなりのダメージを受ける。


・・・普通の魔王なら。


私は確信しましたわ。キリカも私と同じですわ。


この戦いで雌雄を決する。でも、命は取る気はない。


決闘でそんな甘いことは・・・普通・・・なのですが、決闘など遺恨が残った際の最終解決手段。


私とキリカには何も遺恨はありませんわ。あるとしたら・・・剣聖と剣豪・・・どちらが上か、数百年の歴史の中で剣聖と剣豪が試合ってことはないのですわ。




「二人共、剣を抜いて号令を待ってください」


「わかりましたわ。エリカさん」


「了解です。エリカさん」




インカム越しにエリカさんの声が入る。


私は自身の剣を抜いた。




「・・・その剣。一体何なんですか? かなりの業物ですが・・・僕には魔素が籠っていない唯の剣にしか見えません」


「キリカ。舐めていると死にますよ。剣聖である私が剣豪相手に手にした剣です。ただの剣である筈がありませんわ」


「僕はあなたを舐めてなどいません。・・・ただ」


「ただなんですの?」


「・・・・・・」




キリカから答えはありませんの。理由は察しはつきますわ。


私はもう一つ質問をしてみた。




「キリカ。私に勝って、万が一私に命があったらどうするのですの?」


「リーシェさんを王国に連れて帰ります」


「魔王の私が王国に帰ったら・・・処刑ですわね」


「そんなことは僕がさせません! どんな手を使っても守ってみせます!」




やはりなのですわ。キリカも私を殺す気はないのですわ。


決闘にも関わらず、双方殺意はない。


とはいえ、剣聖と剣豪の私達がやりあったら普通どちらかが死にます。


剣聖と剣豪の試合は数百年前の決闘で双方互いの首を落として相打ちとなったと記録にはありますわ。


従って、聖剣を放棄したキリカ・・・あなたはやはり私に甘すぎますわ。


私が死んでもポーションを使えばいいだけですの。




『双方試合はじめ』




エリカさんの号令で我に返った私は身体強化を増してキリカに戦いを挑む。


定石通り、小手先の手元へ剣を繰り出し、牽制する。


しかし、キリカは私の剣を振り払うと一気に右斜め上から左の胴に目がけて袈裟斬りに斬りつけて来ましたの。


当然、それを剣で受ける私。




「僕、安心したよ。やはり本当に唯の剣ではなかったんだね」


「そうですわ。これは宝剣や魔剣より強力な・・・聖剣ですわ」


「なッ!?」


「私は魔王であると同時に大聖女ですわ。聖剣を作ったのは誰かご存じないのですの?」




そう、この戦いへの聖女アリシアさんのアドバイス。


新たに作ったこの聖剣。もちろんキリカさんの聖剣ほどの威力はないですわ。


まだ聖なる法力が聖剣にはとどまっておらず、絶えず私自身で法力を籠め続けなければならない欠陥品。


ですが、聖剣は魔剣や宝剣より高いステータス上昇が期待できますわ。


つまり、私は勇者キリカを超える身体強化が可能となっていますの。




再び小手先の小手調べの後、一瞬怯んだキリカの隙、いえ、おそらく誘いでしょうが、構わずキリカに頭に剣を打ち下ろす。もちろん、それを即座にかわすキリカ。


しかし、身体能力は私の方が上、遅いキリカの動きに私は躊躇わず胴へ剣を打ち込みますの。


聖剣は魔剣や宝剣と違い、魔素が込められていない。魔法的なダメージは与えない。


ダメージを喰らうのは魔王を始めとする魔族や魔物のみ。


だからこそ、多少の怪我では死なない剣豪のキリカには遠慮なく斬りつけることができますの。


しかし、私の必殺の逆胴への一撃を宝刀エリルフラーテで受けるキリカ。




「流石ですわ。聖剣で強化された私と互角の剣技を披露するとは・・・流石・・・剣豪」


「リーシェさん。そんな呑気なこと言っていて良いのですか? 僕にはこの世界のダンジョンで授かったギフト『ダークマター』があるのですよ」




私の額に汗が一筋落ちる。


何ですの? そのギフト?

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