ループ七回目の魔王はバズりたくない~パーティを追放された底辺配信者、うっかりSSS級モンスターを殴り飛ばしてしまうが、もう遅い~

島風

第1話リーシェ、異世界転移する

なんで、なんでこんなことになったのですの?


ダンジョンの最下層で私は一人魔物から逃げまどっていた。


こんな筈じゃなかった。そう、単独でダンジョンに挑んでいい筈がないですわ。


それ位のことは勇者パーティじゃなくても誰でもわかりますわ。


好き好んでこんな事態になった訳じゃない。


どうして!! どうしてこんなことに!


私にはわからない。いや、勇者パーティの仲間の考えが信じられないのですわ!


主戦力として活躍していた私を追放するなど考えられないですわ。


「あの女! 今度会ったら、絶対ぶち殺してやりますわ!」


今度会う事があればですが。


あの女、聖女の顔を思い出す度に腸が煮えくり返る。


「何が聖女ですか! あれではただのビッチではないですか!」


勇者にクビを宣告された時の事が脳裏に蘇る。


「リーシェ。悪いが君はここでクビだ」


「な、何を言って! 私がいなければ魔王を倒すなど叶わないだろう!」


「君は自意識過剰なんだよ。そうやって慢心して、僕やみんなに意見や指図ばかり......みんなうんざりなんだよ」


「ば、バカな!」


勇者の放った言葉に理解が追い付かない。


こいつはバカなのか? 私抜きで、魔王を倒すどころか、先に進むも、後戻りすることすらままならない。


つい先程の戦闘でも、私の指揮が無ければ負傷者が出ただろう。フロアボスを倒したのも私だ。


それだけではない、私の指示に従わなかった聖女のおかげでパーティは窮地に陥り、それを救ったのが私だ。


負傷をしてまで血路を開いた。そうでなければ、今頃、全員魔物の餌だ。


いや、私以外というべきか。私一人なら単身で離脱する事も容易い。


足手まといの勇者パーティのメンバーに欠員なくここまで来れたのは誰のおかげか?


魔王を倒すことが出来るのは勇者の聖剣だけ。


それが無ければこんな貧弱な勇者のパーティなど連れ歩かない。


勇者が聖女に誘惑されて淫欲の虜になっていたことも、魔法使いに手を出していたのも知ってはいたが、ここまでバカとは思わなかった。


聖女にポーションだと言われて飲んだ毒に犯されて、勇者に足蹴にされて、ダンジョンの底へ落とされた時の聖女のあの表情。色欲に溺れていたとはいえ、魔王を倒すという志は同じと信じていたのに。


あの女に浮かんでいたのは嘲り、侮蔑、嘲笑......歪んだ顔は淫猥とすら言えるものだった。


こんな女が聖女である筈がない。


私も勇者から誘われたことがあったが、断った。そんな気が起きる器ではない勇者。


だが、それが故に起きたのか?


自身に媚びを売らない勇者の憎悪。


女として敵意を見せる聖女と魔法使い。


それがこの結果を招いたのか?


あまりに愚かだ。


勇者パーティの一員として、連戦連勝を重ねた。


公爵家令嬢にして、剣聖のタレントを授かった私は六歳の頃から剣を振るい続けた。


魔物の異常発生、スタンビードを一人で制圧し、未踏破のダンジョンを単独制覇し、剣聖としての名を知らしめた私。


そして、栄えある勇者パーティの一員に選ばれた。いや、押し付けられた。


それがこのざまとは。


ダンジョンの底へと落ちて行き、気が付くと激しい痛みに襲われた。


怪我は持ち合わせていたポーションで治癒するが、毒消しは持ち合わせていなかった。


朦朧とした意識の中で、何度目か分からない憎しみの言葉を吐いた。


「今度会ったら、全員ぶち殺して差し上げましょう。殺したくなりますわよね! いや、殺させろですわ!」


強がるものの、朦朧とした身体でまともに戦えない私は魔物から逃げまどい、ついに追い詰められる。


そう言えば、唯一の犠牲者だった荷物持ちのエルフの奴隷も谷底への転落だった。


あの子も勇者に目をつけられていたが、拒否していた。


聖女があの子を見ていた目を思い出して、愕然とする。


......おそらくあの子も。


あの子の為にもあいつらを全員ぶち殺してやらないと!


特に聖女は手足をもいで、その首をねじり切ってやりたいですわ。


......その機会があればですが。


「とうとう追い詰められましたわ」


ダンジョンの通路の袋小路の一番奥で、たくさんの魔物がこちらに向かって来るのを見てとると、私は死を覚悟した。


「あいつら、このダンジョンを無事に抜けられるのかしら? あの女の絶望に染まる顔が見れないのは残念ですわ。私も同じ境遇なのが癪ですが」


その時、通路の壁に奇妙な紋章が描かれていることに気が付く。


「これは勇者の紋章?」


私は無意識に紋章へと手を差し出した。すると意識が遠のき、視界が真っ暗になる。


次の瞬間、魔物の牙が、鋭い爪が、あるいは魔法が襲って来るかと身構えたが、いつまで待ってもそれは来なかった。


気が付くと、視界は戻って、初めに飛び込んで来たのは眩しい光を灯した走る鉄の塊だった。


「馬鹿野郎! 死にたいのか!」


突然大声で怒鳴られた。鉄の塊に人が乗っていると知り、驚いた。


つまり、あれは馬が無い鉄の馬車か?


次に飛び込んで来たのは眩しく光り輝く摩天楼だった。


煌びやかなこの街は一体何処ですの?


周りを見渡すと、人もいますわ。


見たこともない衣装に身をつつみ、ごった返したかの様な人、人、人。


突然見たこともない世界に放り込まれた私は茫然自失となった。


その時、突然声をかけられましたわ。


「そこの君。そんな恰好で、こんな時間に一体何をしているんだ?」


「ぷッ。あの子、職質受けてるよ、ウケる―!」


声の主に目を向けると、不思議な装束の男が私を見据えている。


何故か通り縋りの面妖な露出の多い服装の女に嘲りも受けた。


「職質?」


「まあ、早い話がそうなんだが、君みたいな若い子がこんな時間に一体何をしてるんだ?」


私は訳が分からないが、自分が職質というものをされていると理解した。

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