第14話 四天王カイルの覚悟

 カイルが初めて対面して以来、あれほどの威圧を感じるのは初めてだった。それほど、魔王陛下は今回の帝国軍の侵略に不満を感じていたのだろう。

 同時に帝国軍の力を評価できていなかった我々に対しても失望していたのだと、カイルは無念さに血がにじむほどその唇を噛んだ。


 四天王だけになった後、カイルは俺にはわかっていると呟いた。

 ほかの三人はそう言ったカイルを見て、互いに顔を見合わせた。

「わかっているって、カイルさん。何のことをいっているんですか」

 次席ラーラは少しばかり控えめにそう訊ねた。

「今日の陛下の言葉は俺に対する怒りだ」

 その言葉に誰もが沈黙した。

 その中で次席のラーラはそれは違うというようにカイルを見つめた。

「陛下は四天王全員に告げるような形をとられていたが、それはあくまで建前だ」

 その時、三席のギールは巨体には似合わない落ち着いた声で言った。

「カイルさんの言うことはわかりますが、それでも陛下はそれぞれの役割での責任を問うてもいたと思います。それぞれにするべきだったことに関して、です」


 カイルはあえてこれには反論しなかったが、それはけして納得してるからではないことはわかった。

「今一つわかっていることは、帝国の作戦は我々魔族の根本にある性格を利用したということだ」

「それはどういうことです」

 ラーラは作戦立案の責任者であるせいか気色ばった様子でカイルに迫った。

「彼らが今回とった作戦は、我らが彼らより個体でははるかに強いという意識を利用した。わざわざ部隊を小さく分け、我々を個別に集中的に攻撃して挑発したのだ。

 そのせいで防衛という目的を忘れ、個々に帝国兵の部隊の撃破に走り結果、手薄なところを勇者らとそれを守る舞台に突撃され、防衛線を破られるというミスを犯してしまった」


 ここで初めて四席のデントが口を開いた。

「確かにこれまでのように我らを全体として攻撃するというよりは、まるで我々の誰かに戦いを挑むように攻撃してきたので、それに関わってしまい、防衛するべき地帯を見失っていたようにも思えます。

 そして明らかに将軍たちも前線の混乱を収拾するのに苦労していました」

 デントは四天王で唯一、前線で直に将軍らを指揮するので、これまでの帝国軍と今回の違いを肌で感じていた。

 これを聞くとラーラは先ほどの勢いは無くなり、腕を組んで黙ってしまった。


 三席のギールはラーラの補佐役であり、彼女のアイデアを具体的な作戦に落とし込む役割を担っていた。

 それゆえ、こうした検証は専ら彼の得意とするところだった。

「防衛は受け身ですから対応に素早さが必要です。そうした意味で今回の戦いの検証は素早い対応をどのようにするか、そのための指揮系統の見直しや兵の戦闘時の行動規範を新たに作成するためには重要になると思います」


 徐々に冷静さを取り戻した三人の表情はカイルを冷静にした。

「ありがとう、みんな。今日は我を忘れて感情的になってしまった。今ギールが言ったことは陛下の検証を報告するときに上奏しよう。

 それと、これは俺の意見になるが聞いてほしい」

 カイルは先ほどとは違った力のこもった口調で三名を見渡した。

 これに三名を代表するようにラーラが訊ねた。

「なんでしょうか。教えてください」

 うむ、と肯くとカイルは口を開いた。


「これまで我々は国境付近での小競り合い程度の攻撃しかしてこなかった。これは帝国軍の兵力を削るというう防衛作戦の一環としてやってきたことだ。

 ただ、作戦がこれだけでは魔王陛下を守る意味でもリスクが大きい。であれば、より強力な防衛作戦を立てる必要がある。俺はそれを行う裁可を魔王陛下から頂きたいと考えている」

 それは、とカイルの作戦に耳を傾けた三人は内容を聞き、目を見開いた。

 そして続けて、次回の会議でこの件を陛下に進言するつもりだと告げた。


 三人と別れたあと、カイルは一人部屋に残った。

 やるからには失敗は許されず、もしも失敗した時には死ぬしかない。と同時に自分が死んで済むことでもないなと考えを改め、作戦の完遂だけを考えようと思った。

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