第13話 謎の狩人
クレイら勇者一行が呼ばれたのは、魔族領に近い村だった。
帝都から丸一日かかるその村にファイヤーベアが出たというので駆除に向かえという緊急の命令が下ったのだ。
ファイヤーベアはドラゴンのような災害級とまではいかないが、村一つくらいは簡単に破壊してしまうくらいの力と凶暴さがあった。通常の帝国兵でも駆除命令が出た場合、百名は派遣される。
駆除方法は単純ではなく、火器を使うと爆発した上に一帯に火炎を飛ばすので物理破壊をするしかない。
帝国では魔術兵を用いてこれを魔術で拘束、凍結したのち魔術弾で破壊する。
斬撃も理論的には駆除の方法としてあるが、剣の材質が摩擦によって高温にならないよう特殊魔術を刃に付加しなければならない。
またそうした剣があったとしても、二度三度と斬っていては殺されてしまうので、一瞬かつ一刀で切り倒す技術と剣自体の強度が必要となる。
簡単に言えば、向かってくる巨大な縦長の大砲の球を縦か横かもしくは斜めでも一瞬で真っ二つにしろと言っているようなもので、現実的ではないのである。
勇者がいる場合、魔術兵が足止め、凍結を行い、勇者が聖剣で一刀の下に切り倒すのが通常だった。
今回は勇者に加え戦闘魔術師のリヒトがいるので派遣された兵は感知魔法を使える兵が数名だった。
また、彼らが調査中に魔獣に遭遇し負傷した時に回復魔法を施すためにと聖女アンヌも同行しているので体制は万全だった。
しかし、駆除隊一行が到着し、ファイヤーベアの出現報告のあった森で調査をしていると、同行した調査兵によって、ファイヤーベアは死体で発見された。
報告があった村の住人に、自分たちの他に誰か来なかったかと尋ねたが、そんな者は見なかったというだけだった。
勇者クレイはすぐに魔獣は駆除されたと帝都に伝令し、ファイヤーベアの死体をつぶさに見ると、明らかに一刀の下に頭から真っ二つに切り殺されていた。
「これをやったのは魔術だけではなくかなり剣術が使える者ですね」
リヒトはすぐに指摘した。
「俺もそう思う。並みの剣技で肉体強化だけではこんなことはできない。その上、武器にもかなり特殊な強化魔術を付加しているはずだ」
「そんな使い手が現実にいるのですか」
アンヌはクレイを見て訊ねると、クレイは知らないというように首を振った。
リヒトは
「帝国とは限らないでしょう」
と言ったが、クレイはこれも否定した。
「これほどの業と魔術を身に着けた者は帝国以外にはいないはずだ」
クレイの指摘は妥当だった。魔法はともかく武技や剣術ということで身を立てることができるのは、帝国以外では考えられかった。それ以外の国では、そうした技術を持っていても生かす職業がなかったからである。
「しかし、なぜ、死体を放置したんだ」
魔獣は駆除というだけではなく、金になる。死体の部位が高価に取引されるからである。それを放置するというのは、民間で駆除を引き受ける冒険者にはいない。
クレイは同行した兵らに帝都に戻り次第、今回のように魔獣を駆除しながら死体が放置されていた例がないか調査をするよう依頼した。
帝国と同盟国では魔獣は死体の発見も報告が義務となっており、魔獣の部位の取引は帝国の許可業者以外にはできない。
これは魔獣は部位であっても危険物扱いであることと、取引が国税の対象となっているからである。違反には罰があるため、必ず記録が残るのである。
なので、これまでこういった放置という話は聞いたことが無かった。
クレイと一行は駆除された魔獣の帝都までの運搬の手配を頼むと村を後にした。
帝都への帰途、クレイはファイヤーベアを切り殺した存在が頭から離れなかった。それだけの腕の持ち主が魔王討伐に参加してもらえればと思いついたからだ。
だが、それを考えた時に同時に別の可能性にも気づいてしまった。それは、あれを倒したのは人ではないかもしれないということにだった。
それは杞憂と否定したかったが、もしも調査結果に今回のようなことが発見された時には、その可能性について皇帝にすぐに奏上しなければ、とクレイは考えていた。
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