第15話 アランとテレサ

 第二皇子のアランと皇女テレサは幼少時から仲が良かった。年が近いということもあったが、それ以前に二人の母同士が親しかったからだった。

 アランの母ナタリアは首長国、テレサの母ソフィアは諸国連合から政略的に皇帝に側妃として送り込まれた他国の王女だった。

 彼女たちは、同じような立場で異国で過ごすことで、自然に助け合ったり寂しさを慰め合い親睦を深めたのである。


 ナタリアが真面目な性格でアランはこの性質を受け継いだのかもしれないが、彼は母が喜ぶことがなにより好きだった。

「才能で人は何かができるようになるわけではないのです。

 努力をして人並み以上にそのことができるようになって初めて才能というものを知るのです」

 アランが何かできないことがあると、そう言って彼を励ました。

 そしてできるようになると我がことのように喜んでくれた。彼は、それが嬉しくて何事にも惜しまず努力するようになったのである。


 成長してゆくにつれアランは、優れた能力とそれに奢らない性格が宮廷で評価されるようになったが、これに乗じて色々と彼に野心を吹き込もうとする者たちも出てくるようになった。


 彼らは主に母親の出身国の貴族たちだった。そして、皆、同様に口にするのが兄であるカール第一皇子の不行跡の噂をはじめとする不評だった。それを理由にアランに皇帝になる可能性を説くのである。

 しかし、アランはこうした発言には耳を貸さないどころか内心では怒りを覚えていたのである。


「私は皇帝の器ではありません。それに私が努めるのは地位や名誉のためではなく、あくまで帝国の役に立つ者になりたいからです」

 彼はそう言って聞く耳を持たなかった。

 その上、彼らには兄カールの噂を宮廷に広めるようなことは、あなた方の国に不利になるから気を付けるようにと諭した。


 そんなアランを誇りに思っているのが妹のテレサだった。

 テレサの母であるソフィアは華奢で愛らしい女性だった。

 そうしたソフィアを称して帝国の民は「妖精ソフィア」と呼んだくらいである。彼女は天真爛漫で実際永遠の少女というような存在だった。

 こうした母の下でそだったテレサは世間によくあるように、母とは逆に非常に大人びた少女に育った。

 ある意味頼りない母を支えるためにそうなったともいえる。


 そうした母を持ったせいでテレサはアランを頼りにし、慕った。

 アランもテレサをかわいがり、幼いころにはよく面倒を見ていた。

 長兄である第一皇子のカールに対してはあまり接することが無く、彼女が学園の小学部に上がった折に挨拶した時が最後だった。

 テレサはその際、カールの美貌に圧倒され、抱き上げられて間近に見つめられた時にはボーっとなってしまった記憶がある。


 このアランとテレサがともに臨む難問があった。

 それが皇妃カトリーヌとの茶会だった。皇族間では王妃主催の茶会か晩餐が月に数度行われた。

 ただ、現在は皇帝が体調がすぐれないということもあり、昼間に行われる皇妃が皇子と皇女を招待する茶会のだけが催されていた。


 今回の茶会も数日後に控えており、アランとテレサは皇妃とどんな会話をしたらいいかと思案に暮れていた。

「たまには兄上が同席してくれれば、話も持つのだが」

 さすがにアランは自分の置かれた立場が微妙過ぎていつも話題に困り、珍しく愚痴を漏らした。

 テレサはその様子にプッと噴出した。

「それはダメです。カールお兄さまがいたら、王妃様はずっと小言です」

「確かに。でも、それを僕やテレサがかばってあげれば、王妃様もお兄様を見直すのではないだろうか」

「そんなことができますでしょうか。学園時代のカールお兄様の優秀さは私たちも知っていますが・・・」

 ウーン、とアランは腕を組んだ。

 一度くらいはカール兄を無理やりにでも捕まえて話をせねばと思った。とにかく、王妃様を喜ばせるのはカール兄を褒めることでそのネタがない事にはどうにもならない。

 カール兄には兄なりの考えもあるだろうが、それも伝えなければ誰にもわからない。困ったことだ、とアランはため息をつくのだった。

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