第16話 王国の離反

 帝国からの通達を受けて王国ではこれにどう対応するか官僚、貴族共に意見が分かれていた。

 女王のサラ自身はこれに無条件で従うことには不満があった。

 だが、宰相のアレクは帝国との関係を損ねてまで異論を唱えることは考えてはいなかった。それは王国自体に経済的な余裕があったからである。

 同盟国の首長国、諸国連合は魔族領と国境を接しているため、供出金に応じざるを得なかった。

 ただ、王国に提示された額がこの二カ国に比べ、大きかったことから貴族や官僚からこれをそのまま受け入れるか否かの議論が起こっていたのである。


「しかし、首長国や諸国連合は日ごろから帝国軍の駐留の経費を負担していることもあるので、我々より額が少ないのは当然だと思うますが」

 アレクはサラをそう言ってなだめた。

 というのも、万が一供出金を言われた通り出さないとなると帝国のとの関係は悪化し、それだけでなく首長国、諸国連合との関係も怪しくなるからである。

 そうなるとこれらの国との交易などにも支障が出る可能性があるからだった。


「宰相の言うこともわかりますが、我が国はこの大陸の穀倉と言われるほど、同盟国の食糧を支えています。いわば彼らの補給基地と言っても過言ではありません。

 これがなければ、帝国は討伐どころか自国民の口さえ面倒が見れないことになるでしょう。であれば我が国は、供出金の大幅な減額もしくは免除が相当と返答するべきではないかと私は考えています」


「それを先方に返答して、それでも出せと言われたらどうします」


「同盟から離脱する、という手もあります」


 サラのその言葉にアレクは驚き、眉を顰めた。

「陛下それは本気でおっしゃられているのでしょうか。

 帝国はまだしも首長国と諸国連合との関係も難しくなる可能性があります。そうなれば、我が国の生活物資の調達にも大きな影響が出ます」

 アレクは何とかサラの意思を覆すべく反論を試みたが、女王は引き下がらなかった。


「それは宰相の杞憂ではないでしょうか。

 交易というものはそう簡単にやめられないものです。これまでわが国との取引で商人たちが得てきた利益を帝国や他の同盟国との取引で賄えるとは思えません。

 商人というものは国益より自分の懐を優先するものでしょう」

 サラはそう言ってアレクに微笑みかけた。

 その有無を言わせぬ妖しい笑みに、アレクはこれ以上の議論は危険だと判断し、サラの意向を汲んだ返答を帝国に通知することに同意した。


 しかし、アレクは帝国との交渉と説得のための特使として自らが帝国に向かうことを提案した。サラの意思を通す条件として申し出たのである。

 それを聞くとサラは、初めはアレクの身を案じて反対したが、通知だけで帝国が納得するとは到底思えないというアレクの説得に屈し、これを許可した。


「まさか、同盟国の特使を捕えるような暴挙を帝国はしますまい」

 宰相アレクは心配する女王サラを安心させるように笑顔を見せたが、その笑顔にはかすかな陰りがあった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る