入れ替わった皇帝と魔王の奮闘と回顧

一ノ瀬 薫

第1話 それぞれの失態

 抜けるような青空と見渡す限りの草原の中を走り抜け、付き従う近衛騎兵隊を悪戯心で振り切ろうと、全速で馬を走らせていた。

 馬上の皇帝は、帝国の天候不良による国内の食糧問題の解決などの内政問題や外交については対魔族同盟会議の議長を務めるなど多忙を極めていた。

 それが一段落し、ようやく束の間の休息を得られて久しぶりの遠乗りに出かけたのである。この時期を逃せば、冬が訪れ雪に覆われると遠乗りなどには行けなくなるからだった。

 思い立つと是が非でも行く、というのが皇帝の性格で、朝起きると近衛騎兵に命じて数名を供に出発した。


 「陛下ぁ、お待ちを~。そんなに飛ばされますと危険です~」


 馬を少しばかり速く走らせることくらいで危険とは笑わせる。

 皇帝は振り返ると近衛騎兵隊に向かって怒鳴った。


「貴様ら、たるんでおるぞ。我に置いて行かれるようでは近衛騎兵の名がすたるぞ。はやく追いつかんか、ハッハッハ」


 そして前を向き、馬に一発の鞭を入れると急に体が浮いたかと思うと、全身に衝撃が走り、意識が無くなった。

 ようやく追いついた近衛騎兵は、草原に身を横たえている皇帝に駆け寄るとすぐさまま数名が医者を呼ぶために王城に向かった。




「魔王よ、貴様は我らが手によって藻屑となることを知れ」

 勇者は輝く剣先を向け、険しい表情でそう言い放った。その後ろには二名の男女が魔族に囲まれながらも猛々しく雄たけびを上げていた。


 それを聞きながら、魔王は苦々しい表情で玉座で頬杖をついて聞いていた。

 どうして最近の勇者はいつも下らぬ文句を言ってからでないと攻撃してこないのだ。誰がこういう作法を身に着けさせたのか、まったく舐められたものだ。

 それにまた、四天王もどうしてこうやすやすとこの連中をここまで入り込ませるのだろう。

 まったく誰も彼もなっていない。

 いずれにせよ己の力を過信しているから、こういうことになる。


 しかたなく魔王は玉座に身を深く埋もれさせたまま、不敵な笑みを浮かべて呼びかけた。

「よく来た勇者よ、ここまで来れたことを褒めてやろう。冥途の土産にするがいい」

そう言うと、魔王は低く呟いた。


フランマ


 勇者一行を囲むように炎が彼らを囲った。しかし、勇者が聖剣を一振りすると炎は消え去った。


 ほほう、新しい聖剣か、それともあの魔術師が魔力を付与したのか。

 帝国の魔術技術だけは日進月歩だな。

 そんなことを独り言ちていると、勇者は聖剣をかざすと猛然と魔王に突進してきた。

 魔王はニヤッと笑い、右手を前に突き出した。


エキシテ


 勇者はその瞬間、爆風に吹き飛ばされ仲間にぶつかると倒れた。


「無駄だ」


 そう魔王は言い放ち、この者らを捕えよ、と魔族兵に命じた。


 彼らが勇者たちを取り押さえようとした時、それまで勇者の陰にいた魔術師が、これまでか、と呟くと転移の魔法陣を周囲にめぐらした。

 そして勇者らと共に姿を消す間際、


「これでも食らえ!」


と言い放ち、神聖魔法散弾マジェスティッククラッターをさく裂させた。

 途端に魔族兵はバタバタと倒れた。

 そのおかげかほとんどの散弾は周囲にまでは及ばなかったように見えた。が、たまたまそれをかいくぐった数弾が魔王に向かった。

 傍らにいた護衛魔族がこれらを遮ったが、その間を抜け、ひときわ大きな輝きを放つ光の礫が魔王の眉間を直撃した。


「魔王様!!!」


 ゆっくりと倒れる魔王に数人の護衛が慌てて駆け寄ったが、魔王はそのまま玉座に倒れこみ、目を閉じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る