第9話 確かめるべきこと

 「皇帝」バルビローリは魔王が生きていることを知った。情報部が帝国に侵入して捕えられた魔族を尋問したところ、魔王は四天王らと今回の戦いの賞罰を決める総括会議を開くということが明らかになった。

 とすると、その「魔王」は何者なのだ。

 魔王であった自分はここに「皇帝」としているのである。

 謎である、それはいったい誰なのかである。自分で確かめたいが、そういうわけにもいかない。いくら勇者が重傷で治療中とは言え、昨日の今日で病み上がりの皇帝自ら魔族領に出向くというのはいくら何でもおかしい。

 それに、ただでさえ挫折感を抱いているだろう勇者の心の傷に塩を塗るようなことにもなりかねない。

 しかし、知りたい。


 このことは、「魔王」エスペランザも同じだった。四天王配下の人化魔法の使い手が、周辺国に潜入し、掴んだ情報では、皇帝は勇者と帝国兵の健闘を称える式典を用意しており、周辺国の代表に参加するよう通達しているようなのだ。

 一体その「皇帝」は何者なのだ。

 皇帝であったエスペランザは「魔王」となってここにいるのだ。

 自ら確かめたいのはやまやまだが、今回の戦いで四天王になんの沙汰もなく、いきなり魔王自ら出張って帝国に攻撃を仕掛けに行くというのは、段取り的にも役割的にもスジが通らない。

 確かに侵攻してきた帝国への報復という大義はあるにせよ、それであれば四天王の名誉回復のためというのが自然なやり方だろう。

 ここで魔王が自ら先頭にたって戦うとなると、四天王は無能の烙印を押されたようなものである。そうなると、魔族領内部であらぬ勢力争いを誘発することにもなりかねない。何しろ実力主義の世界だ。

 しかし、知りたい。


 その時、二人は同時に思い至った。

 まさか、と首を振ったが、その想像は一度頭をよぎると、なかなか打ち消すことができなかった。そうであればのつじつまは合う気がしたのだ。

 だが、それが事実であったとしたら、どうなるのか。

 「皇帝」は魔王を「魔王」は皇帝を思った。

 しかし、そうであってもなかったとしても、いずれにせよ何者かがかつて自分のいた地位にあることは明らかである。

 しかし、ここで焦ってもわからないことはわからないのだ。今は己の置かれた立場で現状を維持し、可能な限り情報を集めるしかない。

 「皇帝」と「魔王」の意図するところは非常に消極的なところで一致していた。


 彼らはいずれにせよ、を確かめる必要があった。もしも彼らの思った通りであったとすると、それは神の悪戯としか考えられなかった。

 

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