第30話 王国の始末

 魔族領と帝国の停戦の取り決めは書状のやり取りのみで行われた。

 実のところ、話はできていたのでバルビローリもエスペランザもわざわざ会うことで、両陣営の軍を刺激したくなかったのである。帝国兵の捕虜とラーラの交換も無事完了し、一応の落ち着きを取り戻した。

 魔王と皇帝の密約はあったが、表向きはあくまで臨時の停戦で国境の森には魔族軍と帝国軍が常駐していた。

 

 戦後の最も大きな問題は王国の処分だった。

 帝国は帝国守備隊の常駐の条件として、女王の退位と『紋章』の引き渡しを求めた。首長国、諸国連合もこれに同調し、ついで王国貴族も女王に退位を迫り、離宮に幽閉された。

 その後、女王の処遇に関し、帝国に打診があり、帝国は女王サラにわずかな領地を与えて保護することになった。

 『紋章』は帝国軍に引き渡され、王国での不当な暗殺を行った貴族に対し、帝国で従属魔法を施された懲役刑で、その懲役の報酬を賠償に当てることになった。

 彼らの懲役とはもちろん対魔族の諜報活動である。

 亡命をしていた元王国宰相のアレクは帝国の意向を伝える形で王国に帰国し、王国で貴族会議を開いた。そこで新しい王を迎えることを提言した。

 

 アレクが王国全権の特使として帝国を訪れると、宰相ルーベルがこれを迎えた。

「王国の状況はどのような様子でしたか」

 ルーベルは貴族会議によって総意で作成した文書を携えていた。

「今回の戦いでは、貴族らは国外に逃れることしか考えていなかったせいで、民衆からの信用が地に落ちております。そのため治安も悪化しております」

「なるほど。それであれば何とかお助けしたいところですな。

 何しろ王国の政治が落ち着かないと、他国にもその影響は甚大。

 ことに食糧の流通に支障が出るとなると困りますからな」

 と、ルーベルは、ではさっそく文書を皇帝に、とアレクを謁見の間に通した。


 皇帝はアレク到着の連絡を受け、謁見の間にやってきた。

「アレク殿。何か王国の方で動きはありましたかな」

「皇帝陛下、この度はサラ様の領地までご用意いただき、王国を代表して感謝を申し上げます」

「いや、なに。王国でまた何やら企まれても面倒だっただけでこちらの都合もあったからな。

 で、何か決まったそうだが」

 そう言われてアレクは文書を皇帝に手渡した。


「なるほど、王が不在では困るということか。ルーベル、誰か心当たりはあるか」

「王にふさわしいとなるとなかなか難しいですが、心当たりはないでもありません」

 ふむ、と皇帝はルーベルと目配せするとアレクに告げた。

「帝国皇帝の推挙とあれば王国には納得してもらえるということかな」

「王国はもちろんですが、同盟諸国にもその方が都合がよいかと」

 皇帝はそれを聞いて口元に笑みを浮かべたが、しかし心当たりの者を説得せねばならないからな、いましばらく猶予が欲しいと言った。


 そこでルーベルはよろしいでしょうか、と皇帝に申し出た。

「さきほどアレク殿と話をした折、王国の内政はかなり混乱しているとのこと、誰かアレク殿を補佐する人員を派遣してはどうかと」

「確かにそれは放置できぬことだな。誰か思い当たる人材はおるか」

「はい、心当たりがあります。しかし、とりあえずアレク殿には王国への報告があるでしょうから今日の所はこのあたりで」

 アレクは何かを察したように、皇帝陛下どうかよろしくお願いいたします、と言ってルーベルに伴われて謁見の間を退出した。


 


 


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