第6話 まずは敵を知ること 「魔王」編

 元皇帝エスペランザは考えた。

 魔王のバルビローリに何があったのかを。

 エスペランザは自分が魔王であることに混乱したが、直後に何とか理性を取り戻し、記憶が定かでないとごまかし、侍従のゴラムに何があったのだと聞いてみた。


「勇者一行の魔術師が放った攻撃魔法の光の礫が陛下の眉間を直撃いたしました。

 陛下をお守りするはずの我々がこのように無傷でいるのはまこと万死に値することであります。

 お目覚めがかなった時には、魔王軍は皆、いかなる処罰も喜んで受けようと話しておりました」


 なるほど、とエスペランザは頷いた。

 勇者はともかく、その魔術師は天才と言われるだけのことはあったようだな。

 そういえば、魔術を使えるとことを思い出した。魔術を駆使できるのは良いというか、ここではそれが無くては魔王ではいられないのだ。


「ゴラムよ、我が力を示す方法のいくつかを忘却している。おそらくは眉間に受けた衝撃のせいかとと思うが、何か早急に改善する方法はないか」

「それであれば、二百年ほど前に魔王様がご自身の全魔術の開放に成功した折に、魔術博士らに纏めさせた『魔導大全』というものがたしか魔術図書館の禁書庫にあるはずですが、それに目を通されれば回復されるのでは」

 おお確かに、そのようなものがあった気がする、と言いながらエスペランザはほくそ笑んだ。


「すぐにそれを届けさせよ、そして我が力がよみがえるまで、このことは極秘だ」

と言った時に、ふいにが蘇った。


コストディーレ


 ゴラムを指さし、そう言うとその直後に視線を向けたままつぶやいた。


フランマ


 ゴラムは一瞬にして炎に包まれたがその前に青白いドームに包まれて全く暑さも衝撃も感じることはなかった。


デレオ


 エスペランザのその言葉で炎も消え、青白いドームも消えた。


 ゴラムはおののきながらエスペランザに額ずいた。

「この程度であればまだ覚えているのだがな」

 ハッハッハとエスペランザは高笑いをしたが、すぐに真顔になった。


「すぐに『魔導大全』をもて」

「承知いたしました」

「それから、四天王及び幹部への沙汰は近いうちに申し渡す。すべての力が戻り次第、今回の帝国の侵攻に関する会議を行う。では、たのむぞ」

 エスペランザはゴラムの肩に手を掛けると、休む、誰も入れるなと告げると、魔王謁見の間を後にした。


 私室にもどると、エスペランザは早くできるだけ多くの魔法を習得することと共に、四天王以下幹部と対面せねばならないと考えた。

 それは彼らの自分に対する態度を見極めるためだった。

 今日はたまたま二十年前の時のことを思い出してゴラムはごまかせたが、万が一のことは想定して、四天王との対面までには力を万全にする必要がある。


 帝国であれば身分や体制がすべてであり、それを維持する政治が武器になったが、この魔族領ではそんなものはない。

 魔王領で君臨するためには、己の「力」がすべてである。


 元皇帝エスペランザはそんなことを考えながらベッドに横たわり、束の間の休息を得るのだった。

 

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