第23話 飛べない鳥と鳥籠

 セーマはアメノオシの握る“曇天”を手に入れる。


「来る!」


“曇天”と“カーテナ”がぶつかる。アストレアとカーテナはすれ違うようにして離れる。


「まだ復旧しないのか!」


〈あと10秒〉


「感じろ…カーテナの気配を」


 セーマは集中する。


「…来ない?気配も感じない…どこだ?遠距離武器は持っていない筈…まさか!?」


 再び光を放ち始めたモニターに映ったのは狙撃銃をこちらに向けるカーテナ。


「こっちの真似をしたか…っ」


 放たれたビームを避けるアストレア。


 セーマは飛びながらカーテナに近づく機会を伺う。


「正確な射撃だ…近づこうと思えば当たるな…」


 セーマは避けながらも目的地に到着する。


「アメノオシが捨てたミサイルポッド、クティスさんには感謝しないとな…アストレア、これも使えるように」


〈はい。3秒後使用可能です。〉


 アストレアにビームが迫る。

 アストレアはそれを手に持つ“曇天”を使って逸らす。


「掠ったか…でも!」


 アストレアの持つミサイルポッドから数多のマイクロミサイルが放たれた。


 ―――――

 ―――

 ―


「撃ったのは失敗だったか」


 ミカはこちらに向かってくるミサイルを見てそう思った。


(しばらくすればミサイルはこっちに来る。ミサイルを一つでも撃てば誘爆してミサイルの脅威を無くすことができるがアストレアを見失って接近を許すかもしれない。一定の距離まで近づかれたらカーテナは剣しか使えない。避けようにも追跡機能があるかもしれないし、回避行動中は距離の優位を無くすことになる。ミサイルを放った瞬間に撃てていれば…)


「…タラレバを考えても意味はない。ミサイルを処理しつつ、アストレアに当てる。失敗したとしても早く行動した方が良いな」


 ミカはカーテナの持つ狙撃銃でアストレアを狙い撃つ。

 ビームが当たる前に回避行動をとるアストレアが見えた。が、ミサイルの爆炎がアストレアを覆い隠す。


「やはりな…次はどう出る?爆炎に隠れても狙撃はできるぞ」


 狙撃銃を爆炎に向ける。集中すると、ミカはアストレアの放つ気配を捉えることができた。


「この動きは…直進か!」


 狙撃銃からビームが放たれた。


 ―――――

 ―――

 ―


「っ!」


 セーマは飛んできたビームを回避する。


「こっちが見えてるのかな?嫌に正確な射撃だな…」


 爆炎を突っ切って奇襲をするつもりだったセーマはこっちが見えているかのような射撃に、奇襲が成功しない可能性を悟る。


「でも、もう止まらない。ナグルファの皆の為にも、近づけるこの好機を逃しはしない!」


 セーマはアストレアの速度をさらに上げる。不思議と体に痛みはなかった。セーマの目に銃を捨て剣を構えるカーテナが映る。


「距離を取らずに迎え撃つなんて、近接戦に自信があるんだろう…なっ!」


 アストレアは手に持つ“曇天”をカーテナに投げつける。カーテナは一瞬驚いたような様子を見せたが、“曇天”を弾き、アストレアに向かって剣を突き出す。


「これで終わりだああああああ!!!」


 アストレアは腕から取り出したビームソードをカーテナに向けて薙ぎ払った。


 ―――――

 ―――

 ―


「ん?あれ、ここは?」


 セーマは自分が今アストレアのコックピットにいないということが分かる。


「ここは……宇宙?そしてあそこにいるのは…カーテナ?」


 セーマの横を何かが高速で通り過ぎる。


「うわっ!今のは…テンシュカ?何が起こってるんだ、一体?」


 テンシュカに9本のビームが集中しているのが見える。しかしテンシュカは危なげなく回避した。そのままカーテナの元まで行くと、テンシュカ自身に擦り傷を付けることも無くカーテナを蹴飛ばした。カーテナが蹴飛ばされたのを見たケイロンはテンシュカを撃破しようとビームを放つが、テンシュカの最小限の回避運動と射撃によってケイロンは次々と撃破されていく。そして再び向かってきたカーテナにビームソードを突き立てた。




 セーマの視界が暗転し、またセーマは宇宙空間にいた。


「次は何だ?」


 視界に移るのはカーテナとケイロン、それに加えて見たことのないような機体もいた。


「これは…戦争?」


 まるでニベ公国でのあの戦いのようだとセーマは感じた。戦場はイザヤが優勢の様に見える。カーテナが敵機のもとに向かった。


「さすがカーテナだ。危なげなく勝っている」


 そしてカーテナが敵機の胸辺りを突き刺す。セーマは刺されたあたりから、光が消えていくような光景を見た。そして再び視界は暗転する。最後に見た、まるで狼狽えているようなカーテナの姿を、セーマは忘れることができなかった。




 セーマは広い部屋の中にいた。

 一人の少女と一人の大人の男が一緒に本を読んでいた。セーマはその本に見覚えがある気がしたが、思いだすことはできなかった。




 セーマは格納庫のような場所に来ていた。その場所にあるものはカークスであろうことは予測できるが、何処のどんな機体なのかセーマには分からなかった。


 パイロットスーツを着た一人の少女が歩いてくるのをセーマは見た。どうやら隣の女性と話しているらしい。


『また・・・・・・のですか。なぜ人は・・・・・・・・・しょう。・・・・・・は、・・・では止められないのでしょうか』


『きっといつか・・・・・・日は来ます。今は・・・・・・でも止めるしかないでしょう』


『そうだといいのですが。いつになったら・・・・・になるのでしょう。…アストレア・・・・・・ですか?』


『はい』


 所々セーマは聞き取れなかったが、アストレアという言葉を聞いたセーマは二人の後についていくことにした。


「アストレア?今どんな状況なのかわからないけど、ここにあるのか?」


 セーマの前を行く二人が立ち止まる。セーマはを目にした。


「白と黒の…アストレア?」


 セーマ達三人の前には白色と黒色の、二機のアストレアがいた。


『では行ってきます』


『はい。お気を付けて』


 少女は迷うことなく白色のアストレアのコックピットへ入った。

 セーマは少女と目が合ったような気がしたが、少女は何か言う様子もなくコックピットが閉まった。


 ―――――

 ―――

 ―


『戦闘終了!勝者はバルホール帝国!まだ戦闘領域に残っているカークスのパイロットたちは速やかに離脱するように。行動開始!』


 セーマは茫然としていた。しかし通信の音がセーマの意識を呼び戻す。


『アストレアといったか。見事だった。しかし、次また機会があったら絶対に負けない。つまらない戦場でいなくならないでくれよ』


〈通信終了。通信対象:カーテナ〉


 セーマはそのモニターの文字を少し眺めた後、ナグルファに帰還した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る