第39話 セーマの悪夢:天秤
遅れました!ごめんなさい!
良い終わり方ができず、四苦八苦してました(言い訳)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
カーテナを倒す絶好のチャンスをつかんだセーマだが、それを活かすことはできなかった。
アストレアの持つビームライフルが両断され、爆発する。
(撃てなかった……ライフルが破壊された今、これで僕に攻撃方法は無い)
カーテナがアストレアに迫る。
(今回も駄目だった)
動かないアストレアの胴体にカーテナの剣が深々と突き刺さる。
セーマは15回目の死を迎えた。
―――――
―――
―
セーマは静かに目を開く。
(僕は撃てなかった。倒せなければ僕が死ぬと分かっているのに、それでも僕は!)
セーマは前を向く。こちらを待っているであろうカーテナを視界に捉えるために。
「……な!?」
セーマの前にカーテナはいなかった。代わりにそこにあったのは……
「戦場……!?」
目の前には迫ってくる無数の戦艦。それぞれがセーマの背後に向けてビームを放ち、複数のカークスがこちらに向かって来るのも見える。
それに対応するようにセーマの背後からもビームが飛んでいき、セーマの横をカークスが過ぎていく。
「あれは……モープ?いや、なんというか……違和感があるな」
見た目にモープの面影はあるが少しアンバランスな装甲をしている。装備している盾には装飾や塗装も見受けられず、いかにも「急いで作りました!」という様子だった。
セーマは少しそのカークスを観察していたが、目の前を横切ったビームで正気を取り戻す。
「そうだ、もしこれがさっきと同じなら、何回も死ぬことになるかもしれない……いや、それともこれは未来の光景なのか?」
セーマはアストレアを動かす。
(自分で動かせるってことは、さっきのカーテナと同じだ)
少し気分が落ち込んだセーマだったが、アストレアを加速させ戦艦の目の前に到達する。
「この戦艦……どこの国だろう。僕にもう少し知識があれば分かったのかな」
無防備に近づいたアストレアに向かって敵のカークスが突っ込んでくる。
「なんだかさっき見たモープとちょっと似てるな……色は違うけど」
放たれたのはライフルの実弾。アストレアは盾を構えるが、盾の必要性を疑うレベルの弾しか飛んでこない。
(さっさと終わらせよう)
アストレアがビームソードを構える。
(……っ!?)
セーマが目の前のカークスに向かって振り下ろそうとした瞬間、パイロットの恐れの感情がセーマに伝わる。
「この人たちは軍人じゃないのか!?今にも逃げ出しそうなほど怯えている……?」
停止したアストレアの横顔にロケット弾が当たる。
「くっ!?」
揺れに耐えたセーマがロケット弾が来た方向を見る。その瞬間、セーマを衝撃が襲う。
「っ……さっきの怯えていたカークス!?」
先程怯えた様子を見せたカークスがブレードでアストレアを斬りつけていた。幸いなことにアストレアを傷つけることができる威力ではなかったが、セーマは混乱する。
(さっきのは演技!?いや、まだ怯えているような……?怯えているのに攻撃してきた?)
セーマはようやく理解する。
(そうか、本当に戦争なんだ……。この人は戦わないといけないから戦っているんだ。自分が死なないために僕を倒そうとしてるんだ)
(どうすればいいんだ、僕は)
セーマの周りを敵と思わしきカークスが取り囲む。
(……)
セーマの周りで複数の機体が爆発する。
『大丈夫ですか!—―――様!』
通信から流れてくる声は不明瞭だったが、どうやらアストレアの援護に来たらしい。セーマはそのカークスを見る。
(モープ?ちょっと前に見たのよりも僕が知ってるのに似てる)
『行きましょう。ス』
目の前の機体が爆発し、通信が途絶える。
「な……」
ビームに撃ち抜かれたらしい。発射されたであろう方向に目を向けるとそこには見たことのないカークスがいた。
その正体不明のカークスまでもが、爆散する。
「は?」
これが戦場。余裕がなくなれば、隙を見せれば、安堵すれば、勝ち誇れば、死ぬ。
セーマが今も生きているのはアストレアとそれ以外の性能の差に過ぎない。
「っ!っ……!」
セーマは動けない。今まで経験した戦場よりもはるかに規模の大きい戦場。先程までいた人が一瞬で消える。セーマのトラウマとなっていた光が、ここではあまりに多い。その戦場で、アストレアの性能でセーマは生きている。本当なら死んでもおかしくないのに、それでもセーマは生きている。
セーマはアストレアに恐怖した。
―――――
―――
―
戦場は徐々に押されていく。完全に無視され、もうセーマに攻撃してくる存在は無い。だというのに、セーマの心に安心など欠片もなかった。セーマの周りで、この戦場で死ぬ人々。なぜかセーマはそれらが親しかった人たちだと感じる。
(助けに、守りに行くべきだ)
だが体は動かない。この戦場でアストレアが動く。それは一方的な殲滅になるだろう。セーマにはその力を行使する勇気が無かった。
セーマの周りにまた光が増える。
セーマに纏わりつき、離れない光。
セーマはその光に飲み込まれた。
―――――
―――
―
セーマは目を開く。アストレアのスラスターを全開にし、戦場を誰よりも速く駆ける。敵カークスの攻撃を気にも留めず、戦艦までたどり着いたアストレアはビームライフルを一発、二発と放つ。複数の戦艦の主砲が爆発した。
セーマは三回目にして仲間を守るためアストレアの力を行使した。
セーマは五回目にして敵の撃墜を始めた。
セーマは九回目にして自分の限界を知った。
セーマは十回目にしてすべてを守れないと悟った。
それでも。
セーマは自分の持てる力を使い、守ることのできる範囲だけでもと足掻いた。そしてこの戦場でセーマの導き出した最善策。それは敵の狙いを自分に集中させること。戦場で暴れまわれば敵は対処せざるを得ない。当然その分味方の負担は軽くなる。たとえセーマの負担が増えたとしても、それで味方の生存率が上がるならばと、セーマはこの方法を選んだ。
(敵の被害が多くなれば、撤退するはず!)
敵カークスはこちらにライフルを放つ。その集中砲火の中でもアストレアに傷はつかない。
セーマは次の戦艦へ。すれ違いざまに五機のカークスの頭や足、武器をいつの間にか取り出したビームソードで切り裂く。
「っ……」
ビームライフルに持ち替え、戦艦に向けて放つ。射線に入ってきた敵カークスも何機か巻き込まれたが、セーマにそれを気にする余裕は無い。
(急がないと、みんなが死んでしまう!)
アストレアに敵カークスが二機組み付く。アストレアはビームソードを正面のカークスの側面から突き刺す。続いてビームソードを逆手に持ち背後のカークスを突き刺す。
(ためらったら守れないんだ……!)
セーマはがむしゃらに進む。なにかを振り払うように。
ひとしきり暴れまわったセーマは、撤退していく敵をただ見ることしかできなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます