第38話 セーマの悪夢:最強の剣

 星が壊れたその光景に、セーマは思わず目を背ける。




「……っ!?」


 その時、セーマの体に衝撃が伝わる。思わず手に力が入り、セーマは反射的にアストレアを動かした。


「あれは……カーテナ?」


 セーマが顔を上げると、そこにいたのはカーテナだった。


 折れたような実体剣。

 こちらを見据える、どこか恐ろしい雰囲気を持つ双眸ツインアイ

 騎士を連想させる装甲。


 間違いない、あれはカーテナだ。セーマはそう思うと同時に違和感も感じる。

 一つ、記憶の中のカーテナより傷が多い。傷と言ってもかすり傷のようなものではあるが、ミカのカーテナにはそんな傷は無かった筈だ。

 二つ、腕が少し細い。ミカは腕にワイヤーを仕込んでいたはずだが、恐らくそれが無い。

 そして三つ、 肌に刺さるほどの威圧感プレッシャー。ミカの時にも似たようなことがあったが、これは質が違う。これは……






 殺気。






 カーテナがこちらに急接近する。


(しまっ!反n)


 セーマはアストレアごと真っ二つにされた。


 ―――――

 ―――

 ―


「ガ……ァ……ッ!……今のは一体……っ!?」


 その時、セーマの体に衝撃が伝わる。


「まさか!」


 セーマが顔を上げると、そこにいたのはカーテナだった。


 ―――――

 ―――

 ―


「ぐ……っ!」


 セーマの体が跳ねる。


 13回。セーマは13回カーテナによって殺されていた。

 普通、13回も殺される経験をすれば心が折れるかもしれないが、痛みを感じないおかげかセーマの心は折れていなかった。


(自分がやられる瞬間はいつまで経っても慣れない……いや、慣れたらだめなんだ。なんとかカーテナを倒さないと)


 現実に戻る方法は何度も試した。だが結果として、セーマはここにいた。

 もうセーマの体に衝撃は伝わらない。伝わるのはカーテナのコックピットから発せられる殺気のみ。


 カーテナが急接近する。目の前のカーテナを、セーマはビームサーベルで迎え撃つ。


 お互いの武器から火花が散り、鍔迫り合いの姿勢でお互いにらみ合う。


(今回は避けなかった。パワーはアストレアと互角のようだ……どう出る?)


 セーマの直感がカーテナの行動を伝える。


(蹴り!)


 アストレアの足底をカーテナの蹴りに合わせる。


(これで距離を取れば!)


 アストレアの脚部の信号が消える。


「この一瞬で……!?」


 斬ってくるのか。その言葉を発する暇もなくカーテナは迫る。

 ほぼ悪足掻きで突き出したビームソードをカーテナは潜り抜ける。


(やられる!)


 足を失ったアストレアは、そのコックピットを貫かれ、沈黙した。


 ―――――

 ―――

 ―


「っ!」


 セーマは目を覚ます。死ぬ直前に見たコックピットが潰れる光景が、嫌でも脳にこびりついていた。


「……」


 前を向けば、剣を構えたカーテナがこちらを見ている。


(今僕が見ているのは本当に起こりうる未来なのか?)


 何かが違う。確かに感じる違和感。だが、それを確かにする方法は無かった。


 ビームソードを取り出し、展開する。それを合図としてカーテナが動き出した。


 ビームソードを横に薙ぐが、カーテナはその上を越えるように回避。すれ違いざまに振り下ろされた実体剣を、アストレアはシールドで受け流し、スラスターを吹かす。


「くらえ!」


 距離が開いたところで、振り向きながらビームソードをビームライフルに持ち替え、発射。カーテナに当たる……が、実体剣で防がれたのか、ダメージは見受けられない。それを見たアストレアは再びビームソードに持ち替えた。


 二機が一瞬で近づき、ビームソードと実体剣が交差する。


(パワーは互角。だったら)


 アストレアが盾を少しだけ自分の方に寄せる。それを見たカーテナはアストレアから離れ、盾の方へ向かおうとする。


「掛かった!」


 悪夢を終わらせるためにセーマが仕掛けた陽動フェイント


「おわりだぁぁぁぁぁ!!!」


 一瞬の隙を作りだしたセーマはカーテナにビームソードを突き出す。


「なっ!?」


 セーマが突き出したビームソードがカーテナの左肩を穿つ。


(見誤った!?)


 セーマの思考が止まる。アストレアが突き出した隙だらけの腕がカーテナによって切断される。


(しまっ!)


 アストレアの胴体にカーテナの足が突き刺さる。コックピットに強い衝撃が伝わり、カーテナとの距離が離された。



 アストレアとカーテナは向かい合う。


(右腕がなくなった。シールドは手放すしかない。)


 アストレアは左手のシールドを放棄パージ。ビームライフルを腰部の背面に取り付け、最後のビームソードを取り出し、展開する。


(来る!)


 アストレアは迫るカーテナにビームソードを投擲する。

 突然の奇行に驚いた様子を見せるカーテナ。しかしすぐに気を取り戻したのかビームソードを弾く。



 アストレアはビームライフルをカーテナに向けていた。


(貰った!)


 その瞬間、セーマの頭にある光景がフラッシュバックする。

 放たれるビーム。爆散する機体。消えていく光。




 セーマは撃つことができなかった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇










 それは、過去の記憶。


 不器用な男の決意表明。

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