第37話 変わらないもの、変えられるもの
「こいつは、俺の先祖が一つの金属から削り出して作ったものだ。こいつはある特殊な能力を持っている」
「特殊な能力?一体何なんですか?」
「端的に言えば、未来予知だ」
「未来予知!?」
「いや、未来予測と言った方が良いか。こいつに乗り込んだ奴は、現時点で最も辿り着く可能性の高い未来を知ることができる」
「それは…とんでもないことじゃないですか!?」
「そうだな。とんでもないことだ。だから大勢の人に知られてはいけない。なぜなら、こいつが見せる未来は変えられるのだから」
「未来を、変える……?」
「ああ。例えば、自分がカークスに乗り、撃墜される未来を見たとする。もし撃墜されたくないのであれば、カークスに乗らなければいい。それだけだ」
「確かにそうかもしれないけど……」
「まあ覚えていればの話だがな。見た内容を忘れてしまえば未来を見ても何も変わらん。まあ、こんなことを話していても意味は無い。とにかく、俺たちはこいつのおかげで君のことを知った。さっき交戦した奴らの接近も事前に知っていたというわけだ。これでも君は俺たちを許すのか?」
「話が大きすぎて許す許さないの判断なんてできませんよ……」
「確かに、こんな話を突然されたらそうなるのも無理はない。……これを君に見せたのは、これに乗ってもらうためだ。今の君には、こいつは役に立つんじゃないかな?」
「いいんですか?」
「謝罪変わりだと思ってくれ。それと、こいつが見せる未来の場面は人によって違う。できれば君の見た未来を教えてくれると嬉しい」
そう言いながらも男はセーマをリフトまで誘導し、リフトを操作する。二人はコックピットの目の前まで到達し、男がコックピットハッチを手動で開ける。
「いいか、この機体に座ったら目を閉じて『未来を見たい』と強く願え。目を閉じたまま少し待てば、君は未来を見ることができる。未来を見て満足したり、見たくない未来が見えて耐えられなくなったら『戻りたい』と強く願え。次の瞬間、君は暗いコックピットの中で目を覚ます」
「分かりました」
「……今の君にあるのは未来を覗く権利だ。義務じゃない。見たくなくなったら、すぐに戻っても良い。未来のことを忘れてしまっても構わない。君が忘れてはいけないのは、未来の可能性は無数に存在し、君によって変えることができるという事だ。……覚悟ができたら乗り込んでくれ」
セーマはコックピットに乗り込む。中にはカークスと同じようにコックピットシートがあったが、それ以外の操作に必要そうなレバーどころか、周囲の風景を移すモニターさえ無かった。
「コックピットを閉じるぞ」
「はい」
セーマは暗闇の中シートに座る。
(未来を覗くなんて……願ってもないことだ。もしかすると僕がこれからすべきことが分かるかもしれない。どんなに悲惨な未来が見えても、変えられるのだとしたら……これから見る未来はしっかり覚えないと)
セーマは少し不安を抱きながらも目を閉じた。
***
「彼は何を見るのだろうか……願わくば、平穏な未来が見えればいいのだが」
男の目の前の機体がうっすらと光り、その光がゆっくりと格納庫を満たす。
「いつ見ても幻想的な光景だ。……ただ、少し光が弱い気がするな。カークスの動きからして、セーマ君は素晴らしい才能を持っているはずだが……」
突然、格納庫を満たしている光が強くなる。
「っ!?……何だ?何が起こって……」
男は気付く。セーマの乗っていたカークスが光を放っていることに。
「セーマ君の機体が光を放っている!?一体何故……いや、あの機体、もしかして」
男は通信機を手に取ると、慌てた様子で叫ぶ。
「過去の記録を持ってきてくれ!今まで未来を見た者の……特に光が強かった時の記録だ!」
***
セーマは心地良い揺れを感じ、目を開ける。
(ここは…戦場?アストレアのコックピットの中なのか?)
ビームの残光がセーマの目の前で交差する。
(戦場だっていうのに、凄く穏やかな気持ちだ…現実じゃないからか?)
セーマは乗っている機体を加速させた。
(体が勝手に動く……そうか。未来を見ているから、今の僕が動かせないのか)
セーマの横を見知らぬ機体が通り過ぎる。その機体はセーマの背後の機体を撃っているようだ。
(見た目はガルドラ連邦のカークスなのに味方してくれている……?それにしても、凄い加速だ。今の僕はこの加速に耐えられるのだろうか)
セーマの方に飛んでくるビームやミサイルも、セーマが乗る機体を捉え切れていない。当たりそうなビームもギリギリで逸れているようだ。
(……っ何だ、あれは?)
セーマの目に映るのは巨大な宇宙要塞とでも呼べそうな代物だった。その外壁には数多の砲身が伸び、ビームだけでなく実弾も放っているようだ。他にも数多くのミサイルポッドが取り付けられていた。だが、何よりも目を引くのはその中心部。戦艦さえ呑み込みそうなほどの巨大な穴。セーマは察する。それが巨大なビーム砲だと。
(一体何故あんなものが……何を狙って?)
セーマはビーム砲が向く先を見る。
(あれは……まさか!星を狙っているのか!?いくら遠いと言っても、あの穴と同じサイズのビームが放たれたらとんでもない被害が出る!……そうか、僕は止めようとしているのか、これを)
進むセーマにビームが迫る。が、これをシールドで受け止めた。
(敵?あれは……シルトさんのアストレア?遠くてよくわからない)
セーマの乗る機体は加速し、敵の機体と交差する。セーマはビームソードで切り付けていたが、敵に当たった様子はない。そのまま距離を保ったままお互いに飛び回り、ビームの応酬が続く。お互い何発か当たっているはずだが、目立ったダメージは見えない。
不意に、セーマの周囲が光り始める。
(なんだ、この光は……暖かい光なのに、悲しみや焦りが伝わってくる……?)
セーマは敵の方を見る。敵の機体も光を放っているようだった。
(あの機体の光……怒っている?それに、何かに失望しているかのような)
再びセーマの機体が敵機に近づく。
ビームソードで敵機を攻めるが、敵機は躱し、受け止め、反撃してくる。
(っ!?)
敵機の攻撃を盾で受け止めたことによって吹き飛ばされたセーマの視界が、突然光に包まれ、セーマは思わず目をつぶる。
(そんな……まさか)
どうやら、ビーム砲が発射されたようであった。セーマの視界に、ぽっかりと穴の開いた星が映る。
「こんなことが……」
セーマにはそれがどこの星かわからない。だが、確実に人が住んでいた星だ。
セーマの目の前で、壊れた星を生命の光が包み、消えた。
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