第6話 第一採掘場防衛戦②

 セーマはコックピットの中に入り、アストレアの起動と状態のチェックを進める。それを完了させ、アストレアを立たせたセーマは武器ラックからシールドとライフルを取り出し、ライフルのマガジンの予備とブレードがアストレアに装備されていることを確認した。


『セーマ、準備はいいか?』


 指令室からオペレーターの通信が入る。


「はい。アストレア、いつでも行けます」


『出撃ハッチ開放。無事に帰ってこいよ』


 その言葉を最後に、セーマは母艦からアストレアを出撃させる。

 内臓が浮くような感覚に襲われながら、着地の衝撃に備える。着地したアストレアの隣にはアレスが乗る“モート”がいた。


『セーマ、緊張しすぎるなよ。もちろん油断も駄目だぞ』


「分かってますよ、アレスさん。僕はアレスさんとは違うので」


『どういうこと?まあいい。俺たちが一番乗りだから、とりあえず先に行って偵察だ。敵が潜んでいるとまずいからな』


「了解です」


 二人は母艦から共有されるレーダーの情報を基に進む。後ろでも続々と味方機体が出撃しているのが分かった。


『そろそろ敵が見えるはずだが…っ』

正体不明機unknownからの攻撃を感知。〉


 アストレアのモニターに文字が表示される。

 

 アレスはモートが持っているシールドで敵のライフル弾を受け止める。

 セーマは弾が飛んできた方向にライフルを向けた。


『どうやら先に見つかったらしいな』


「そうみたいですね」


 しかしその機体は攻撃が失敗したと見るや否や、採掘場近くの森林へと逃走する。

 セーマはその機体を逃すまいとアストレアを前進させようとする。


『待て、セーマ。敵の罠かもしれん。味方が来るまでいったん待機だ』


「でも…」


『いいか、森林ってのは機体を隠しやすいんだ。俺たち二人だけで行っても、囲まれて撃破されるのがオチだ。それに今こちらの被害は限りなくゼロだ』


「確かにそうですね。わかりました」


 セーマとアレスは後続の味方を待ち、横に展開して森林へ機体を進める。


『にしても、敵のカークスはいたらしいのに、敵の母艦が見えないのはどういう事なんすかね?』


 アレスではない軍人、モープの改造機に乗るビスカスという男が口を開く。


 本来、自分でエネルギーを生産できるカークスには活動限界は存在しない。しかし、最初に言われた“巨大な”熱源反応というのは、敵にも母艦が存在し、その母艦が発する熱を感知したという意味である。また、共有されたレーダー情報でも、カークスに乗る彼らの位置から肉眼で見える位置に存在することが推測できるのに、実際に見ることはできていない。部隊のパイロット達は底知れない不安を感じていた。


〈謎の飛翔体がこちらに向かってきます。〉


 突然ミサイルなどの接近を知らせるアラームが鳴り、セーマから少し離れていたモープが爆発したように見えた。セーマたちは敵からの攻撃であると一瞬遅れて気が付いた。


「ビスカスさん!!」


 セーマは攻撃されたモープへと近づいた。


『あのバカ!』


 アレスがセーマを止めようと動く。直後あの時と同じアラームが鳴り、アストレアが爆発に巻き込まれる・・・ことは無く、アストレアは盾で敵の攻撃を防いだ。アレスはそれを見て、攻撃が来た方向にライフルの弾をばらまきつつアストレアのカバーをする体制に入る。


『総員、一時退避だ!敵に囲まれる前に体勢を立て直す!」


 アレスが指示を入れる。


『おい、セーマ!急げ!』


「分かってます!」


 セーマは攻撃を受けた機体を引っ張りながら退避しようとする。が、敵は逃がすまいと攻撃を続ける。セーマは咄嗟に盾を構えたが、敵のミサイルはセーマの盾に届く前に爆発した。


『俺達がカバー援護する!急げ!』


「はい!」


 防御を気にしないアストレアは、中破したモープを先程より強く引っ張った。


 ─────

 ───

 ─


 戦場は膠着状態に陥った。


 セーマたちは敵が攻めてこないように、そして敵の母艦を見つけるために森林を見張った。


 敵の母艦は見つからない。どうやら母艦は熱源反応を一時的に抑えているらしい。しかし、敵カークスの放つ熱の分布から、いまだ森の方にいるのは確実だと考えられていた。こちらの母艦が森に近づけばより詳しいことがわかるかもしれない。だが近づけばこちらの母艦が墜ちる可能性が高くなることはセーマにも理解できていた。


『これじゃあ埒が明かねぇ。手あたり次第に攻撃してみるか?』


 誰かが言った。


『そんなことをしても弾を無駄にするだけだ。弾がないとわかったら大勢で森からこっちに出てくるぞ』


 アレスが答えた。しかし戦場に長時間居て敵の位置がわからないという事実は彼らに大きなストレスを与えていた。そんな彼らの空気の中、セーマが口を開く。


「僕が空から敵の母艦を見つけます」


『何を言ってるんだ、セーマ』


「アストレアは長時間高速で飛べます。空から母艦を見つけたら共有して、即座に撤退します。それでどうですか?」


『…わかった』


 どうやらアレスもこの状況をどうにかしたいようだった。


『おいアレス!?』


 即座にアレスの近くにいた仲間が声を上げるが、アレスは気にせずに条件を加えた。


『ただし森に近づきすぎないこと、少しでも弾が当たったら撤退すること。できるな?セーマ。』


「はい!」


『よし。なら行って来い。機体を壊して整備士から恨まれるなよ?』


「分かってますよ。」


 セーマはそれだけ言うと、アストレアを空に解き放った。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 今回出てきた敵機はC・クローチの迷彩使用です。また、アレスが乗るモートはビームガンを使えますが、弾持ちの違いと連射性能から実弾のライフルを持ってきています

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