第7話 第一採掘場防衛戦③

 アストレアが大空を飛ぶ。その背中の翼のようなスラスターから光を放ちながら飛ぶさまは、まるで戦場に舞う天使のようだった。が、実際はものすごく早く飛んでいるため、アレスを筆頭にセーマの仲間たちは驚愕していた。


 セーマはアストレアにあるレーダーやセンサーの類を使用し、敵の母艦の位置を探る。


「どこにいるんだ?空から見ても見つからないなんて…」


 そうして飛んでいるうちに敵はアストレアに気付き、撃ち落とそうとライフルやミサイルを放つが、セーマはそれを巧みに回避する。しかし、空を飛べば母艦などすぐに見つかるだろうなどと高を括っていたセーマには焦りの気持ちが湧いてきていた。


〈敵母艦の存在を感知。レーダーに表示します。〉


 アストレアのモニターに文字が表示される。


「え、みつけたの!?あれ?でもこれって」


 アストレアのレーダーに母艦の存在が強調表示されているが、周りの風景を表示する大型モニターには何も映っていない。セーマは半信半疑で母艦がいるらしい場所に近づく。


〈敵からの攻撃を感知。回避してください。〉


 モニターの指示されたとおりに回避行動をするセーマ。先程までセーマがいた位置が爆発した。時限爆破式の対空砲である。


「こっこのっ!!」


 セーマは攻撃が来た方向へライフルを撃つが、その弾は空中で弾かれる。その時セーマは突如空間がゆがんだような錯覚を受け、目の前に自分たちが乗っているものよりも小型の母艦が出現した。


「と…透明化!?どうりで見つから無いわけだ…」


 セーマは再び放たれた対空砲を躱すと、仲間たちの元へアストレアを急がせ、アレスに通信を行う。


「アレスさん!敵の母艦を発見しました!」


『よくやったセーマ!急いでこっちに引き返せ!』


 アレスの声を聴き、セーマはさらに速度を上げる。体を襲う圧力が強くなるが、セーマは早く戻るため気にしなかった。その時、セーマたちの母艦のオペレーターから通信が入る。


『アストレア、敵母艦に攻撃を仕掛ける。射線にかぶらないよう注意しろ』


 その後すぐに送られてきた射撃予定の場所のデータを見て、味方に撃たれないよう機体を横にずらす。直後セーマの横を光が通り過ぎ、敵の母艦で爆発が起きる。


「さすが母艦の主砲…あんなビームに当たったら蒸発するんじゃ…?」


 セーマはそう考えたが敵母艦は蒸発しない。しかしながら被害は大きいようで、派手な爆発が起きた。


『母艦をやられた敵が攻めてくるぞ!迎撃の準備だ!』


 アレスが出した指示にセーマは体を強張らせる。森林を囲むように展開した味方の近くに降り立ったセーマは、想像以上に数が少ないが鬼気迫った様な勢いで迫ってくる敵をレーダーで知覚した。


『撃てー!!』


 号令と共に、向かってくる迷彩柄の六機の敵に対して一斉に射撃をするセーマたち。


 敵は三機の盾を構えている機体を前にしてセーマたちの方へ突っ切ってくる。


 一機の盾を構えた機体がビームに貫かれて爆発する。オピスの支援射撃だった。


 また敵の機体が、味方のモープが肩につけたキャノン砲でバランスを崩され、弾の雨によって関節部が破壊され、前に進めなくなる。


「僕が一機止めます!!」


 セーマはブレードを構え、最後の盾持ち機体に斬りかかる。後ろにいた三機は前の機体が止められたと見るや、セーマを飛び越え後ろの機体へ襲い掛かる。


 一機はアレスのモートが持つビームソードによって腕が切り落とされ、頭と胴が分離された。


 一機はキャノン砲とライフルを空中で食らい、爆発する。


 一機はモープが持つシールドに攻撃を防がれ、仲間のモープが持つブレードで貫かれた。


 セーマはシールドを持つ機体のブレードをこちらもシールドで受け、持ち替えたライフルで足の関節に攻撃を仕掛けて立つ能力を奪い、敵の腕、頭の順番で破壊して戦闘能力を奪った。


『お疲れさん。すぐに回収に向かうから警戒しつつ待っててくれ。』


 オペレーターから戦闘の終了が告げられた。


 ―――――

 ―――

 ―


「まったく、セーマはすごいよな。敵を殺さず無力化するんだから」


 ビーサムに帰還した後、アレスが飲み物を片手にセーマの所に来つつ行った。


「それはアレスさんも一緒でしょう?」


 アレスの言葉にセーマは言い返す。


「今回は一機だけだったし、練度も低かったからな。それに俺がまだひよっこだったときは自分の命を守ることに必死で多くの人を殺した。きっとこれからもそうだろうが…。そういえば、艦長に報告しないといけなかったんだった。俺はもう行くが、セーマ、お前はしっかり休んどけよ」


「分かりました」


 セーマがそう答えると、アレスは「じゃあな」と言って艦長がいるであろう司令部へと向かっていく。その背中を見送った後、セーマは不意に後ろから声を掛けられた。


「セーマ君、お疲れさまでした。今回はすごく活躍したとか」


「オピスさん」


「ですがずいぶん無茶な行動をしたとか。あまり無理はいけませんよ?」


「はい……あの、母艦の方から援護してくれたのって、オピスさんですよね?」


「ええ。森から出てきたので、気兼ねなく打てました」


「やっぱり。あの距離から当てられるなんて、すごいですね」


「いえ、あれぐらいの距離を想定して造られていますので。むしろ外したら私は軍から除籍されるでしょう」


「いや…さすがにそんなことは…」


 セーマは冗談かどうかわからず戸惑う事しかできなかった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 戦艦紹介


 ビーサム


 ニベ公国が保有する、カークスの運用を前提に設計された母艦。バルホール帝国製。最大十二機のカークスを機体ハンガーに収めることができ、カークスの補給のための設備もある。また、船員のための生活スペースや食堂、脱出ポットもあり、司令部は非常時切り離し独立させることができる。


〈武装〉


 大型ビーム砲、二連装中型ビーム砲×2、二連装対空砲×6、ミサイルランチャー×20、その他索敵・連絡機器



 カミリオン(敵母艦)


 ガルドラ連邦共和国が保有する特殊母艦。カークスを最大八機収納可能。特殊なステルス能力があり、母艦の姿を十二時間ほど透明にすることができる。ステルスのための装置と母艦の小型化を両立させたため装甲は薄い上、ビーム兵装はステルス装置と相性が悪いので搭載されていない。


〈武装〉

 大型対戦艦砲×3、対空砲×20、大型ステルス装置、装甲用冷却装置、その他索敵・連絡機器



 ※今更ながら、索敵や連絡のための機器はカークスにも搭載されています。(戦艦の物よりは劣る)

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