第22話 不殺の剣は何のため

 そういえば模擬戦での武器について書いてなかったと思うので書きます。


 模擬戦では、模擬戦用武器の使用・武器の模擬戦仕様への調整が必要です。実弾武器を使う場合は所謂ペイント弾、ビーム系の武器を使う場合はビームの無害化をします。無害化されたビームが機体に当たった時、機体に損傷を与えることは無く“機体の◯◯(場所)に当たった”という情報が機体に伝えられ、その程度によって部位の行動停止あるいは撃墜の判定が出ます。


 実体剣を使用する場合はコックピットやエンジン部を狙った攻撃は原則禁止です。実体剣の攻撃では、頭部を破壊した時のみ撃墜判定となります。刃を潰しているのなら当たった時の衝撃でいい感じに判定が出ます。


 撃墜判定が出ると一時的な行動停止、レーダーからの消失となり、行動可能になった後戦場からの速やかな離脱をしないといけません。


 違う国・所属で模擬戦をする場合、模擬戦で破壊された機体や武器は破壊した側が修理する、或いは修理にかかる資材・資金を渡す必要があります。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 カーテナがアストレアに向かってくる。その鬼気迫る様子から、アストレアを早々に撃墜し、仲間の救援に行こうという魂胆が見て取れた。


 カーテナが剣を振りかぶり、アストレアに向かって振り下ろす。アストレアがビームソードで迎え撃つが、剣は交わらず、セーマに衝撃が伝わる。


(大体わかった…今の剣はただの剣だ)


 続いて繰り出される蹴りを、セーマはシールドで防ぐ。カーテナは防がれたことを意にも介さず、剣で攻撃を仕掛ける。


(きれいな攻撃だ…まるで舞っているかのような…)


 セーマはひたすら防御に努め、観察をする。


(……今だ)


 アストレアはカーテナの攻撃をシールドで弾く。カーテナは弾かれた勢いを殺さずその体を回転させる。


(狙いはビームソードを持っている腕。予想が正しければ…)


 アストレアの腕を狙って振られる剣をセーマは。カーテナは予想してもいなかったのか、次の行動が遅れる。この戦闘において、致命的な隙だった。


 カーテナにアストレアの盾が衝突した。


 ―――――

 ―――

 ―


「ぐぅっ!」


 自身の体に伝わる衝撃。

 ミカはアストレアに殴られたのだと理解した。


「っ!」


 ミカは殆ど反射的にカーテナを動かす。アストレアの放ったビームライフルの光が真横を通り過ぎていった。


「私が、圧倒されている…?」



 情けない。そう思った。

 アストレアとやらに予想以上に時間を使った。

 部下を六人も倒された。

 アメノオシを倒しきることができなかった。

 そして今、止めを後回しにしたアストレアにやられ、倒しきれなかったアメノオシに仲間が襲われている。



「今理解した。アイシャは私を試しているんだ。私の信念がいかに無謀で脆いか、それを叩きつけてきたんだ。あの日の決意を、負けた日の悔しさを私は忘れていた」


 レーダーが、三機の仲間の撃墜を示した。


「………私は、弱い。」


 ―――――

 ―――

 ―


『アストレア!こっちは終わった。今から救援に向かう!』


「ありがとうございま…っ」


 何か雰囲気が変わった。セーマはそう感じた。それはクティスも例外ではなかったらしい。


『なんだ?あのカークスの能力か何かか?雰囲気が変わって…』


 アメノオシの腕が飛ぶ。


「クティスさん!」


 セーマが一発、二発とビームライフルを放つが、カーテナに当たらない。


「っ!」


 体が動かない。

 少しでも動けば、少しでも目を逸らせば一瞬で斬り伏せられる。そう思ってしまうほどの威圧感プレッシャー


『アストレア!』


 その声でセーマは我に返る。目の前に迫るカーテナに対し、アメノオシがその手に持つ“曇天”を投げつけていた。


“曇天”を余裕をもって弾いたカーテナは標的を武器を持たないアメノオシに変更する。


『あとは任せた』


 セーマのレーダーから最後の味方が消えた。


 ―――――

 ―――

 ―


 ミカは残る敵機であるアストレアに視線を向ける。


(無力感を感じているのか……あの時の私と同じだ)


「最後の戦いだ」


 ミカのつぶやきは聞こえていたのだろうか。






 アストレアがビームソードを構えた。






(今!)


 お互いの剣がぶつかる。少しの攻防の後、優勢となったミカは確信を得る。


(私の剣の秘密に気付いたか…そしてそのタイミングを完璧に察知している)


 この世界では実体剣にビームを発生させるものと同等のエネルギーを流している。それによって単純に切れ味や耐久性が増すだけでなく、実体剣内のエネルギーとビームソードのエネルギーを衝突させることができる。つまり、実体剣とビームソードの鍔迫り合いを可能としているのだ。

 ミカの乗るカーテナの持つ実体剣“カーテナ”はエネルギーに頼らずとも耐久性能が高く、ミカは手動でエネルギーを流すかを切り替え、を実現していた。しかしその状態では切れ味があまり良くない上、敵のビームソードもすり抜けるため状況によって切り替えが必要だった。


 そして切り替えるタイミングがアストレアのパイロットに何故か察知されている。ミカがそう思う理由はエネルギーを流していない時、アストレアは必ずシールドで剣を防いでいたからだ。


(勘が良いのか、動体視力が優れているのか、超能力者なのか。いずれにせよ、戦闘経験が少ないのが救いだ)


 ミカはカーテナの腕をアストレアに向ける。存在しないネットのフェイント。


(一度ネットをくらったお前なら警戒するだろう。もしネットは無いと知っていても身構えるはずだ。)


 アストレアはシールドを身を守るように動かした。


(その隙は見逃さん!)


 カーテナはアストレアのシールドを蹴る。

 パイロットは距離を離されると思ったのかビームライフルに持ち替えている。


「まだ私の射程圏内だ!」


 ネットが出た腕と反対の腕から一本のワイヤーが発射される。ワイヤーは吸い込まれるようにアストレアに向かい、先端がアストレアに付く。


「これで終わりだ」


 ミカの操作によってワイヤーからアストレアに電流が流れる。


 ―――――

 ―――

 ―


「ぐぅっ!」


 電撃を受けたアストレアはシールドとビームライフルを手放してしまう。その上カメラが被害を受けたのか、モニターが真っ黒になっている。


〈モニター、カメラの復旧作業を開始します。〉


「落ち着け、レーダーは生きてる。敵機の大体の位置が分かればカメラの復旧までは耐えられるはず」


〈回避を。〉


 セーマはアストレアを横に動かす。顔の横を実体剣が通り過ぎたように感じた。


「モニターが使えなくてもカーテナの強い存在感がわかる。これなら!」


 セーマはアストレアの周りに意識を向ける。うっすらと伝わってくるカーテナの動き。同時にある物の存在を感じることもできた。


「!…これは」


 カーテナの突撃を避けたセーマは、感じ取った物に向かって全速力で向かう。カーテナもこちらに向かってくるが、アストレアの方が速い。


(クティスさん、一旦借ります!)


 アストレアが手に取ったのは、アメノオシの斬り飛ばされた腕だった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ミカはアイシャ+一般兵に対抗する作戦を立てていました。彼女が前回バルホールと戦った時はアイシャだけ出てきたため、アメノオシの存在やクティスの腕前は知りませんでした。


 現在の実力関係(カークスの性能も含む)

 アイシャ > ミカ ≧ セーマ > クティス ≧ オピス

 なお昔は

 アイシャ >>>>> ミカ ≧ クティス > 一般兵




 今回で戦闘が終わる予定だったのに、セーマとミカが強くて長引きました。さすがに次回で終わるはず…


 吹っ切れた人って怖いよね

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る