第13話 アイシャ・レイ・ファロー

「オピスさん!生きてたんですね!それじゃあ他のみんなも!?」


 セーマが喜びを感じさせる声色で言った。


『ええ。ビーサムに乗っていた全員が司令部の切り離しによって無事です』


「よかった~。皆やられてしまったと思ってました。ところであの機体たちは?」


『それはまた後で話しましょう。とりあえず母艦まで向かうので、司令部を護衛しつつ付いて来てください』


「了解です」


 セーマはビーサムから切り離された小型艦を護衛するようについていくのだった。


 ―――――

 ―――

 ―


『こちら母艦ナグルファ。アストレアのパイロット、応答を』


「はっ…はい!こちらパイロットのセーマ・バランサ。着艦許可を求めます」


『了解。着艦用データを送る。ガイドに従って着艦するように。ぶつけるなよ?』


 少し揶揄われた気がしたが、ビーサム以外の艦に着艦したことがなく緊張していたセーマは気にする余裕がなかった。


 無事に機体ハンガーにアストレアを納めコックピット内で一息ついたセーマはアストレアが表示していたものが気になり、尋ねた。


「アストレア。リミッターって何のリミッター?まだあるの?」


『“アストレア”に設けられているリミッターは過剰な機能による周りへの影響を抑えるためのものです。また、現在アストレアは約50%ほど制限されております。』


「そんなに?それでもあんなに強かったのか…そうだ。回帰者って何?」


『...回帰者とは、過去の人物が提唱していた思想に登場する名称です。』


「もっと詳しく教えてくれない?」


『データベースより、定義を提示します。』


 その時、セーマの耳にオピスの声が届く。


『セーマ君居ますか?コックピットの中にいるのでしたら出てきてくれませんか』


「オピスさん!?」


 驚いたセーマは、そういえばコックピットから一度も出ていなかったな、などと思いつつコックピットハッチを開放する。


「ごめんなさいオピスさん。ちょっとアストレアの状態を見てて…」


 その瞬間、一人の少女がアストレアのコックピットに身を乗り出す。


「おお~!これがあの機体のコックピット。ふむ。確かにわが国では見たことないが、所々似通っておるな?」


「うわっ何だこの子!?」


 モニターのあたりを見ていた少女がセーマの顔を見る。


「ほう?私のことをこの子とは。パイロットもなかなか面白いのう」


「アイシャ第三皇女。いきなりはしたないですよ」


「あっオピスさん。って、第三王女?」


 セーマの頭に?が浮かぶ。


「なんじゃ。知らんかっただけか。まあニベ公国出身ならしょうがないか」


 少女はコックピットから離れ、オピスの隣に並ぶ。


「セーマ君、遅れましたが紹介します。この方はバルホール帝国第三皇女、アイシャ・レイ・ファロー様です」


「お互いやりあった仲じゃ。堅苦しい場でなければ敬語は付けんでも構わん」


「やりあった?」


 セーマは思わず聞き返す。アイシャはセーマの反応に思わずオピスの方を見る。


「アイシャ第三皇女。誰もが貴方と同じわけではないのです。というか、あの作戦のことを秘密にしておけといったのは貴方ですよね?」


「あ~そういえばこの機体…アストレアといったか?その性能を見たかったから言うなよと言っておいた気が…」


「忘れないでください。そうですね、セーマ君。あの時の話をしましょう」


 それからセーマが聞いたのはビーサムが撃沈した時の話だった。


「えーと、つまりあの時は皆さんバルホール帝国に所属が変わることになっていて、でもビーサムはニベ公国のものだからどこかで捨てないといけなくて、さらにハルモディアの情報や機体の一部もあったからまとめて処理したという事ですか?」


「はい。概ねその考えで間違いないかと。ニベ公国近辺の掃討作戦があるため主戦場が変わることが予想されました。そしてビーサムのクルーは練度もやる気もありましたが、その待遇は釣り合っていないと判断したため、バルホール帝国の引き抜きを実行しました」


「いわゆるスカウトじゃな。データを見たが旧型機であそこまでやれる部隊がいるとは思わなかった」


「もちろんどうしても嫌であればニベ公国に帰ることもできます。セーマ君も帰りたいのであれば、もちろんアストレアは置いて行ってもらいますが、帰ることもできます」


 セーマ君はどうしたいですか。と聞かれる。セーマは少し悩むが自分はアストレアのパイロットであり、これからも戦うであろうオピスやビーサムの仲間や自分が経験したような侵略を受けている人がいると思うと、帰る気にはならなかった。


「ありがとうございます。それと安心してください。引き続き戦ってくれる方の家族にはバルホール帝国の支援が行きますし、ニベ公国には戦力の補強としてカークスを送っているのでニベ公国まで戦火が戻されない限りは大丈夫でしょう」


 少しホッとするセーマ。


「話を戻しましょう。ビーサムが破壊された原因はさっきセーマ君が言っていたわが国の情報のこともありますが、一番はビーサムに必要なものが少ないことです。ビーサムはあの国ではいい方のカークス運用母艦ではありますが、ビーサム自体もその搭載機も旧型です。まだ動かせる機体は再利用もできますが壊れた機体は殆ど再利用する価値がありません」


「なるほど。確かにわざわざ回収して金属の資源として再利用するのも手間ですもんね」


「はい。そしてそれらがセーマ君に秘密となっていた理由ですが…」


 オピスがアイシャの方を見る。


「突然入ってきた正体不明のカークスとパイロット。その能力を見たかった!」


「…だそうです」


 オピスがため息をつく。


 セーマは苦笑いをしながらそうですか…。としか言えなかった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ナグルファ


 バルホール帝国が製造・保有する、カークス運用大型母艦(旗艦)。戦艦と言われることも。最大十八機のカークスを機体ハンガーに収めることができ、カークスの補給・修理のための設備もある。また、船員のための生活スペースや食堂等に加えて貴族の為の部屋もある。


〈武装〉


 大型ビーム砲、二連装中型ビーム砲×6、二連装対空砲×12、ミサイルランチャー×40、その他索敵・連絡機器

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