第14話 バルホールの兵士

 セーマはオピスとアイシャにナグルファの中を案内されていた。


「どうじゃこの艦は。すごいじゃろ」


「はい。結構広いんですね。ビーサムと全然違う」


「ええ。この艦はカークスに頼らない戦艦としての一面も持ち合わせています。それはビーサムも同じでしたが、その規模が違います。そのため、運用のための人手が必要になるのです」


「なるほど」


 三人は扉の前で立ち止まる。オピスとアイシャが目配せし、オピスがロックを解除したことで扉が開く。


 中にいた人たちの目線が一斉にセーマに集まり、思わずセーマは怯む。


「待たせたな、皆の者。私と対等に戦ったパイロットのセーマじゃ」


 皇女のその言葉に驚くナグルファのクルーたち。「あんな子供が?」「あの機体は子供でも操作できるのか…」といった声も聞こえた。


「ほれ。お主も何か言わんか」


 促されたセーマは口を開く。


「セーマ・バランサです。よろしくお願いします」


 セーマの自己紹介に、クルーたちは歓迎の拍手をする。その音が鳴りやんだ後、クルーの一人が手を挙げた。


「アイシャ様。発言してもよろしいでしょうか」


「ん?よいぞ」


「有難う御座います。というのも、一つお願いしたい事があります」


「なんじゃ」


「あの機体のパイロット、セーマ・バランサとの模擬戦の許可をいただきたく…」


「ええ!?」


 突然の指名に驚くセーマ。


「ああ、なるほど。よいぞ。私が許可する」


「はっ!有難う御座います」


「あの…僕の意思は?」


「通過儀礼のようなものじゃ。諦めろ」


 ―――――

 ―――

 ―


『両者共に弾は模擬弾。コックピット部を狙ってもいいが、狙いすぎるなよ。それと、撃破判定の表示とブザーが鳴ったら速やかに戦闘をやめるように。よいな、二人とも」


『了解』


「りょ…了解!」


 セーマは場の空気に流され、模擬戦をするために宇宙空間の中、アストレアのコックピットにいた。


「どうしてこんなことに…」


『よし。それでは…戦闘開始!』


 セーマはその合図を聞くとともに前に向かってスラスターを吹かし、距離を取って戦場を確認した。相手はこちらに突っ込もうとしていたらしいが、こちらが引いたと見るや否や、周囲に漂うデブリ宇宙ゴミに姿を隠した。


「ポジティブに考えよう。これでいい動きをしたらみんなに認められるかもしれない…!」


〈五時の方向から敵機。〉


「っ!」


 振り向いたセーマの目に模擬戦用ビームソードを持つモートⅡが映る。


 セーマはシールドを使って受け止める。モートⅡは続けて模擬戦用ライフルを撃ち、セーマをその場に固定する。


「これぐらい、アストレアなら!」


 が、セーマは弾を受けながらも怯むことなく突撃する。


『なにっ!?』


 セーマの一閃が放たれる。モートⅡは機体がやられることはなかったが、手に持っているライフルが破壊判定となり、使えなくなる。


『この野郎!』


 モートⅡはビームソードを引き抜き、アストレアを斬りつける。セーマは向かってくるビームソードを弾き、デブリに身を隠す。


「最初と逆だな…」


『どこに隠れた…どこから来る?』


 セーマはデブリで身を隠しながら周囲を飛び回る。


「今だっ!」


『っ!後ろだとぉ!』


 セーマが模擬戦用ビームライフルのトリガーを引く。


『勝負あり!勝者、セーマ・バランサ!』


 モートⅡに撃墜判定が出る。セーマのビームライフルは的確にモートⅡを貫いたらしい。コックピットで力を抜くセーマに、アイシャからの通信が届く。


『ようやったセーマ、戻って来い……と言いたいところじゃが、さっきの戦いを見てお主と戦いたいものが多く出てきたようじゃ。すまんがあと何戦かしてもらうぞ。』


「え…?」


 ―――――

 ―――

 ―


「はあっはあっはあっ。も…もういいでしょう?」


『うーむ、さすがに疲れたか。まあ戦争と試合は疲れ方が違うしの。よし!もう良いぞ。ナグルファに帰還するがいい』


 セーマは疲れた体でアストレアをナグルファの機体ハンガーに収めた。


「無理を言ってすまなかったの。まあナグルファのクルーたちもお主を認めたようじゃし、お主にとってもいい経験になったじゃろ」


「だとしても、こんなに連続でやる必要なかったですよね?」


「そうじゃ。頑張ったお主に褒美をやろう。何か欲しいものはないか?できる限り要望を聞いてやろう」


「無視ですかそうですか」


「なんじゃ褒美はいらんか」


「いります」


 セーマはアイシャに以前アストレアが提案した、パイロットスーツが欲しいと伝えた。


「なるほど。これがお主が欲しいと言ったパイロットスーツの設計図か。確かに特殊な金属も使うため費用が掛かるな」


「やっぱり無理ですかね?」


「無理とは言っておらん。設計図があるなら作るのは容易い。じゃが、この設計図を描いたのは誰じゃ?これを描いた者は相当頭が良いようじゃな」


「えーと…それを描いたのは…」


 セーマは言うべきか迷ったが、何故かアイシャには隠し事ができないと思ったので、素直に言う事にした。


「なに?アストレアが出力した?なにを馬鹿なことを…いや、冗談を言っている雰囲気でもないな?まさか…本当に?」


「僕は嘘なんて言って無いですよ…」


「信じられん…が、あのカークスが異常なのは今に始まったことではないな。まあ良い。とりあえずこの設計図通りに作らせよう」


「ありがとうございます!」


「じゃが、アストレアを一度調べさせよ。それと、敬語はいいといったはずじゃが?」


「わかりました。あと、敬語は今更じゃないですか?」


 アイシャはセーマの言葉を最後まで聞くことなく、何処かへ歩いて行った。セーマは相変わらずこちらの話を聞かないアイシャに少しあきれたが、以前から言われていたアストレアの提案を形にできそうでほっとしていた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「あんな子供が?」と言われたセーマは思った。


(子供って、見た目で言えばアイシャもじゃない?まあアイシャが何歳か知らないんだけどさ。)





 ナグルファにはアイシャに次ぐ実力者がいますが、その人はアイシャのしたことの後始末に追われて模擬戦ができませんでした。

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