第27話 今は重く、未来は見えず

 セーマはナグルファの揺れで目を覚ます。


「もう着いたのかな?なんか変な夢を見た気がするな…」


 セーマは目をこすりながら体を起こし、窓から外の景色を見る。


「まぶしっ…うーん、これは…湖?」


 セーマの部屋にあるドアが突然開く。


「セーマ、海に行くぞ!」


 いつもの通りアイシャだった。


「海?」


「なんじゃ、海が分からんのか?…いや、馴染みが無いのか。確かお主がおった場所は海が遠かったな」


「なんでそんなこと知って…まあいいよ、その通りだから。……そうか、これが海なのか。湖かと思ったよ」


「まあデカい湖と海は見ただけではどちらか判別は難しいじゃろうからのう。そういえば…もしかしてお主、泳げんのか?」


「たぶん。泳いだことないから何とも言えない…」


「ふむ、水着は持っておるか?」


「持ってないよ」


「ふむ。今すぐ買いに行くぞ!泳げるように特訓してやる」


 アイシャがすごくニヤニヤしながらそう言った。


「いや別に泳ぎたいとは思わないんだけど…」


「いつか泳がねばならん時が来るかもしれん!もしもを考えて行動するのは大事じゃぞ」


 セーマはアイシャにずるずると引きずられていく。

 アイシャの細い腕のどこにそんな力があるのだろうか。


「海でカークスから降りる事態なんて起きるのかな…」


 ―――――

 ―――

 ―


「セーマ、準備運動はしたか?」


「さっきしたよ」


「うむ、ならば泳ぎ方を教えよう。オピスがな!」


 そう言い放ったアイシャは水着とサングラスを身に着け、浮き輪の上で波に揺られていた。


「アイシャが教えるわけじゃないのね…」


「はい。アイシャ様も一応泳げますが、人に教えるのは苦手ですから」


 水着を身に着け、その上からラッシュガードを着たオピスが答える。


「オピスさんも泳げるんですか?」


「はい。五種類の泳ぎ方ができますし、一呼吸で七十五メートルぐらい泳げます」


「すごい…」


「ありがとうございます。ちなみに、今回セーマ君に教えるのは二種類です」


「二種類だけなの?」


「はい。ですが二種類を覚えれば十分です。…ではまずは水に慣れるところから始めましょう」


 ―――――

 ―――

 ―


 クロールと平泳ぎのレクチャーを受けたセーマは、水が胸までつかるぐらいの場所で泳いでいた。


「どうですか、オピスさん」


 少し疲れた様子のセーマは、より水深の浅い場所に向かいながらオピスに聞いた。


「かなり良くなりました。…セーマ君はすごいですね。こんなに早く泳げるようになるとは。潜水もできるようですし、練習はもういいでしょう」


「やった!」


「なんじゃセーマ、もう終わったのか。…よし、ならば遊ぶぞ!」


「え?今すごい疲れてるんだけど…」


「問答無用!これもトレーニングだと思って励むのじゃ!」


 その後セーマは筋肉の疲労に耐えつつ、アイシャが満足するまで遊んだのだった。


 ―――――

 ―――

 ―


「うーん、からだが痛い…」


 後日セーマは筋肉痛に襲われていた。


 昨日寝る前にストレッチをするという悪あがきをしていたセーマだったが、意味はなかったようだ。


「からだが痛い…けど、せっかくラバードに来たんだから色々見てみたい…」


 セーマは体を襲う痛みを我慢しながら着替えて食堂に行き、朝食をとってから出かける準備を済ませてナグルファを出る。


「今日はどこに行こうかな……そういえば、ラバードに来る前に調べた情報の中におすすめの観光スポットとかいうのがあったはず……よし、今日はこの観光スポットを回ることにしよう。全部は回れないかもしれないけど…また今度行けばいっか」


 セーマは以前調べておいた情報からお目当ての物を見つけると、筋肉痛のことを忘れたのか観光スポット巡りをすることに決めた。


 ―――――

 ―――

 ―


 展望台、名物が食べられる料理店、観光客向けのお土産屋や中立国ならではの品ぞろえが多い本屋などを回ったセーマは、片手に紙袋を持ったまま海の方へ歩いていた。


「確か…この先の崖が景色が良くて、写真スポットになっていた気が…」


「すみません、ちょっと良いですか?」


 セーマは青年に突然話しかけられた。


「はい。何でしょうか」


「妹と写真を撮りたいのです。カメラのボタンを押してくれませんか?」


「わかりました。良いですよ」


「ありがとうございます。撮影するのはこのボタンです」


 そう言ってセーマにカメラを託すと、青年は一人の少女の元へ向かっていった。


(結構年が離れてる兄妹なんだな。それにしても…どっちも綺麗な銀髪だな)


 そうセーマが思っている間に、兄妹の方は準備ができたようだ。


「それじゃあ撮りまーす!…3,2,1」


 セーマはカメラのボタンを押す。セーマの見る画面には、仲睦まじい兄妹のどこか幻想的な姿が映し出されていた。


「撮れましたよ!」


 セーマがそう声を掛けると、青年がセーマの元へ近づいてくる。


「ありがとうございます。助かりました」


「いえいえ。それより、観光ですか?」


「はい。私は少し事情があって妹とあまり会えないのです。なのでこうやってご機嫌取りをしないと。忘れられるのは嫌なので」


 少し笑いながら青年は言う。すると彼の妹であるという少女が二人のもとに近づいてきた。


「おにいちゃん、この人とはいっしょにとらないの?」


「ああ、この人はお兄ちゃんの手伝いをしてくれた人だよ。あまりこの人の時間を取っちゃいけないよ」


「わたしとこの人とおにいちゃんの3人でしゃしんとりたい!」


「こらこら。あまり人に迷惑をかけてはいけないよ。」


「とりたい!」


 青年は少し困ってしまったようだ。


「あの…僕なら大丈夫ですよ。この後の予定とかありませんので…」


「ほんと!?やったぁ!」


「すみません、ありがとうございます。ですが、撮ってくれる人を探さないといけませんね」


 確かにそうだとセーマが思った時、


「あれ、セーマ君じゃん。どうしたの?」


「シュリさん!」


 買い物帰りらしきシュリだった。たまたま通りがかった時にセーマに気付いたようだ。渡りに船だと思ったセーマは、シュリに撮ってもらおうと思った。


「あの~シュリさん。写真を撮ってくれませんか?」


「写真?うーん…わかった。任せて」


「ありがとうございます!」


 ―――――

 ―――

 ―


 その後写真を撮ったセーマは、青年に三人で映った写真を貰い、感謝を伝えて別れた。


「シュリさん…何を買ったんですか。すっごい重いんですけど…」


 セーマは写真を撮った見返りにと、シュリの荷物持ちとなっていた。


「まあ良いじゃない。それより、あの子可愛かったわね。将来が楽しみだわ~」


「どこの人なんですかね?銀髪って結構珍しくないですか?」


「そうだね~珍しいけど、見ないって程じゃないかな。だからどの国かは分からないかな。昔、ガルドラ連邦のほうだと結構見るって聞いたことがあるからそっちの方の人かもね」


「ガルドラ連邦って、あの…?」


「そう。バルホール帝国と戦争してるトコ。ウチニベ公国に攻撃してきたのも同じトコだったはずよ」


「敵かもしれないってことですか?」


「さあ?まあ少なくともこの国にいる限りは敵じゃないわ。ここは中立国だからね」


「全部中立国になったらいいのに…」


「難しいわね。この国が中立なのもその戦力あってのことだし。加えて海が多くて攻めずらいから、どの国も今は戦おうとしないだけよ」


「そうですか」


 セーマは重い荷物を運んでいたためか、心地良いぐらいになっていた筋肉痛の痛みが再び強くなった気がした。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「筋肉痛が痛い」ってもしかして「頭痛が痛い」と一緒…?

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