第28話 境界線
中立国ラバードに到着してからしばらくたち、ナグルファのメンバーは十分に英気を養うことができた。
ナグルファはアイシャの指示のもとラバードに別れを告げ、後数分でラバードの星域内から脱出する、というところでアクシデントが起きる。
『総員、敵艦を発見した。恐らく敵艦は星域の境界を越えたと同時に攻めてくるじゃろう。速やかに戦闘準備せよ。カークス隊は戦闘準備を完了し次第報告をするようにな』
アイシャによる艦内放送を聞いたセーマは、大急ぎでアストレアの元へと向かう。
〈アストレア起動。いつでも行動可能です〉
その文字を見たセーマは回線をナグルファの指令室につなぐ。
「こちらセーマ・バランサ。アストレア、いつでも行けます!」
『速かったのうセーマ。じゃが今はまだラバードの星域内。つまり、まだ戦闘行動はとれん。しばし待っておれ』
「了解。そういえば、アイシャは出ないのか?」
『出撃するとも。じゃが、相手が戦闘目的ではなかったときに備えねばならん。一応私はこの艦の最高責任者じゃからのう。判断は私がせんとならん』
「大変そうだね」
『なに、私の立場では当然のことじゃ。まあ、私でなければそもそも戦う準備などせんのがほとんどじゃろうけどな…そろそろじゃ。準備しておれ』
アイシャとの通信が切れ、ナグルファにいるオペレーターから通信が入る。
『アストレア、聞こえているか』
「はい、こちらアストレア。聞こえています!」
『アストレアが一番最初に出撃する。だが味方が出撃するまでは敵に近づくな。出撃タイミングはガルドラの
「はい!」
セーマはアストレアを電磁カタパルトにセットする。その直後、ナグルファが揺れた。
『アストレア!速やかに出撃しろ!』
「アストレア、出ます!」
電磁カタパルトが動き、セーマの体を圧力が襲う。一瞬でアストレアは暗闇の中に浮かんだ。
(ナグルファは攻撃を受けたんだろうけど、問題なさそうだ。バリアでも張っていたのかな)
〈前方から戦艦の砲撃。回避してください〉
セーマはアストレアを回転させるようにして回避する。砲撃に使われた砲弾だが、アストレアを過ぎて五秒程経って爆発した。
(時限式の榴弾?…避けたからって油断はできないな)
セーマの目に敵艦から出てくるカークスが見えた。同時に味方のカークスが集まっているのをレーダーで把握する。
〈ハルモディアから全味方カークスへの通信。回線を開きます〉
『これより交戦を開始します。アイシャ様は少し後に出撃なされます。それまで持ちこたえるように。行動開始!』
味方のカークスが全機前進する。セーマも遅れないようにアストレアを前進させる。
前進するカークスを撃ち落とさんと、砲弾が撃ち込まれる。
『散開!』
練度の高いナグルファのパイロットは砲弾の爆発さえ食らわずに前進を続ける。
敵艦から出てきていたカークスもこちらに向かって来る。ナグルファからビームの援護があるが、敵機で食らったものはいないようだった。
(これは激しい戦いになりそうだな…)
セーマのビームライフルの有効射程圏内に、敵機が入った。
―――――
―――
―
「っ!」
ビームソード同士が衝突する。続けてアストレアがシールドを敵機にぶつけようとするが、敵機は軽々と回避した。
〈カークス名D・フライ。機動力とビーム兵器に注意してください。熟練したパイロットの動きは捉えることが困難です。〉
セーマの頭に敵機の情報が伝えられる。
「後ろ!」
アストレアは振り払うようにビームソードを振るう。その刃は敵機の足を切り離したが、撃墜することは無かった。
「外した……っ!」
アストレアに二方向からビームが飛んでくる。容易く防いだものの、その連携と行動の速さ、正確さにセーマは驚くことしかできなかった。
〈ハルモディアの砲撃。注意してください。〉
セーマから少し離れたところをビームが通過する。敵機目掛けて放たれたビームだが、読んでいたのか機動力を売りにしているD・フライには当たらない。
「厄介だな…」
すでに戦闘開始から二十分が過ぎていた。聞くと短く感じるが、戦場の極限状態での二十分はかなりの長さだ。敵機も味方機も何機か補給に向かってはいるが、明らかに長すぎる戦場に両軍疲弊していた。
(アイシャは来ないのか?)
セーマがそう思った瞬間、通信が入る。
〈テンシュカからの通信要請。回線を開きます。〉
『待たせたな、セーマ。予想以上に相手戦艦が手強くての。出撃準備ができんかった。早速行きたいところじゃが、もう二、三分かかる。しばし待っておれ』
朗報だった。現在拮抗している戦場はアイシャの参戦で大きくこちらに傾くことが予想できた。
〈ハルモディアから全機へ通信要請〉
『あと少しでアイシャ様が出撃なされます。全機、もうひと踏ん張りです』
その言葉を聞いたからか、味方の勢いが増したようにセーマは感じた。
セーマは味方の勢いに乗るようにスラスターを全開にする。一瞬で詰められた敵機は驚いているようだった。
「くらえ!」
アストレアはビームソードを振るう。その刃は敵機をしっかりと捉え、容易く両断した。
(一機倒した…!)
セーマの目の前で敵機が爆発する。爆炎を盾で防いだセーマは、爆発した場所の中心付近に舞う光の粒子を見た。
「あれ?なんで涙が…」
セーマの頬を涙が伝う。無意識に操縦桿を握る手に力が入っていたのか、手を覆うパイロットスーツからギリギリと音が鳴っていた。
〈回避を。〉
セーマは目の前に迫ったバズーカの弾をシールドで受け止める。アストレアは爆発の衝撃で後ろに飛ばされた。
『セーマ、大丈夫か?』
後ろに飛ばされたアストレアはテンシュカに受け止められる。接触したことによって繋がった通信から聞こえるアイシャの声に、セーマはホッとした。
「大丈夫。…すこし気が抜けただけだよ。まだ僕は戦える」
『そうか…少しでも無理だと思ったら引くんじゃぞ。私がカバーしてやろう』
「わかった、ありがとう。」
セーマはアストレアをテンシュカから離し、戦場を見る。
「結構こっちが優勢になったな…やっぱりアイシャが来たからか?」
〈回避してください。〉
セーマはアストレアに向かってきたビームを回避する。
「この!」
セーマはビームライフルを放つ。しかし、敵機はすぐにその場から逃げ出しており、ビームが当たることは無かった。
〈ミサイルが向かってきます。対処を。〉
敵機の内の一機がばらまいた、ミサイルの何発かがこちらに向かっているようだった。
難なく躱したセーマは反撃をしようとするが、敵機はすでに逃走し始めていた。
攻撃をするだけしといてすぐに逃走する敵機に、セーマは少し苛立つ。
「逃がすか!」
セーマが放ったビームは、敵艦の機関部を的確に撃ち抜いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
機体紹介
D・フライ
ガルドラ連邦で製造されたカークス。設計者はC・クローチを設計した人と同じ。C・クローチより装甲が硬く、エネルギー兵器が使える。機動力が高く、宇宙で変幻自在に動くことができる。しかしながらC・クローチほど量産ができず、操縦に少し癖があるため限られた部隊・パイロットにしか渡されない。
〈武装〉
ビームソード、ビームライフル、腰部小型ミサイル、バズーカ
追記(7/26)
第一話を編集しました。変更点はセリフの追加と、文の細かな修正です。話の流れや設定などは変わりません。
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