第29話 焦燥

「え・・・・・・」


 セーマの目に崩壊していく戦艦が映る。


 連鎖しながら被害を拡大させていく爆発は戦艦に留まらず、付近にいたカークスをも巻き込む。


 最後の大爆発と共に消えていく光を見たセーマは、全身から力が抜けた。


(僕は…何を…)


 そして理解する。


「うっ!?……くっ……」


 湧き上がってくる吐き気を、セーマは震える手でなんとか押し戻す。不意に孤独感と張り裂けそうな気持ちに襲われたセーマは、自身の体を抱きしめる。






 初めて人を殺した。それも、数えきれないほど多くの。






 セーマの脳内にその瞬間が蘇る。セーマは理解した。あの光は人の魂のようなものだったのだと。泡沫の様に消えていった光。今、自身の体ににまとわりついているように感じるあの光。


 セーマはもはや、そのことしか考えることができなかった。


『セーマ、一度ナグルファに戻るぞ』


 動かずにいたアストレアセーマに、いつの間にか近づいていたテンシュカからの通信が入る。セーマはアイシャの声が遠く感じた。


「うん…わかった……」




 ナグルファに帰還したセーマだが、誰に話しかけられても反応を返すことなく、自室へ向かったのであった。


 ―――――

 ―――

 ―


「セーマ、入るぞ」


 アイシャがセーマの返事を待つことなく部屋に入る。


「どうしたんじゃ?体調でも悪いのか?」


「……今は一人にしてくれないかな」


「…。お主は敵を殺した」


「っ!」


 セーマの体に力が入る。


「やはりそのことか。お主の気持ちは分かる。でも見えたか?」


「たましい…?そうだ…あれは…あの光は…」


「ふむ、やはりセーマもだったか」


 アイシャのその発言は、小声だったためにセーマには届かない。


「セーマ。実は敵がこの船に近づいておる。出撃できるか?」


「僕は…もう、戦いたくない」


「そうか。お主はナグルファにとって大きな戦力じゃ。…何が言いたいのかと聞きたそうな顔じゃの?簡単な話じゃ。私達は強い。しかしながら、戦場では不測の事態が起きる可能性があるという話じゃ。ナグルファは少数精鋭。お主一人が抜けただけで不測の事態も起きやすくなる」


「それでも、僕はっ」


「そもそも、お主は悪くない。このナグルファの責任者は私。そして、お主をこの艦に入れたのも私。お主が何かやらかしても責められるのは責任者である私じゃ。お主は私の兵士として、従順に命令をこなしただけ。さらにお主がした行動は、この艦の乗組員にとって褒められこそすれ、責められる道理はない」


「……」


「私の兵士になれ、セーマ。お主は私が指し示す道を行けばよい。責任は私がとる。お主がどれだけ罪を作ろうと、それを背負うのは指示した私のみ。お主が傷つき、悩む必要は無い」


「…わからない。僕には、もう…」


『所属不明艦接近、数は3!カークス隊は出撃準備!…所属判明。所属はガルドラ!』


 突然聞こえた放送に、セーマは考えがまとまらないまま、アイシャに付いて行く形でアストレアの元へ向かうのだった。


 ―――――

 ―――

 ―


 テンシュカの中から、アイシャはアストレアを見る。


(セーマはナグルファの中ではかなり大きな戦力。人を殺すこともいつか経験するだろうと思っていたが…ここまでとは。ミカと同じならば、私から離れようとするかもな)


 テンシュカのモニターに敵のカークスが映る。


(何はともあれ、早く処理せねばならん。今のセーマはとても不安定。ここで失うわけにはいかん)


「む?あれは…」


 敵カークスの内の一体に、アイシャは既視感を感じる。


「あれは…アストレア?」


 ―――――

 ―――

 ―


 セーマは自身の乗るアストレアの雰囲気が変わったのを感じ取る。


「アストレア?一体どうし…」


 セーマの目の前のモニターに表示されたのは、アストレアだった。


「!あの時の」


 セーマの頭に、アレスとオピスがやられた時の光景が蘇る。その時、通信が入る。


『久しいな、アストレアのパイロット。どれだけ成長したのか見せてもらおうか』


 テンシュカから敵アストレアへ向かってビームが飛んでいく。敵アストレアはそれをビームハルバードで弾く。


『その機体は…テンシュカ!バルホールの軍神。死神とまで言われた機体か…これは悠長にしてられんらしい』


 敵のアストレアは全速力でテンシュカの元へ向かう。他の敵機もそれに続くようだった。


『セーマ!あのカークスは私が対処する。他の敵機を頼む』


 アイシャはそう言って通信を切ると、敵アストレアの元へビームライフルを撃ちこみながら向かう。


「アイシャ…っ!」


〈敵機からの攻撃。回避を〉


 セーマのもとに三本のビームが伸びる。セーマはそれをシールドで受けた。


 * * *


「防がれたか…」


『敵さんの反応速度は良いみたいだな』


『うちのトップと同型機なんだろ?そりゃあ良いパイロットが乗ってるに決まってるぜ』


 セーマにビームを撃ち込んだ三機のパイロットが通信で会話をする。雑談をしているかのような軽い会話だが、話をしている間にセーマの乗るアストレアを包囲するような位置に着く。


「次の射撃と同時に攻める。タイミングを合わせるように」


『『了解』』


「3、2、1、今っ!」


 再び三機から放たれるビーム。三機は着弾を見ずにアストレアへと近づく…が、


『!全部避け…』


 アストレアが三本のビームをすべて避けたことで、三機の内の一機が動揺し、止まる。


「まずい!離れろ!」


 アストレアの前で止まってしまった機体に呼びかけるが、とても間に合う距離ではない。


『ぐわぁっ!』


 アストレアにシールドで殴られた機体が後ろに吹き飛ぶ。アストレアはビームライフルを構えていた。


「回避!」


 殴られた機体はその声に反応して即座に機体を射線からずらす。しかしアストレアは撃つ気が無かったのか、ビームがその機体に飛んでいくことは無かった。


「運が良かったな」


『アイツが殺す気だったらお前三回は死んでるぜ』


『うるせえ。だが…本当に敵さんには殺す気が無いのか?今も立ち止まって、気味が悪いな』


「ビームライフルを構えた。これでパイロットの気持ちがわかるかもな」


 アストレアの持つビームライフルの銃身が光る。


「ブレイク!」


 三機がアストレアのビームライフルを避けるために散らばる。


『どうやら敵さんはやる気らしいな』


「だがどこか違和感がある。より慎重に攻撃を仕掛けるぞ」


『了か…っ!』


 いつの間にか一機のすぐそばまで迫っていたアストレアに対し、近づかれた機体が咄嗟にビームソードを振るう。が、その刃はアストレアのシールドで容易く受け止められ、蹴飛ばされる。


『ぐっ…速い!』


「撃て!」


『了解!』


 味方機のカバーをするために二本のビームが飛んでいく。しかしアストレアに当たることは無かった。


『隊長!そっちに!』


「分かっている!」


 隊長と言われた男はビームソードを展開し、アストレアに備える。


(こいつとは二度目だが…。一度目の様な油断はしない)


 アストレアは盾を構えたまま突っ込んでくる。隊長はアストレアの盾に当たらないギリギリを狙って回避しながら切りつけようとする。しかしながらその斬撃は回避されたうえ、ビームライフルがこちらを向く。


(まずいっ!)


 咄嗟に盾を構える隊長。


(撃ってこない?ならば!)


 隊長は手に持つビームソードをアストレアに投げつける。先程までビームライフルを構えていたアストレアは盾を構えてビームソードを弾く。しかし、弾いた瞬間の無防備なアストレアを見逃す隊長ではなかった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 久しぶりの隊長(初陣で初出)


〈機体紹介〉


 ケルベロス(隊長達三人組の乗る機体)


 ガルドラにて製造された、三機での連携を重視した機体。三機は常にリンクしており、相手の情報の共有やお互いの射線の可視化、特別な通信回線の開設ができる。ビーム兵器は標準装備であり、陸でも宇宙でも問題なく運用できる。また、オプションを付けることでそれぞれに役割を持たせることも可能。ジェ〇トスト〇ームアタックも可能である。肩に付いたシールドは、角度を変えることで隙無く広範囲を防御できる。


〈武装〉

 ビームソード、ビームライフル、バズーカ、ビームバズーカ、肩部シールド


〈オプション〉

 レーザー式敵機分析装置、フラッシュライト、脚部ミサイル、腰部ミサイル、肩部ミサイル、肩部シールド追加、ドリル、チェーンソー、強化アームクロー




 この機体の詳細の変更するかも(小声)

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