第4話 母艦ビーサム

 セーマは軍人の指示に従い、コックピットから降りた。パイロットが子供であることを知った軍人は驚いていたが、取り調べを受けるのには変わりなかった。とはいえ、名前や所属している国、何をしていたのかといった簡単なことだった。


 セーマが戦闘不能にしたカークスのことを話すと、現状は敵ではないと判断したのか、カークスのパイロットは母艦から追加で降りてきた仲間と、敵機の回収ないし破壊を急いでいた。セーマはアストレアに乗り、声をかけてきた機体と共に彼らの母艦へと向かった。



〈目の前のカークスから通信要請を受けました。回線を開きます。〉


『少年、なぜカークスに乗った。いや、なぜあいつらと戦った。ただ通報をすれば軍が来るのは分かっているはずだ』


「あの時は必死だったんです。父さんや住んでる場所が攻撃されるかもしれないと思うと、居ても立っても居られなくなって…」


『そうか。まあ、無事だったのなら結果オーライだ。そろそろ俺たちの母艦に着く。着地の準備をしておけ』


「分かりました」


『ようこそ。母艦“ビーサム”へ。民間人は歓迎するべきではないが、一人のパイロットとして歓迎する』


 ─────

 ───

 ─


 母艦に降り立ち、アストレアから降りたセーマは母艦内の一室に案内された。


「此処でしばらく待ってもらう。恐らく詳しい話を聞かれるだろう」


「分かりました。ありがとうございます」


 セーマが返事を返すと、パイロットの男はその部屋から退出する。


 セーマが大人しくその部屋で待ち、10分ほど経った頃、不意に扉が開いて二人の人物が部屋に入ってくる。恐らく軍人だろうとセーマは予想した。


「待たせたな。私はこのふねの艦長、ライアスだ」


「か…艦長…」


 セーマは思わぬ大物との出会いに驚いた。


 艦長と、続いて入ってきた女性がセーマの対面の椅子に座る。


「そうだな…何から話せばいいか。とりあえず君の話は聞いている。単刀直入に言おう。私たちと共に戦わないか?」


「……え?」


 セーマが艦長の言葉を呑み込めないでいると艦長の隣にいた女性が口を開いた。


「あなたが撃破したという機体を見させていただきました。さらにはあの二機だけではなくもう一機と戦っていたとか。正直、一般人とは思えません」


「えっと…」


「申し遅れました。私はオピス。ニベ公国と同盟を結んでいるバルホール帝国に所属するパイロットです」


「バルホール帝国?」


「はい。ですが今は私の話ではなくあなたの話をするべきでしょう。そうですね……突然のことで驚いているかもしれませんが、私たちはあなたの才能を買っています。そして、あなたにとってこの艦で出戦うことはメリットもあります」


「メリット?」


「まず、軍はそこそこ給料がいいです」


「きゅ、給料…」


 突然のお金の話にセーマは困惑する。


「それにあなたが出会ったようにこの国にも侵攻するものが出てきました。正直今この国は星の外側で食い止めるのに必死で内側までは手を回し切れていません。対抗策を練っているらしいですが、いつまたこの地域まで侵攻されるかわからないでしょう」


「それは…」


「最後に、あなたが乗っていた機体。発見したとのことですが、現状では軍に没収される可能性が高いです」


「ええ!?そ…そんな」


「ですが現状は新たに発見された機体という事もあってあなたが一番上手に扱えるでしょう。あなたが協力してくれるならあの機体は正式にあなたの乗機となりますし、パイロットがいる機体をこの国もわざわざ取り上げようとはしないでしょう」


 セーマは悩んだ。金の話も貧乏なバランサ家で暮らしているセーマには魅力的で、故郷を守るという正義感も刺激された。そしてせっかく見つけたアストレアを手放したくもなかった。


「その…自分だけでは何とも言えないので、家族にも相談していいでしょうか?」


「分かりました。では家族の元へ送りましょう。それでいいですね?艦長」


「ああ。俺としても構わんが、次の作戦がいつ始まるかわからん。できるだけ早く帰ってきてくれ」


 それじゃあこれで。と言って退室する艦長。セーマはオピスに「ついてきてください」と言われ、二人で母艦内にあった小型艦に乗り、セーマの家へと向かった。


 ―――――

 ―――

 ―


 結論から言うと、セーマは母艦“ビーサム”へ戻ることになった。セーマとオピスが家族に説明し、軍に入ることは光栄なことだと思っている父親が賛成したのである。母親は微妙な顔をしていたが、最終的にはセーマの意思を尊重する形で応援してくれた。セーマには妹がいるのだが、妹も「がんばって!」と応援していた。


 話が終わった後、両親がオピスを晩御飯に誘ってバランサ家は少し早めににぎやかな食事をとった。その後オピスはセーマの両親と少し話をして、日が落ちきる前にセーマとオピスはバランサ家を出ることとなった。


「それでは、このあたりで失礼します」


「僕も行ってくるよ。いつ帰ってこれるかわからないけど、元気に戻ってくるから」


 セーマの家族が見送りに外まで付いて来てくれた。


「あまり無理するんじゃないぞ」


「オピスさん、私たちの息子をよろしくお願いしますね」


 母親の言葉にオピスが答える。


「はい。最大限の努力はします」


「またね。おにいちゃん」


 セーマのもとにまだ小さい妹が歩み寄ってくる。


「お前も母さんをあまり困らせるなよ~」


 セーマは妹の頭をなでながら言葉を掛ける。


「……父さんは?」


 セーマは父親の言葉を聞き流し、気にしないことにした。お別れを済ませたセーマとオピスは、セーマの家族に見送られながらビーサムに帰還した。



 その後二人そろって艦長に小言を言われるのだが、それはまた別の話。

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