第3話 若輩者

 ***


 特徴的なアンテナを持つ機体──隊長機は目の前で構えている新型機に畏怖していた。


(2機とも一瞬で制圧された。奴の加速性能も驚きだが、。同じ人間が操っているとは思えん。それに背後から撃った弾を回避だと?化け物め…)


(これは一時撤退するべきか…?しかし、新型機の情報だけでは。何か他の情報を…)


 隊長はスピーカーのスイッチを入れた。


「貴様!所属はどこだ!どこに隠れていた!」


 返事は帰ってこなかった。敵機がライフルを構える。隊長はそれを返事だと受け取った。


 ***


 セーマは動揺していた。

 敵機からかけられた言葉を聞いて、もしかして敵ではなかったのではないか、という疑念が浮かんだのである。


(そういえば父さんから敵かもしれないって言われたけど、本当に敵だって確認したわけじゃない…)


(所属を聞いてきたし、もしかしてこの国の軍の人だったのかも…)


 動揺からか、アストレアを少し動かしてしまった。瞬間、対面していた機体が目の前に迫ってくる。

 殆ど反射で盾を構えるセーマアストレア。敵がいつの間にかライフルから持ち替えていたブレードがシールドと衝突し、火花を上げる。アストレアはシールドを横に薙ぎ、敵機を振り払った。


「これでもくらえ‼」


 セーマによる敵の着地を狙った発砲。しかし、敵は発砲を読んでいたのかスラスターを使って着地点をずらす。敵機は着地と同時に、ブレードを体を守るように構え、そのまま突進してくる。セーマはライフルで迎え撃とうとするが…


「た…弾切れ…」


 セーマは咄嗟に空のライフルを敵機へ投擲する。即座に弾かれるが、その隙に距離を取り、最初に踏んだ機体からブレードを奪うことに成功した。


 ***


 部下のブレードを奪い取った機体にじりじりと距離を詰める。

 隊長は敵機をエース級と定め、仕留める、もしくは撤退するための隙を作り出すことを最優先にしていた。


(しかし…この機体、ちぐはぐな印象を受ける)


 隊長は目の前の機体に違和感を感じていた。


(射撃の腕も、防御の技術も良い。だが、機体の操作は性能に引っ張られている印象を受ける。もしや、新型機ゆえの練度不足か…?)


 隊長はそこに勝機を見出す。機体の操作が完璧にできないことに加え、敵機にはもう射撃に使えそうな武装はない。同じ得物ブレード同士の戦いであれば、自身の方に利があると考えた。


 隊長は考えをまとめ、攻撃を仕掛けるタイミングを計る。


 敵機が一歩後ずさりしようとした瞬間、一気に機体同士の距離を詰める。敵機は驚いたようにシールドを構えるが、それを読んでいた隊長は機体をひねるようにしてシールドを回避した。彼の体をなかなかに強力な圧力が襲うが、鍛えられた体にはそこまで苦ではない。隊長はブレードを下から掬い上げるように一閃させ、敵の持つブレードを弾く。


「獲った!!」


 次の瞬間、敵機の腕が隊長の乗る機体の肩を抉る。隊長は半ば反射的にカークスを操作して敵機から距離を取り、抉られた方の手右手に持つブレードを反対の手左手に持ちかえる。


(まさか…素手で俺の機体の装甲を抉ったのか…?)


 信じられない。ふざけた話だ。そう思った。


 そもそもの話、他の機体の装甲を武器も使わずに手で抉るなど、聞いたことも無い。別にこの機体の肩部の装甲は特別脆いわけではない。しかしながらそれを可能とするこの機体は何でできているのか。彼我のパワーの差はどれぐらいなのか。底が知れなかった。


 アラーム音が隊長の耳に届く。熱原体接近のアラートだった。レーダーを確認すると、ニベ公国敵国の表示。隊長は即座にその場からの撤退を選んだ。


 ***


「た…助かった~」


 撤退していく敵機を見ながら、セーマは一息ついた。


 もちろんレーダーで接近するニベ公国軍の表示を見ており、セーマは自国の軍隊が救援に来たと思い、安堵の息を漏らす。


 セーマの真上まで近づくのはニベ公国軍の母艦の内の一隻。母艦は基本輸送船の五倍以上の大きさで、カークスを運用することも視野に入れて開発されている。


 母艦からカークスが三機ほど出てくる。セーマも見たことがある機体、ニベ公国の保有する量産機“モープ”が二機と、それを改良し性能が一回り以上は上の“モート”である。セーマはその三機に取り囲まれ、銃口を向けられていた。


「な…なんで?」


『そこの所属不明機、抵抗しないように。パイロット、聞こえているならコクピットから降りろ。』


 突然のことだった。しかし、セーマはそれに従うしかなかった。


『よし。これから軽く取り調べを行う。くれぐれも逃げ出そうなどと馬鹿なことは考えないように。』


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 機体紹介


 モープ


 ニベ公国(セーマの出身地)で多く使われている量産機。生産国はバルホール帝国。最近はカークスの平均性能が上がってきているため、時代遅れや老兵といった評価を受ける。


〈武装〉


 マシンガン(実弾)、バズーカ、ブレード、シールド等



 モート


 モープの発展型。生産国はモープと同じ。モープとほぼ同じコストで生産可能。また、ビーム兵器を使用することができる。カスタム機が多く存在する。


〈武装〉


 モープの装備可能兵器、エネルギーパック式ビームガン、ビームソード等

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